YouTubeやツイキャスなどでのグループの動画総再生数が26億回を超えた、ネット発の男性6人組エンターテインメント集団「すとぷり」。基本は顔を出さずに、アバター代わりのイラストで活動しつつ、ライブや握手会でのみ素顔のメンバーに会える。そんな独特の「2.5次元」スタイルも手伝って、どこか謎めいた雰囲気が漂う。中高生を中心に熱心なファンを抱えるすとぷりが支持される背景を探った。(取材・文:宗像明将/撮影:林晋介/Yahoo!ニュース 特集編集部)
ジャニーズ? LDH? イラスト版K-POP?
2016年にななもり。(25)を中心に、インターネットで活動する6人で結成されたすとぷり。ふだんはイラストのキャラクターをまとい、ツイキャスやYouTubeなどでの生配信をベースに、音楽活動もこなす。「インターネットにいる2次元アイドル」と形容されることもあるが、リーダーのななもり。は否定も肯定もせず、「皆さんが好きな形で楽しんでいただけたら」と笑う。
潮目が大きく変わったのは昨年だ。3月に『すとろべりーすたーと』でCDデビューしたのを皮切りに、企業コラボで全国のファミリーマートの店頭を飾ったほか、メットライフドーム公演2DAYSや初の全国ツアーを成功させた。「日経エンタテインメント!」2019年12月号に掲載されたライブ動員データでは、「デビュー3年以内アーティストTOP5」の5位にランクインしている。
Yahoo! JAPANの検索データを調べると、「すとぷり」で検索しているのは圧倒的に女性。かつ10代と40代が多い。ジャニーズのアイドルのように、親子でファンになって楽しんでいるのではないか――という仮説をぶつけると、ななもり。は笑顔でうなずいた。
「『親子で応援しています!』と言ってくださるリスナーさんも増えてきたと感じています。ただ、親御さんに『そんな何だかわからない人なんてやめときなさい』って言われてしまったりして、歯がゆい思いをしてしまったリスナーさんがたくさんいるのも知っているんです。僕たちがリアルに出ていくような活動をする理由のひとつは、リスナーさんが胸を張って『好き』と言えるようなグループになるためなんです。このインタビューでも、リスナーさんだけでなく、親御さんにもメッセージを届けたいんです」
「親御さん世代には、ジャニーズさんっぽいとか、LDHさんっぽいとか、イラスト版K-POPっぽいとか、いろんな形で形容されることが多くて。でも、すとぷりは動画配信が基盤で、そこからいろんな活動を届けていける6人が集まった、エンターテインメントグループです。『Vチューバーです』とか『ユーチューバーです』とか、わかりやすい名称のようなものがないので、最近はとても悩んでいますが……」
生配信には嘘がない
すとぷりのメンバーはもともと、トークをメインにした『企画生配信』をしていたななもり。をはじめ、ゲーム実況が得意なころん(24)やさとみ(27)、オリジナルアニメ動画を投稿していたジェル(24)、音楽活動をしていたるぅと(22)や莉犬(22)と、異なるジャンルで活動していた。すとぷり結成後も、メンバー個別でも活発に生配信をし、グループでCDリリースやライブ活動もする。ジャンルを超えた活動形態を、ななもり。はどういう経緯で思いついたのだろうか。
「いろんなジャンルの『活動者』が集まったグループを、僕が見たかったんです。ネットで活動されている方で、いろんなジャンルが交わるケースが意外と少なくて。視聴する方も、『歌ってみた』と『ゲーム実況』と『顔出しをするユーチューバー』とで、島のように分かれている感じがしていて。他のジャンルの活動者さん同士が交わるとファンの方が不安になるような時代もあったんですね。僕も、(トークの企画配信をしていた自分が)歌うことに対して『そんなアイドルっぽいことしないでほしい』って言われて、『自分が今までやったことのない活動をすると不安になる方もいるんだ』と思ったこともありました。ネットは自由な場所だと思っていたものが、実際は少しずつ窮屈になりつつある感じがしていて、モヤモヤしていて……。『もっと楽しいことができるんじゃないかな』っていう気持ちが高まったときに、みんなに声をかけて結成したんです」
