問題は、通告件数が増加しているにも関わらず、保護件数自体は増えていないこと。その理由については意見が分かれている。まず、通告が増えただけで、酷い虐待は増えていないという見解がある。通告がすべて深刻な虐待に当たるとは限らないわけで、児相が対応し、保護が必要だと判断した時点で、統計上ははじめて要保護の虐待としてカウントされる。従って、統計上は酷い虐待の件数は増えていないことになる。 だが、もう一つの見解によれば、児相は10倍にも膨らんだ相談の対応が追いつかず、昨今の事件で問題となっているように、酷い虐待のある場合にも保護できないでいる。実際に、児相職員の数は10年で2.5倍程度にしか増えておらず、過酷な勤務実態が問題化している。初期対応で深刻な虐待を把握できないケースが増えていてもおかしくない。これを傍証するように、国際比較では日本の貧困率に対する虐待保護件数が際立って低いとの指摘がある。
コメンテータープロフィール
NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。
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