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サッカーワールドカップの影響があちこちで…2018年6月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが。(写真:アフロ)

・現状判断DI(※)は前回月比プラス1.0ポイントの48.1。

・先行き判断DIは前回月比でプラス0.8ポイントの50.0。

・サッカーワールドカップの影響があちこちで見受けられるが、プラスにもマイナスにも働いている。人手不足は相変わらずで、燃料費の高騰への懸念も。

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2018年7月9日付で2018年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、人手不足、コストの上昇等に対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資等への期待がみられる」と示された。

2018年6月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス1.0ポイントの48.1。

 →原数値(季節調整が行われていない素の値)では「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.2。

 →詳細項目は「飲食関連」「製造業」「非製造業」が下落。「住宅関連」のプラス2.5ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」

・行き判断DIは前回月比でプラス0.8ポイントの50.0。

 →原数値では「変わらない」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは50.9。

 →詳細項目では「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」のみ下落。最大の下げ幅は「雇用関連」のマイナス2.9ポイント。基準値の50.0を超えている項目は「住宅関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復している。昨今ではやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から1.0ポイントのプラス、詳細項目では「飲食関連」「製造業」「非製造業」で下落。もっとも大きな下げ幅は「飲食関連」が計上した3.3ポイント、もっとも大きな上げ幅は「住宅関連」による2.5ポイント。あまり大きな動きでは無い。

景気の先行き判断DIは「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」のみが下げ。これらは前回月では他項目が下げた中で数少ない上げた項目であり、今回月の動きは反動によるところが大きいとの解釈もできる。下げ幅は「雇用関連」の2.9ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」のみ。

サッカーワールドカップと人手不足と

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・天候不良のときもあるが、気温の上昇が急激にあると、客のドリンクなどの買上点数、来客数ともに多くなるので、ややよくなっている(コンビニ)。

・高単価商品の稼働やボーナス支給を見込んだ購入が増加している。特に後半にかけて顕著になっている。インバウンドも引き続き好調である(百貨店)。

・気温上昇に伴って購入点数も上がっているなかで、肉の販売状況が好調である。特に、単価の高い商品が好調に推移している(スーパー)。

・月の中旬までは前年比で横ばいの推移であったが、サッカーワールドカップの1次リーグが始まってからは、やはり客がさっさと帰ってしまったり、テレビのある居酒屋に行ってしまい、極端に客足が悪くなっている(一般レストラン)。

・6月18日の大阪北部地震以降、宿泊やレストランの客が減少している。宿泊では海外客によるキャンセルがみられるほか、レストランは全体的に落ち込んでいる(都市型ホテル)。

■先行き

・中古車より新車を探す客が多くなっている。自動車用品も性能や機能の高い商品を選択する傾向が強い。景気がよくなってきたようである(自動車備品販売店)。

・猛暑の予報であり、ドリンク類や冷菓類の売上が好調に推移することが期待される。また、新しいコーヒーマシーンの製品も人気が出そうであり、来客数、客単価ともに改善することが予想される(コンビニ)。

・7月の大型客船の入港予定はめじろ押しで、商店街に訪日外国人客が流れてくることを期待している(商店街)。

・景気は悪くないのかもしれないが、客単価が上がらないなか、原材料費が高止まりしていることで、利益が上がってこないため、景気回復への期待感が余りない(高級レストラン)。

景況感は堅調なところが多く、先行きについては今年が猛暑であるとの予想が出ていることへの期待感が強い。季節通りの気候の方が、経済は活性化するのは定番のお話ではある。

今回月では6月半ばから始まったサッカーのワールドカップに伴い、少なからぬ影響が生じているようすがうかがい知れる。全国のコメント以外でも地域の詳細を見るに、「サッカーワールドカップの全試合放送は、若年層に髪型をまねる需要を喚起させる」「サッカーワールドカップが開催中で客の動きが止まっている。オリンピックや世界規模のスポーツイベントがあると客の動きが止まることは予想範囲内である」「サッカーワールドカップのある日は中継を入れている店舗はすごく盛り上がるが、平日はかなり販促をしても思った効果は出ていない」など、一様にプラスの効用が生じているわけでは無く、業態や環境次第でプラス・マイナスの結果が分かれて生じているようだ。

企業関連の景況感では堅調さを示す話がある一方、原材料費や人手不足による人件費の高騰に頭を抱える声が見受けられる。

■現状

・仕事の確保はできている。相変わらず、部品の納入は悪い。他の業態も同様に、部品の確保に苦慮しているようである(電気機械器具製造業)。

・運転手および構内の現業員が不足し、仕事を断らざるを得ない。人件費や軽油価格の高騰で利益も減少している(輸送業)。

■先行き

・不動産取引が増加しているという声を多く聞いている(司法書士)。

・新車販売でのピーク生産が2~3か月後に計画されていて、当初予算計画に対して増産になる(輸送用機械器具製造業)。

原油価格は上昇基調にあり、燃料費の高騰への懸念の声も見受けられる。人手不足は相変わらずだがこれを契機ととらえてほしいものだが。不動産取引の増加は工場誘致か、それとも相続の増加なのか。

雇用関連では人手不足に関わる多様な意見が見受けられる。

■現状

・派遣依頼は幅広い業種から好調に続いている(人材派遣会社)。

■先行き

・人手不足はかなり深刻な状況だが、改善の傾向が見られず、引き続き人材難が続くことが予想される(求人情報誌)。

さまざまな視点で人材不足の実情がうかがい知れるが、職を求める側にはよい状況に違いない。もっとも従業員を雇う企業側にとっては、人件費をこれまで以上に用意しないと人材の確保ができず、業務の拡大はおろか維持も難しくなるため、頭を痛めているところもあるのだろう。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計25件、先行き計64件、合わせて89件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好12件、やや良好25件、不変98件、やや悪い18件 悪い13件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

地域の詳細コメントには「求人告知の媒体がデジタル化しているためにデジタル化が遅れている中小企業はますます人材不足に追い込まれる」「改正労働者派遣法により定められた安定雇用措置で企業の負担が増える」「賃金上昇圧力が感じられない」との感想もある。経営者側が現状を正しく見極める能力を持っているか否か次第で、短期的な話はもちろん中長期的な視点でも、企業運営の根幹となる人材を維持できるかどうかのターニングポイントに立たされているような雰囲気が感じられる。

昨今問題視されている、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。

現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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