覚醒剤密売1億円売り上げも「追徴金、とても払えない」…暗号資産化などで膨らむ未収
刑事裁判の被告から犯罪収益を取り上げる追徴金の徴収が進まず、累積未収額が大幅に膨らんでいる実態が明らかになった。読売新聞が最高検への情報公開請求で入手した資料では2023年度末時点で1251億円。未収のままだと被害回復も妨げられ、専門家は徴収権限の強化の必要性を訴える。(林信登) 【図表】1326億円のうち1251億円が未収
「全て使った」
「判決を聞いた瞬間、とても払える金額ではないと思った」 覚醒剤取締法違反などに問われ、昨年11月に大阪高裁で懲役9年、追徴金約1億2400万円の判決を受けた男(40)は大阪拘置所で読売新聞の取材にそう語った。 判決は、男が密売組織を作り、1億円超を売り上げたと認定。男は最高裁に上告しているが、「金は経営していた会社の事業で全て使った。支払える見通しはない」と話した。 各地検は主に組織犯罪を対象に、被告の役割や財産状況を踏まえ、公判で追徴金を求刑するかどうかを判断している。一方、薬物の密輸・密売や汚職事件では、麻薬特例法や刑法で必ず追徴するよう規定されている。 検察は起訴前後や公判中、金融機関に口座凍結を依頼するなどし、財産を差し押さえる「保全」の手続きを活用。判決確定後は、検察事務官が被告の関係先を訪問したり、納付を求める文書を送ったりしている。 しかし、検察幹部によると、男のように資産を使い切ったり、犯罪組織の上位者に渡したりし、支払い能力のないケースが多い。被告の行方がわからなくなることもあるという。
追跡困難
近年は、マネーロンダリング(資金洗浄)で捜査機関の追跡を逃れようとする動きもある。 大阪府警が昨年摘発した犯罪グループの口座には、オンラインカジノの賭け金などが月約100億円入金されていた。だが、大半が海外口座に移されていたため、現地の捜査当局との連携が壁となり、追い切れなかった。 別の事件では、特殊詐欺で被害者から振り込まれた金が、匿名性が高く取引履歴の追跡が困難とされる暗号資産に交換されていたという。検察幹部は「犯罪収益が流動化しており、暗号資産まで使われたら後の祭りだ」と漏らす。