解説本件の事実が報道どおりだとすると、容疑者の行為が違法であり、被疑事実の詐欺罪として可罰的である点に問題はなさそうです。ただし、詐欺罪はその客体が財物(246条1項)か利益(同2項)で区別されることになっていて、本件がそのいずれに対するものであるかは、検討の余地がありそうです。 まず、朝食という「物」を、従業員を騙して「交付」させたとすると、1項の詐欺罪が成立します。しかし、ビュッフェ形式の場合において、従業員が定食の場合と同様に特定の食事を提供したとするのは、やや無理があるように思われます。それゆえ、そのようなサービスを受けることができる利益を、入場口で不正入手した食券を提示することによって従業員から許可された(処分行為といいます)と考えるのが適当だろうと思われます。 本件を担当する検察官がいずれをもって「罪となるべき事実」として構成するか、注目される事件です。
コメンテータープロフィール
旅行会社勤務を経て29歳で立命館大学に入学し、3年生の時に司法試験に合格。卒業後は京都大学大学院法学研究科に進み、刑事法を専攻。2005年に近畿大学法学部専任講師となり、現在は教授。2011年から2012年にかけて、ドイツ・アウクスブルク大学客員教授を務める。専門は刑事法全般(特に刑事訴訟法)。著書は、『刑事訴訟法』、『刑事手続における審判対象』、『刑事弁護の理論』(全て単著)。法学博士。趣味は洋画鑑賞、水泳、見る将(大山・中原時代からの筋金入り)。
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