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え?電池切れ? 米大統領選討論会でのバイデン氏に中国ネット民は大はしゃぎ

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
出典:CCTVのビリビリ公式アカウント

 一週間も雲隠れして討論の練習に没頭したというバイデン大統領が、討論会本番であれだけ無様な様子を披露したのだから、バイデンはもうこれ以上にはなれないと、中国のネットは大はしゃぎだ。

 中共中央が管轄するCCTVがビリビリ動画サイトに持っている公式アカウントは「居眠りバイデン」を風刺し、中国共産党系の環球時報は「バイデンは撤退すべきでは?」という米メディアの報道を解説した。

 内政干渉になるので、いずれも中国自身の意見は表明しないが、しかし米報道の取り上げ方によって中国の本音が透けて見える。

◆CCTVのビリビリ動画アカウントでのトランプとバイデン

 中共中央が管轄する中央テレビ局CCTVは、中国のネット上で人気のあるビリビリ(bilibili)動画とかweibo(ウェイボー、微博)あるいはwechat(ウィチャット)の公衆号などに公式アカウントを作っている。

 そのCCTVのビリビリ公式アカウントが、6月28日<また電池切れ?トランプの嘲笑にバイデンの唇が震えてる>という見出しで、米大統領選第一回討論会の模様を風刺した。

 ここではバイデンが聞き取りにくい言葉で何やらボソボソ言っているため、CCTVの字幕を作成する人が「字幕已阵亡(字幕は沈没してしまった=何を言っているのか分からないので字幕を作成できなかった)」という字幕を入れている。それを図表1として示す。

図表1:バイデンの言葉が意味不明なので字幕沈没!

出典:CCTVのビリビリ公式アカウント
出典:CCTVのビリビリ公式アカウント

 このときトランプ(前大統領)が“I really don’t know what he said at the end of that sentence. I don’t think he knows what he said either”(いったい彼は終わりの方で何と言っているのか、私は本当にわからない。たぶん、彼も自分が何を言っているのか分かっていないと思う)と当意即妙に対応したのは、みごととしか言いようがない。

 同じく28日にCCTVはビリビリで<望海観潮 少なからぬ米国人から「災難」と呼ばれた弁論>という動画も発信している。その中で象徴的な画像を2枚、ご紹介しよう。

図表2:アコーディオン型スピーチに熱を入れるトランプと居眠りバイデン

出典:CCTVのビリビリ公式アカウント
出典:CCTVのビリビリ公式アカウント

 図表2のトランプ(前大統領)の頭上に書きこまれている「片手手風琴」は「片手アコーディオン」という意味で、トランプがスピーチするときによく両手を広げて横に伸ばしたり縮めたりしながら力説する動作を、中国では「手風琴型スピーチ」と称している。うまい表現だ。

 そのアコーディオンを弾く片手だけが見えていた瞬間、バイデンはと言えば、目をこすりながら「眠気を覚まそうとしていた」として、バイデンの頭の上には「必ず勝つ 私は誰? ここはどこ? 私はいま何をしているの?」と書いてある。

 ビリビリから、もう一枚切り抜いたのが図表3だ。

図表3:トランプに「口撃」されて、うなだれるバイデン

出典:CCTVのビリビリ公式アカウント
出典:CCTVのビリビリ公式アカウント

 これはアフガン撤退の時の米軍のさまに関して「米国史上最低の恥ずべき場面だ!」とトランプから「口撃」され、「もしも米国に尊敬される大統領がいたら、プーチンはウクライナを侵略などしていない!」と責めたてられて、うなだれてしまったバイデンの姿を切り取ったものである。

 どうした?

 バイデン!

◆環球時報 「バイデンは撤退すべきでは?」という米メディア報道を取り上げる

 環球時報は溢れるほどの米メディア情報を取り上げては解説しているので、その一つ一つをご紹介するのは困難だ。そこで環球時報が発信した情報のタイトルとリンク先だけを列挙してみよう。詳細をご覧になりたい方はリンク先をクリックしてご覧いただきたい。

 ●美国总统选举首辩 拜登和特朗普相互炮轰 网友:车祸现场 (米大統領選の最初の討論会 バイデンとトランプが互いを非難 ネットユーザー:まるで自動車事故現場)

 ●美媒民调:看完拜登特朗普首场电视辩论,多数选民认为特朗普表现更好 (米メディア世論調査:バイデン対トランプの最初のテレビ討論会を見た後、ほとんどの有権者はトランプの方がパフォーマンスが良かったと考えている)

  たとえばCNN調査では「トランプが良かった:67%、バイデンが良かった:33%」 

 ●美媒:拜登反驳对其辩论表现担忧,称“我觉得我们做的很好”(米メディア:バイデンは討論会のパフォーマンスに対する懸念に反論し、「われわれは実に良い仕事をしたと思う」と語る)

