補足2020年より前の教育課程でも,小学校5・6年に英語教育がありました。ただ,「外国語活動」という特殊な時間で,,「英語を教え込まない」ことがモットーでした。2020年の改革により,5・6年の英語教育は正式な教科に「格上げ」され,その結果,中学校では,小学校で学んだ(とされる)内容を土台にさらに発展的な内容を付け足すことになりました。事態をややこしくしているのは,小学校では,教科化された後も,「教え込まず,コミュニケーションを通して学ばせる」という全体的な方向性が維持されている点です。この方針には一理あって,小5から突然ビシバシ教え出すよりも,児童の学習意欲に配慮して徐々に英語に慣れさせたほうが賢い選択でしょう。しかし,こうした事情が中1ギャップの背景のひとつであることも事実です。何かを改善すれば別の何かが犠牲になるので,抜本的な解決は難しそうです。
コメンテータープロフィール
関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。