解説本件は、被告人の犯行時における精神状態が心神喪失(又は、心神耗弱)の状態であったかどうかが主な争点とされ、第一審は、被告人には妄想性障害があったとの事実を認定した上で、その障害は動機の形成に影響を与えたとしつつ、犯行そのものへの影響は小さいとして、弁護側の主張を退けました。弁護側が判決後に控訴していましたが、第一審の右判断には誤りがあると主張し、それを根拠付ける資料(証拠)として、別の専門家による意見書を提出したとのことです。 刑事裁判で控訴するためには、第一審において事実を誤って認定した、手続に法令違反があったなどを主張することになります。その際に、新たな証拠がなくても、旧証拠から判断の誤りを根拠付ける事実を指摘することでよいのですが、それだけでは、やはり説得力を欠くことが通常です。そのため、本件のような判断の誤りを主張する場合には、新たな鑑定人の意見書を提出することが多いようです。
コメンテータープロフィール
旅行会社勤務を経て29歳で立命館大学に入学し、3年生の時に司法試験に合格。卒業後は京都大学大学院法学研究科に進み、刑事法を専攻。2005年に近畿大学法学部専任講師となり、現在は教授。2011年から2012年にかけて、ドイツ・アウクスブルク大学客員教授を務める。専門は刑事法全般(特に刑事訴訟法)。著書は、『刑事訴訟法』、『刑事手続における審判対象』、『刑事弁護の理論』(全て単著)。法学博士。趣味は洋画鑑賞、水泳、見る将(大山・中原時代からの筋金入り)。