  討論会が終わるとバイデンは民主党陣営の前でスピーチし、急に勢い良くなっていた。バイデンはトランプの前では委縮するのだろうか?しかしバイデンに代わって勢いよくスピーチするジル夫人の姿を茫然と見つめるバイデンの目は、又もや「うつろに」なっていたが…。

 ●电视辩论表现欠佳,拜登遭媒体质疑:他能做的最大贡献就是退选(テレビ討論会での成績不振を受け、バイデンはメディアから質問責め:バイデンにできる最大の貢献は選挙から撤退することだ)

 ●拜登与特朗普首场辩论后,外媒透露:白宫工作人员非常沮丧,甚至不愿到岗上班 (バイデンとトランプの最初の討論会後、外国メディアは「ホワイトハウス職員らが激しく意気消沈し、出勤を嫌がる者さえ現れた」ことを明らかにした)

 ●回应党内质疑?首场辩论后拜登发声承认:我不是年轻人了 (党内の疑問に答えてか? 最初の討論会後、バイデンは「私はもう若者ではない」と認めた)

 ●全程充斥谩骂攻击,盟友看了都在摇头,大选首场电视辩论令美国人沮丧(終始罵倒と攻撃に満ちており、同盟国は首を横に振り、大統領選初のテレビ討論会は米国人を落胆させた)

 ●美媒:拜登在与特朗普辩论中表现不佳,竞选团队发言人称拜登不会退出竞选 (米メディア:バイデンはトランプとの討論会で低調だったが、陣営の広報担当者は「バイデンは選挙戦から撤退しない」と述べた)

 (環球時報の情報は以上)

 要は、バイデンの弁論はあまりに不評だったので、民主党内では「候補者を換えた方がいいのではないか」と囁き始めているが、しかしバイデン自身が撤退するとでも言わない限り差し換えるのは非常に困難なのに、バイデンは撤退する気配を見せていないということが、米メディアの分析として書いてある。

 ほかにも観察者網の<拜登与特朗普2024首场总统大选辩论结束,CNN民调出炉(2024年バイデンとトランプの最初の大統領選討論会後、CNNの世論調査が出た)>など、次から次へと情報が溢れ出ているが、多すぎるので省略する。

◆米誌TIME(タイム)が「さようなら、バイデン」を表す表紙?

 8月5日号の米誌TIME(タイム)が、以下のようなカバーで発売した。

図表4:TIME誌のカバー

出典:米誌TIME
出典:米誌TIME

 Panic(パニック)とのみ左上に書いて、それを背に去っていくバイデンの姿。

 そこには「さようなら、バイデン・・・」と書いてあるようで、この真赤な空間のなんと見事な使い方。惚れ惚れとするデザインだ。誰もが心動かされて買うことだろう。アメリカはいま分岐点に立っているのだから。

 香港の鳳凰網はTIME誌のカバーと概要を紹介している。内容を読むと、必ずしも「さようなら」とはいかないような側面もあり、しかし挽回の選択肢も多くはなく、候補者を差し換えるのも制度上難しいようだ。バイデンが自ら「辞退します」とでも言わない限り、恐怖のジレンマに陥ると書いてある。

◆なぜ中国はトランプの勝利を喜ぶのか?

 中国には「川大智勝」という名の企業がある。

 トランプは中国語では「特朗普(Te-Lang-Pu)」と正式の文書では書くが、巷では「川普(Chuan-Pu)」と書く方が多い。「川」という文字は、したがって、「トランプ」を連想させる。

 そのためか、6月28日に「川大智勝」社の株が急上昇した。その模様を図表5に示す。

図表5:「川大智勝」社の株が急上昇

出典:東方財富の株価ツール
出典:東方財富の株価ツール

 たしかに6月28日に急上昇している。

 「勝」という文字まであるので、「川(トランプ)が勝(勝利した)」という意味合いを出しているというだけで、庶民の気持ちがそちらに動いたのだろう。

 それにしても、なぜ中国はバイデンよりトランプを好むのだろうか?

 一般的な印象としては、トランプは型破りの大統領で正直者だと多くの若者が思っているという傾向にある。いわゆるインテリ層などをなぎ倒していく豪快さと、次に何をやるか分からないということが面白いらしい。

 そもそも北朝鮮の金正恩委員長と仲良くしたいとして会談したり、プーチンのことが好きだったりと、中国人には親近感を抱かせる。

 中国政府としては、どんなに高関税や制裁をかけられても、トランプは台湾の独立派をけしかけて、中国を武力攻撃せざるを得ない方向に持って行こうとはしないという意味で、バイデンよりはトランプの方がマシ、という気持ちがあるものと推測される。その詳細は拙著『嗤う習近平の白い牙』の【第一章の二 もしトランプが大統領に当選したら台湾有事はどうなるか?】で述べた。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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