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長谷川美祈

「ホムパ」に「闇系」 進化する女子会のいま

2017/04/26(水) 12:20 配信

オリジナル

いまも街のいたるところで「女子会」が行われている。女性にとっては、なんの不思議もない、当たり前の集まりだろう。しかし、男性から見れば「秘密めいた」会合でもある。女子会とはなんなのか。2組の大学生グループの女子会に密着し、その最前線を取材した。
(ライター・斉藤真紀子/Yahoo!ニュース 特集編集部)

レンタル部屋でホムパを実現

「もう少しにぎわっている感が欲しくない?」

成城石井で買い求めた料理に、誰一人として手をつけようとしない。4人はスマートフォンを構え、ずっと写真を撮り続けている。各々、皿の位置を寄せる。ライトの当たり方を変え、撮り続けること30分。大きな歓声が上がった。

「きたきた! これいい!」

料理は写真映えする色合いを考えてそろえた(参加メンバーからの提供)

アングルにこだわり抜いた末に、理想の「絵柄」を見つけだした。小野寺望さん(21)は、この日撮った写真はインスタグラムに上げるという。写真のテーマは「上質な暮らし」だ。アカウントには、センスがよくて、高級感のあるものを載せたいと言う。

「おしゃれ感」をいかに出すかが撮影のポイントだ(撮影:長谷川美祈)

この晩、青山学院大学に通う4年生の小野寺さんら4人は、「ホムパ女子会」、すなわちホームパーティー女子会をするために集まった。場所は、渋谷にあるワンルームのビンテージマンション。ウェブでレンタルスペース仲介サービスを手がける「スペースマーケット」を使ってレンタルをした。間接照明で照らされたテーブルの上には、総菜のほか、ピザ、キッシュ、ゆで卵とクレソンのサラダが並んだ。

お酒はほどほどで、撮影とおしゃべりがメインだった(撮影:長谷川美祈)

30分間の撮影を経て、ようやく料理に手をつける。4人は就活や学校のこと、芸能ニュースの話に没頭した。この日の女子会メンバーの構成について、小野寺さんはこう話している。

「就活をしている業界や、キャラがかぶらないメンバーで集まるのが、一番話しやすい。キャラがバラバラな方が話は盛り上がるんですよ」

話すあいだ、スマホから手を離すことはなかった(撮影:長谷川美祈)

「女子会」。この言葉が広く使われ始めたのは2010年だ。この年、飲食店の女子会プランが拡大をとげると、新語・流行語大賞トップテンに選ばれた。当初は、レストランやカフェなどで仲良しの女性たちが集まるのが定番だが、近年の場はさらに多様性を増している。きらびやかな高級ホテルでランチ。夜の遊園地やプール、貸衣装のある写真スタジオ。昼間の公園だって舞台になる。カラフルな飾りつけをし、お弁当をかこむ「おしゃピク」(おしゃれなピクニック)というものも登場した。そのありようは次々に変化する。その担い手は誰なのか。

レンタルスペースで部屋を借りれば、みんなが集まりやすい(撮影:長谷川美祈)

大手広告会社アサツー ディ・ケイの藤本耕平さん(37)は、若者マーケッター集団「ワカスタ」で、高校・大学生の消費行動を研究してきた。藤本さんは「変化の担い手は、20代前半の大学生です。1年前に流行ったものはもう古い、そんな声すら聞きます」と話す。いまの大学生女子の関心はどこにあるのか、と聞くと「重くない、気軽な非日常」(藤本さん)。ホムパ女子会は代表例という。

「この世代は、SNS上で友達とのコミュニケーションを日々行っていて、自分と友達との関係性が可視化されるからこそ、友だちとの関係をとても大切にする。恋愛が最優先になるかといえば、決してそうではないから、集まるとなったら女子会が受け皿になるんです。この場は、どれだけ多くの友だちに大切にされているかの証しでもあるんです」(藤本さん)

インスタグラムの写真の並びには、こだわりがある。自分らしさと合わないシーンは、載せない(撮影:長谷川美祈)

