見解法元さんはその著書で、入団発表で初めて名古屋に来た高校生井上一樹の素朴な横顔を愛情をもって紹介している。当時の中日ビル屋上にあった展望レストランで食事をした際、フロアがゆっくりと回ることを知らずにいきなり「あれっ、ビルが動いています!」と叫んだり、寿司屋のネタの値段のあまりの高さに一人前と思って次の握りが来るのを待っていたり。快活でくったくの無い性格はルーキーの頃からであったことが伺い知れる。ドラフトの成功とは何を指すのだろうか。投手として指名された井上新監督はやがて打者に転向、記憶に残る活躍はするものの現役時代は不動のレギュラーとは言えなかった。しかし、指導者に転じてからの勇躍ぶりは水を得た魚の様である。野球に対する情熱に溢れ人望も厚い人材はやがてセカンドキャリアでチームに貢献する。与田投手も現役は短命であったが、指揮官に転じた。1989年のドラフトは2人の監督を生んでいる。成功である。
コメンテータープロフィール
中央大学卒。代表作にサッカーと民族問題を巧みに織り交ぜたユーゴサッカー三部作。『誇り』、『悪者見参』、『オシムの言葉』。オシムの言葉は2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞、40万部のベストセラーとなった。他に『蹴る群れ』、『争うは本意ならねど』『徳は孤ならず』『橋を架ける者たち』など。
関連リンク(外部サイト)