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加熱式タバコに「爆発発火」の危険性

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
写真:筆者撮影

 空気が乾燥し、火災が多い季節だ。経済産業省所管の独立行政法人製品評価技術基盤機構(nite)は、工業製品の品質や安全性などについて評価する組織だが、同機構は2017年7月にリチウムイオン蓄電池による火災が急増していると警告リリースを発表している。

急増するリチウムイオン蓄電池の事故

 このリリースによれば、2017年3月までの5年間に、ノートパソコンの電池110件、携帯端末の充電用モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件の事故が起き、機器やバッテリーが発火したり煙を発したりした。持ち運ぶ機会の多い製品なので、学校や病院といった不特定多数の人が集まる場所、また飛行機や電車の中でも事故が発生し、状況によって被害が拡大する危険性もあるとしている。

 米国の防火協会(National Fire Protection Associations、NFPA)が2015年に出した報告書(PDF)によれば、関知されていない事例も多いとしつつ、2015年にメディアによって報じられた電子タバコによる爆発や火災事故が15件あったとする。そのうち13件が爆発事故で、2つが発火事故だ。また5つの事例が火災につながり、3つの事例が喫煙時に、2つの事例で充電中に事故が起きた。また、12の事例が病院での治療の必要な怪我や火傷につながっている。

 米国消防庁(U.S. Fire Administration、USFA)が2017年に出した報告書(PDF)によれば、2009年1月〜2016年12月までに米国メディアにより報じられた電子タバコによる爆発事故は195件あり、そのうち133件が怪我や火傷などの事故で38件(29%)が重症だった。121件(62%)の事故が電子タバコや充電デバイスをポケットに入れていたり使用中の事故だったという。

 日本たばこ産業(JT)のプルーム・テック(Ploom TECH)はバッテリーにリチウムイオン蓄電池が内蔵され、USBチャージャー経由でACアダプターにつけて充電する。同社HPには「『Ploom TECHバッテリー』は、リチウムイオン電池を使用しています。リチウムイオン電池は、異常・故障があったまま充電を続けると、発熱し、場合によっては破損に至るおそれがあります」と注意書きがある。

 日本ではまだ加熱式タバコの電池爆発事故の報告はほとんどない。だが、東京都区部(23区)を管轄する東京消防庁は2016年12月22日に「リチウムイオン電池からの火災にご注意を!」(PDF)とよびかけた。

 このリリースによれば、リチウムイオン電池による火災事故件数は2011(平成23)年に4件だったが2016(平成28)年には50件と10倍以上になっている。

 電子タバコによる火災も2015(平成27)年に2件、2016(平成28)年に3件と微増している。この事例に加熱式タバコによるものが入っているかどうかわからないが、東京消防庁は今後、加熱式タバコの利用者が増えていくにつれ、事故の件数も増えることは十分に予想できるといっていた。

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東京消防庁の管轄内(東京23区)におけるリチウムイオン電池が原因の火災件数。この数年で急増していることがわかる(東京消防庁「リチウムイオン電池からの火災にご注意を!」より)。

電池爆発による怪我や火傷も多発

 利用者の急増とともに、リチウムイオン蓄電池を使う電子タバコなどのニコチン伝送システムが爆発し、口腔内をひどく傷つけたり火傷を負わせたりする事故も同じように増えてきている。研究者や医師たちは電子タバコや加熱式タバコの事故がこれから増えていくだろうと警告するが、米国など電子タバコの使用が急速に進んでいる国や地域では、特に爆発事故による口腔や歯に対する深刻なダメージが議論され始めた(※1)。

 米国ニュージャージーのクーパー大学病院(Cooper University Hospital)は、ロックコンサート中にポケットの中の電子タバコが爆発して足に重度の火傷を負った30歳の男性を治療している(※2)。また、米国のマサチューセッツ総合病院外科部門(Division of Burn Surgery, Department of Surgery, Massachusetts General Hospital, Boston)では、2ヶ月間に3人の患者(41歳、26歳、18歳、いずれも男性)を扱ったが、このうちの二人は電子タバコがポケットの中で爆発し、皮膚移植の必要な火傷を負い、一人は口にくわえているときに爆発し、顔面裂傷と歯の損傷、歯槽骨の骨折という重傷を負った(※3)。

 