高校時代と比べて、お金や時間で多少なりとも融通がきくようになった大学生は、写真映えを重視し、次々と新たな女子会の場を切り拓いてきた。ホームパーティーで選ばれる料理には特徴がある。ホームパーティーの普及・推進を行う、一般社団法人日本ホームパーティー協会代表・ひでつうさんは、こう話している。

「家であろうと外であろうと、写真が大事ですから、『大きさ』『カラフルさ』『かわいさ』の3点が求められるようになっているんです」

たとえば女子会で人気のチョコフォンデュは、大きな鍋、フルーツ、チョコレートソースが3要素を満たしている。鶏肉料理なら1羽をまるごと調理したホールチキンも人気だ。これも、盛りつけ次第でカラフルさ、かわいさを主張できる。ひでつうさんは、こうも付け加えた。

ホムパはアットホームな場だが、非日常を演出することもできる(撮影:長谷川美祈)

「家で開くパーティーでも、非日常の場。つまり『ハレ』の場なんです。人によっては、週に何度もハレの日というケースもあるのではないでしょうか」

女子会という「市場」

女子会という、ハレの日需要に対して企業も力を入れてきている。カラオケ・レストラン事業などを手がけるニュートン・サンザグループ(東京都新宿区)だ。経営する「カラオケパセラ」には、誕生会やハレの日がきっかけで行われる女子会も少なくない。ハニートーストに名前やお祝いメッセージを入れて撮影し、写真のプレゼントまで行う。なかでも、3時間の個室貸し切りプランが人気だという。営業推進室・佐々木一仁さんはこう話す。

「ハロウィン時期に限らずコスプレ衣装の貸し出しや、個室を装飾して撮影出来る『デコレーションルーム』での女子会も好評です」

カラオケパセラで貸し出される個室の例(提供:ニュートン・サンザグループ)

それだけではない。リムジンに乗って撮影も楽しめる「無料リムジンクルーズ付き女子会」もヒットした。グループ企業が経営する「ホテルバリアンリゾート」では「お泊まり女子会」も手がけている。同社は、なぜここまでして、女子会に入れこむのか。佐々木さんの答えは極めて合理的だった。

「個室で長時間おくつろぎいただける、パセラ専属パティシエのスイーツが提供できる、勿論カラオケニーズもあり、女子会とパセラのハードやソフトの相性が抜群に良かったんです。また3~5名さま、それ以上のご利用も多く、女子会の商品開発は主要な柱と考えています」(佐々木さん)

テーブルを囲む人数が多い――。この事実は、データも裏づけている。前出の一般社団法人日本ホームパーティー協会の調査で、「何人くらいの女子会がよいですか」の問いに対し、61%が「5人くらい」と答えているのだ。次いで多いのは、「8人くらい」「3人くらい」の14%だ。平均で、4~6人が「望ましい参加人数」といえる。

リムジン女子会はニュースにもなった(提供:ニュートン・サンザグループ)

つまり女子会は、一組あたりの人数が多いという、強みがあるのだ。

全国カラオケ事業者協会によると、1995年に5850万人とピークを迎えた利用者数は2009年に4640万人にまで減り、2010年をメドに微増に転じているものの、佐々木さんは「今後、深夜のカラオケ利用が増える予測はたてづらい」と言う。そうであるからこそ、「女子会」に代表される、女性から選ばれるサービスの付加価値づくりは重要だと見ている。

「特に日中ですが、今後は安心してお子様連れで利用できる、お店作りにも力をいれています。若年の独身女性のみならず『ママ友・ママ会』ニーズにも応えていきたいです」(佐々木さん)

異性がいないからこそ、話せることがある(撮影:長谷川美祈)

気の合う同性同士で、近況を次々報告しあう。異性がいる場面ではしづらい話も、ここでならオッケーだ。だが、本音の話に内側に見え隠れする、女子会特有の探り合いもある。よく指摘されるのは同性間の「マウンティング」といわれる心理戦だ。「女子会疲れ」の遠因になっているとも言われる。

マウンティングとはなにか。漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんによれば、「お互いの幸せ度を比較しあって、自分の優位性を確かめる」ことだ。