その結果すとぷりは、グループ全体での動画総再生数が26億回を突破。すとぷり「本体」の動画だけでなく、メンバー各自の動画の再生数も相乗効果のように伸びたからだ。結成からわずか約4年で、なぜここまで支持を集めるのか。ななもり。は言う。
「すとぷりとして動画の生配信をメインに活動をするなかで、見てくれるリスナーさんにダイレクトに言葉を届けることが増えていきました。すとぷりのオリジナル曲には、ストレートに『ありがとう』や『好き』を伝える曲がたくさんあるんです。もともと僕も学生時代に、友達や恋人や家族に感謝の気持ちを伝えるようなことって、特別なタイミング以外になかなかなかったんですよね。すとぷりとして活動していると、リスナーさんから動画配信のコメントやツイッターなどのコメントで直接感謝の気持ちを伝えてもらえる。だからこそ僕たちも日常的に素直な『ありがとう』を伝え続けたいと思えるんです。僕たち6人とリスナーさんの思いが重なりあって、今のすとぷりの活動があると思っています」
「もうひとつは嘘がないというか、ありのままをそのまま届けていることだと思っていて。例えば、収録した動画ならため息を編集でカットするのは簡単にできますし、やり直しをさせていただけると思うんです。でも、僕たちの場合は生配信なので、編集ややり直しはできないんです」
中高生が春休みや夏休みになる時期には長時間の生配信を行い、2019年には192時間ものリレー生配信を実施。今年予定していた3月のナゴヤドーム公演、夏の東京ドーム公演も生配信で準備の様子を届けていた。生配信こそがすとぷりの魅力だと、メンバー全員が言い切る。
「僕たちは毎週日曜日に集まって生配信をしているんですけど、公式放送がない日も毎日、誰かメンバーが配信しているんです。メンバーのソロの配信も合わせて、週15回とか。動画やツイッターの投稿を全部合わせると、リアルタイムな情報が、ものすごいボリュームでどんどん届いていくんです。応援してくれているリスナーさんも追うのが大変なんじゃないかっていうぐらいです(笑)。完璧なものを届けるというよりは、自分たちの届けたい思いをリアルタイムで全部お話ししています。武道館やドームでのライブって聞くと、すごく遠いことのように感じると思うんですけど、準備をしているお話を聞いていただいたり、風景の写真や動画を見ていただいたりすることで、僕たちも一体になって前に進めている感じがしていて、リスナーさんも同じ気持ちでいていただけているんじゃないかなと思います」(ななもり。)
「配信ならではの魅力を、世の中の人にあまり理解されていないのかなって思うんです。配信だと、まるで友達や恋人のように、リスナーさんと本当に近い距離感で接することができて。そんな配信ならではの魅力を感じとってくれたリスナーさんがすごく来てくれるようになったのかなと思いますね」(ジェル)
「僕たちが掲げているグループとしての目標が、友達や恋人や家族に『好き』と胸を張って言えるようなグループであろうというものなんです。リスナーさんの一番近くにいられる活動者でありたいなと思っています」(莉犬)
ナゴヤドーム公演と東京ドーム公演は、コロナ禍で開催を断念したが、すぐに生配信とともに前を向いていたという。
「『悔しいね』という話はメンバーでしました。でも、すぐに次の新しい『楽しい』を何か作らないとね、と話をしていましたね。落ち込んでいた数時間後には普通に生配信をしていたりするので、僕たちの気持ちの切り替えも速いですね」(ななもり。)
「リアルさ」が動員力につながる
「日経エンタテインメント!」のライブ動員データでは、「デビュー3年以内アーティストTOP5」の5位にランクインしたが、同ランキングですとぷりより上位にいたのは、K-POP、ジャニーズ、LDHのアーティストたち。2019年に初めてCDをリリースしたばかりのすとぷりは、このランキングの中でも異質だ。
