解説殺人自体は何ら正当化できませんが、被疑者を擁護するとか被害者を叩くといった偏った視点に立つのではなく、殺害の経緯や動機を含めて一体何があったのか、真相を解明し尽くすのが捜査のあり方です。 この事件で最も重要なポイントは、男が女性に大金を渡したという話は事実か、事実なら回数や金額、渡した経緯や理由、使い道のほか、返金や精算はどうなっているのかという点です。 警視庁による2022年の逮捕の経緯、特に「ストーカー」として認定したこと自体の是非も問題になるでしょう。当時、男と女性との間の金銭問題について警察がどこまで真摯に捜査を尽くしたのか、男が神奈川県警に詐欺被害を訴えていた件は結局どうなったのかという点です。 このときはまだ女性は生きていて事情聴取や裏付けができたわけで、もし警視庁が男を逮捕までしたのに十分に解明しないままで終えていたのなら、「手抜き捜査」のそしりを免れないでしょう。
コメンテータープロフィール
1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。