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経産省の女性トイレ制限撤廃 民間企業や公共施設のトイレはどうなる? #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

戸籍上は男性で女性として生きる職員に対する女性トイレの使用制限を経済産業省が撤廃しました。制限を違法とした最高裁判決や新たな人事院判定に基づく措置です。ネット上では「トランスジェンダーの権利を尊重し、社会全体が受け入れるべきだ」といった意見が示される一方で、「女性トイレの安全性とプライバシーが損なわれる」などと懸念する声も上がっています。判決の射程範囲を含め、参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「最高裁が性的マイノリティーの人たちの職場環境に関する訴訟で判断を示した初めてのケース」
出典:NHK 2024/11/12(火)

「どの人が性同一性障害の職員なのか特定できる状況だった」「不特定多数が出入りする場所とは異なるという前提での判決」
出典:e-falcon 2023/8/6(日)

「あくまで当該事案における個別的な判断」「今後も(中略)性的マイノリティの就業環境をめぐっては、個別具体的な調整が必要」
出典:日本労働弁護団 2023/7/31(月)

「不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設(トイレを含む)に関しては(中略)最高裁判決の射程外」
出典:大江橋法律事務所・大江橋ニュースレター2023年10月号 2023/10/1(日)

エキスパートの補足・見解

判決は提訴した職員や当時の職場環境などを踏まえた上での個別の紛争に対する判断にすぎず、あらゆる女性トイレに応用される話ではありません。民間企業などで同様の問題が生じたときにどう対応すべきかについては、判決に関与した裁判官による次の補足意見が参考になります。

「職場の組織、規模、施設の構造その他職場を取りまく環境、職種、関係する職員の人数や人間関係、当該トランスジェンダーの職場での執務状況など事情は様々であり、一律の解決策になじむものではない」

「現時点では、トランスジェンダー本人の要望・意向と他の職員の意見・反応の双方をよく聴取した上で、職場の環境維持、安全管理の観点等から最適な解決策を探っていくという以外にない」

「この種の問題は、多くの人々の理解抜きには落ち着きの良い解決は望めないのであり、社会全体で議論され、コンセンサスが形成されていくことが望まれる」

わいせつ犯や盗撮犯などを含め、不特定・多数の人が出入りできる公共施設の女性トイレの場合には、外見が男性なのに「心は女性だ」と銭湯の女湯で入浴するケースと同じく、一層慎重な対応が求められるでしょう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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