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北朝鮮が中国を名指し批判――中国の反応は?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平国家主席はどう出るのか?(写真:ロイター/アフロ)

3日、北朝鮮は中国が中朝関係を害していると初めて名指し批判した。これに関して中国共産党系の環球時報は「舌戦を展開する気はなく、北の核保有反対に変わりはない。核実験をすれば前代未聞の懲罰がある」とした。

◆北朝鮮が初めて中国を名指し批判

5月3日、北朝鮮中央通信社(朝中社)が中国を名指しで批判した。北朝鮮が中国を批判するのは、これで3回目。しかし、名指し批判をしたのは初めてのことだ。

中国共産党機関紙人民日報の姉妹版である「環球時報」の論評から、まず朝中社が中国に対して、どのような批判をしたかを見てみよう。なお、北朝鮮は自国のことを「朝鮮」と称し、韓国のことを「南朝鮮」と称するので、適宜、括弧で示す。

1. 朝中社が載せた批判論評のタイトルは「朝中関係を破壊するような妄動を続けるな」。

2. (北)朝鮮の核・ミサイル開発に関して、中国がアメリカと歩調を合わせることは許しがたい。

3. 環球時報は北朝鮮の核・ミサイル開発に関して批判したが、これは長年培ってきた中朝関係を破壊するもので、断じて許せない。

4. 環球時報は中国の東北三省が北朝鮮の核実験によって汚染されると批判しているが、これには科学的根拠がない。なぜなら、過去5回にわたる核実験において、朝鮮の近隣住民には、いかなる影響も出ていない。アメリカが最先端の探測機で調べても、放射能汚染のデータは出て来なかった。

5. 中国は南朝鮮(韓国)と(1992年に)国交を樹立したが、これは東北三省を含め、朝中の国境沿い一帯と韓国の連携により、対北朝鮮包囲網を完成したに等しい。

6. その証拠に、中国は抗日戦争勝利70周年記念日の軍事パレード(2015年)に南朝鮮の朴槿恵(パククネ)を招聘したではないか。

7.過去70年間の反米闘争の第一線において、中国内陸の平和安全を保ってきてあげたのはわれわれ北朝鮮である。中国は素直に北朝鮮の貢献を認め感謝すべきだ。

8.我々はアメリカの侵略と脅威から祖国と人民を死守するために核を保有した。その自衛的使命は今後も変わらない。

9.朝中友好がいくら大切でも、生命と同然であるような核と引き換えにしてまで、哀願する我々ではない。

10.中国は無謀な妄動がもたらす重大な結果について熟考すべきだ。

◆環球時報の評論

上記の朝中社の中国名指し批判に対して、環球時報は以下のような論評を書いている。

(1) 朝中社の中国非難は、「中国」「人民日報」「環球時報」という名指しをしたということ以外に、何ら新しい情報を含んではいない。中国が国連安保理の決議に沿って対朝制裁を行っていることに、一言も触れていない。それに対して、北朝鮮が次にどのような行動に出るかに関しても書いていない。ただ単に激情型論評に過ぎない。

(2) 平壌(ピョンヤン)は核問題に関して非理性的な思考に陥ってしまっているので、中国はこういった論調に対して、舌戦を繰り広げるつもりは全くない。

(3) 中国側は政府および民間人を含めた我々の立場を表明すれば、それだけでいい。それはピョンヤンに「中国が重視しているのは何か、レッド・ラインはどこにあるか」そして「もしも北朝鮮が新しい核実験をしたならば、前代未聞の厳しい制裁を北朝鮮に対して断行する」ということを知らせることである。

(4) 中朝の不一致(隔たり)は後悔論戦によっては、いかなる解決を見い出すこともできない。朝中社の論評から見出せるのは、「ピョンヤンは中国の大局的な外交路線における“国家の利益”が何であるかを理解していないということ」と「東北三省における(北が核実験をした時の)放射能汚染のリスクに関心を持ってない」ということ  だけである。

(5) 朝中社はおそらく、完全に閉鎖された環境下での北朝鮮の実感を表したものだろう。

(6) 中朝はハイレベルの対話を通して意思疎通を行う必要があるものと考える。核兵器を「北朝鮮の生命」とする過激主義から解放しなければならない。

(7) ピョンヤンが中国にどのような罵詈雑言をぶつけるかは重要ではない。肝心なのは、北朝鮮が次にどう出るかということだ。北朝鮮はまだ第6回の核実験を行なっていない。4月に行ったミサイル試射も抑制的だった。

(8) 中国はアメリカが朝鮮半島問題に関して対話に応じるための条件を創り出すという貢献をしたいと思っている。

(9) 中朝関係を決めるカギは北京の手の中にある。朝中社が名指しで批判しようと中朝関係に潜むロジックと中国の態度には、いささかの変化もない。ただ中国は、朝中社の論評の中から、北朝鮮の思考方法をより鮮明に掌握することができたし、核問題の解決は容易ではないことを、さらに深く理解することには役立った。

◆米中接近は効果を発揮している

以上、中朝双方の言い分を平等にまとめてみた。

ここから、4月6日の米中首脳会談以降の劇的な米中関係の変化が、北朝鮮に相当なプレッシャーを与えていることが読み取れる。

筆者が気になったのは、環球時報の(6)に書いてある内容だ。

「ハイレベルの中朝対話」というのが、どのレベルまでを指すのか?

米朝対話は、当然「トランプvs金正恩」を示唆することになろうが、中朝対話が、果たして「習近平vs金正恩」レベルにまで行くのかどうかは、逆に疑問だ。米朝よりも中朝の距離の方が遠い気がする。かつての中ソ対立のように、「骨肉の争い」というのは、他の敵よりも根が深く怨念に満ちている。せいぜい、六者会談レベルなのか、それとも「習近平vs金正恩」までいくのか、習近平の決意のほどを見てみたいものである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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