「確かにあります。古くは、深夜枠コメディードラマ『やっぱり猫が好き』(1988年)の主人公3人姉妹が繰り広げる『本音トーク』にまで、さかのぼることができます。あのドラマでは、気の合う仲間が互いに近況報告しながらも、実は幸せ度を探り合っていた」

なにごとにも光と影がある(撮影:長谷川美祈)

その後、日本でも放送された米国ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」(1998~2004年)でも、ニューヨークのキャリア女性4人が互いに恋愛話をしながら、一方では都会で働く充実感を確認していた。翻って近年、SNSの発達が女子会に「新しい緊張感をもたらしている」(辛酸さん)。たとえば、芸能界。女性タレントが開いている「〇〇(名前)会」や、「ママ友会」がある。こういった場所で撮影された画像は、瞬間的にSNSやブログに投稿される。

「誰が呼ばれていて、誰が呼ばれていないのか。一目瞭然なんです」(辛酸さん)

キラキラ女子会への反動も

この女子会をめぐる緊張感は、日本に限ったことではない。

「アメリカの人気歌手、テイラー・スウィフトの周りに『テイラー軍団』がありますが、参加者がライバルのケイティ・ペリー(歌手)と仲良くすると外される、なんてニュースもありました。呼ばれないのはさびしいが、呼ばれたら呼ばれたなりの緊張感もある」(辛酸さん)

探り合いやマウンティング。こういった「気づかい」に対する反動も出てきている。いま、「闇系」と呼ばれる女子会も生まれているのだ。

新宿で、闇系女子会が始まった(撮影:長谷川美祈)

ある晩。早稲田大学の理系学部に通う3年生・酒井くるみさん(20)は、同じ大学の先輩、ミサキさん(22)、レイコさん(22)と一緒に、あたり一面をネオンの光がつつむ東京・新宿の歌舞伎町にいた。3人が向かうのは雑居ビルの飲食店。黄色く発光する看板には、「ひげガール」の二文字が輝いている。老舗のおかまバーだ。3人は、ここで何をしようというのか。

「おかまバーで女子会をしている同世代の話を聞いたことがあります。キラキラした女子会ではしゃべれないような、本音だけの闇系女子会をやりたい」(酒井さん)

入店。酒井さんらが席に着くと、「おねえさん」たち3名がテーブルについた。先輩のレイコさんがこう言った。

「好きな男の子の本命になりたい。どう落とすか教えてください」

「おねえさんたち」は、巧みな会話で酒井さんたちをリードしていく(撮影:長谷川美祈)

おねえさんたちは、素早くこう返してくる。

「えー、ライバルを闇討ちするとか」「ドリンクを同じタイミングで飲み干せばいいじゃない。ミラー効果といって……」

酒井さんらの悩みに対する、おねえさんたちの話芸に切れ目はない。恋愛にとどまらず、あけっぴろげな性の話題にいたるまで縦横無尽。酒井さんたちから、どっと笑い声が何度も起きる。圧倒され、幸せ自慢をする余地はない。こういった話題でありがちな、同性だけでは引いてしまうものでも、ここでは自然と通ってしまう。参加していたレイコさんはこうつぶやいた。

ステージでダンスショーがはじまった。室内は輝きにつつまれる(撮影:長谷川美祈)

「おねえさんたちが会話を回してくれるのが心地よい。話は上手で楽しいですし。自分たちだけで話を回すのって疲れるんです」

毒舌こみのきついツッコミも、おねえさんからの一言なら別だ。むしろ、心地よいというのだ。この晩3人は、会話に夢中で店内で撮影はほとんどしなかった。

もはや女子会は、キラキラ系だけではない。本音を吐き出す闇系だってある。女性を取り巻く社会環境の変化やテクノロジーの進展に合わせて、まだまだ女子会の変化は続いていくだろう。

闇系女子会の解散とともに、一日は終わった(撮影:長谷川美祈)


斉藤真紀子(さいとう・まきこ)
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集スタッフ、ニュース週刊誌「AERA」専属記者を経てフリーに。ウェブマガジン「キューバ倶楽部」編集長。

[写真]
撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝

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