「僕たちからすると、このような著名な方々と一緒にご紹介いただけるのは非常に光栄なことですし、恐縮してしまいますし、とてもありがたいことです。僕たちはこれからも『リスナーさんとの距離感』を大切にしていきたいと思っています。リスナーさんの中には、その距離感にとても敏感な方も多いです。僕たちがこうやって取材をしていただいて、それが世の中に出ていくことで、それを喜んでくださる方も、何かモヤモヤを感じる方もいて。距離感が遠いと感じることにストレスを感じるというか、よりリアルを求めているというか。そういう反動がユーチューバーさんに集約しているのかなとも思っているんです。若い方ほどそういうものに敏感で、CMで流れていたアプリをダウンロードしたいと思えない方もいますし、自分で見て受け取ったものしか信じられないという価値観もあると思うんです。僕たちのリアルさを受け取っていただけているんだな、って日々感じます」(ななもり。)
素顔のすとぷりに会えるのは、ライブと握手会だけであることも、すとぷりの動員力の理由のひとつだ。
「365日ほぼ毎日、生配信中心の僕たちにとっては、ライブはツアーがあって多い年でも15回ほどです。そう考えると、全体の活動の4%ほどのものなんですね。それぐらい特別な場所だから、僕たちをよりリアルに届けたいと考えています」(ななもり。)
いろいろな気持ちがひとつの端末に詰まっている
メンバーの声を拾っていくと、彼らが中高生からの支持を集める背景として、10代の生きづらさに寄り添った視点を大事にしている点もありそうだ。
「ひとりの人がいろんなSNSを使ってお友達とやりとりをして、情報を取っていくなかで、インスタグラムでは見栄えの良い写真だけを公開しなきゃいけない気持ちになっていたり、ツイッターではネガティブなものを見てちょっと落ち込んだり、いろんな気持ちがひとつの端末に詰まっているので、みなさん疲れちゃっている感じがしているんですね。きっとリスナーさんも『お父さんやお母さんが言っていることと、先生が言っていることと、ネットで言われていることが全然違う。私、どっちに行ったらいいんだろう?』って悩むこともあると思うんです。すとぷりのオリジナル曲には、そんなリスナーさんの背中を押したいという僕たちの思いがこもっている曲も多いです」(ななもり。)
「学生時代って、悩む時期が多いと思うんです。そんなときに、どこかに行かなくても携帯で楽しめるすとぷりの存在が、リスナーさんの幸せにつながったらいいなと思っています」(ジェル)
「夢を諦めてしまう瞬間もあったし、道がふさがるような経験もしてきて。でも、ちょっと引いて見たらまたいろんな道も見えてくるんです。昔の俺と同じような気持ちになっちゃっている子たちにも、いろんな方法で『他にも道はあるんだ』っていうことを伝えたいです」(さとみ)
「僕は学生のときに楽しかった記憶って忘れてなくて、失敗したことがあっても『あれがあったから乗り越えていけるようになった』と思っているんです。リスナーさんにも『あのとき、すとぷりがあって楽しく過ごせたな』って思ってもらえたら嬉しいです」(ころん)
すとぷりは、2021年の日本武道館公演が決定している。ツイッターでは、ファンがすとぷりを「生きがい」と表現することも多い。
「新型コロナウイルスで、友達とも普通に楽しめなくなって、やはり心も落ち込んでしまったりするのかなって思います。僕たちもリアルで会うイベントが軒並みできなくなってしまって、すごく我慢し続けた半年以上だったので、そこから武道館でリアルで会うというのは、すごく大きな一歩なので、全力で届けていきたいなって思います」(るぅと)
「すとぷりは、リスナーのみなさんにとっても、僕たちにとっても居場所なんですよね。安心して帰ってこれるような場所。僕たちはこれからもリスナーさんに喜んでいただけるようなものを届け続けていくので、楽しみにしていてほしいです」(ななもり。)
すとぷり
生放送や動画投稿サイトなどで活動中の6人組エンタメユニット。2016年結成。メンバーは、莉犬、ジェル、さとみ、るぅと、ころん、ななもり。ツイキャスでの生放送、YouTubeへの歌動画やゲーム実況動画の投稿、CDリリースやライブ活動を行う。2020年11月11日にはサードアルバム『Strawberry Prince』をリリース、2021年1月23日には日本武道館公演を予定している。