 カナダ、トロントにあるサニーブルック健康科学センター(Sunnybrook Health Sciences Centre)の火傷専門科(Ross Tilley Burn Centre)の医師らは、電子タバコの電池爆発事故による怪我や火傷の症例を世界各国から集めた(※4)。この論文には多くの事例が報告されている。例えば、カナダでは2016年に16歳の少年が電子タバコの爆発で歯を2本吹き飛ばされ、顔に重度の火傷を負った。米国ユタ州の男性は2016年に電子タバコがポケットで爆発し、III度(全層)の熱傷を負っている。

 2012年1月〜2016年12月に起きた電子タバコの爆発により負傷した14人の患者を調べた症例報告研究(※5)によれば、火傷の大きさは体表面積の1〜6%で、ポケットに入れていた際に爆発したケースが多かったため、部位は太ももが多かったという。うち4人は皮膚の全層に火傷を負い、3人は皮膚の自己移植が必要だった。また、平均の退院日数は24.5日だった。

危険なサードパーティ製バッテリー

 フィリップ・モリス・ジャパン(PMJ)のアイコス(IQOS)の場合、ヒートスティックを差し込むホルダーとホルダーを充電するチャージャーの2つにバッテリーがあり、充電切れを恐れる喫煙者はまた別にモバイルバッテリーを持っていることも多い。AppleのiPhoneの電池問題でも取りざたされたように、リチウムイオン蓄電池は充放電を繰り返すと寿命が尽きる。

 充放電の回数は使用状態によって数千〜1万回ほどといわれているが、すでにバッテリー寿命がきてしまったアイコス・ユーザーもいるだろう。そのため、ネット通販では自分で交換する互換性のあるリチウムイオン蓄電池が売られ、交換の方法などもネット上で紹介されている。

 各製品の説明書には「分解しない」よう明記されているが、アイコスは買い換えると1万円近くするのでサードパーティ(他社製)の互換性バッテリーを使うユーザーも少なくない。前出の製品評価技術基盤機構(nite)はサードパーティ・バッテリーの事故や危険性を指摘(PDF)している。

 これによれば、サードパーティのアダプターやバッテリーによる事故が30件起き、付属品以外のバッテリーや充電器を使用する場合、充電時に異常な熱を帯びていないかどうか、確認しながら使用するべきとしている。当然だが、加熱式タバコの互換性バッテリーも他社製のサードパーティ製品だ。これら商品のネット通販の評価欄には、正常に充電できなかったというコメントも多い。

 電池工業会では「リチウムイオン電池をご使用の際は次のことを必ず守ってください」というHPで「リチウムイオン電池は指定された充電器、ACアダプターを使用してください。指定以外の充電器、ACアダプターで充電すると、充電条件が異なるため、発熱等の原因になります」などと注意を喚起している。リチウムイオン電池のデバイスを使用中、異常に気づいた場合は、デバイスや充電器からすぐに取り出し、使用しないことも大事だ。

 加熱式タバコを含むタバコというのは、実に摩訶不思議な商品だ。体内に取り込んで人体に影響を与える物質なのは確実なのに、その危険性や毒性については、なぜか吸う側、受動喫煙をする側が証明しなければならず、安全性や健康への影響を消費者の側が担保しなければならない。

 経済産業省は先日、モバイルバッテリーを電気用品安全法の規制対象にした。だが、加熱式タバコに関しては「容易に取り外すことができない状態で機械器具に固定」され、「消費者が電池交換することを想定していない」とし、このバッテリーの規制対象には含まれない。

 加熱式タバコもリチウムイオン蓄電池を使っている。たばこ事業法ではなく電気用品安全法や消費生活用製品安全法のカテゴリーに移し、認証制度を導入したり検査機関による検査を義務づけるなど、製造者の側が安全性を証明しなければ販売できないようにすべきだ。

※1:Rebecca Harrison, et al., "Electronic cigarette explosions involving the oral cavity." The Journal of the American Dental Association, Vol.147, 11, 2016

※2:Lee M Jablow, Ryan J Sexton, "Spontaneous Electronic Cigarette Explosion: A Case Report." American Journal of Medical Case Reports, 3 (4), pp 93-94. 2015

※3:C. A Colaianni, at al., "Injuries Caused by Explosion of Electronic Cigarette Devices." Eplasly, 16, 2016

※4:Jamie Harshman, et al., "Burns associated with e-cigarette batteries: A case series and literature review." Canadian Journal of Emergency Medicine, doi.org/10.1017/cem.2017.32, 2017

※5:Cameron JS. Gibson, et al., "Electronic cigarette burns: A case series." Trauma, doi.org/10.1177/1460408617738812, 2018

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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