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鈴木愛子

「ママ」と「母ちゃん」から愛されて育つ──子連れ再婚、それぞれのかたち

2020/04/21(火) 16:14 配信

オリジナル

結婚するカップルの4組に1組が再婚の時代。その中で、連れ子のいる再婚家族を「ステップファミリー」という。ステップファミリーには、初婚の家族とは違う難しさがある。継子のしつけで「これでいいのか」と悩んだり、継子の実親との関係を維持する努力が必要だったり。2組のステップファミリーの幸せと苦労を紹介する。(ライター・上條まゆみ/Yahoo!ニュース 特集編集部)

子どもは4人に あるステップファミリーの日常

1月の休日の朝。日差しが燦々と差し込む暖かなリビングで、夫婦と子ども4人が仲よくもつれ合っている。

「おなかすいた!」の声が子どもたちから上がると、父親の伊藤岳さん(40)がキッチンへ向かった。岳さんの妻・恵さん(27)は生後1カ月の莉和ちゃんを抱いたまま、テーブルの上を片付ける。お菓子が載った皿を岳さんが持ってくると、子どもたちがワッと寄ってきた。

「ほら、ちゃんと手を洗ってからよ!」「立たない、座って食べる!」

恵さんの声が飛ぶ。平和な家族の日常がここにある。

(撮影:鈴木愛子)

岳さんと恵さんは2016年に結婚した。岳さんは再婚で、恵さんは初婚。岳さんは当時、7歳だった陸くんと3歳だった菜々ちゃんを一人で育てており、そこに恵さんが加わった。

岳さんとの出会いについて、恵さんはこう振り返る。

「夫とは同じ介護施設で働いていました。夫が上司で私が部下。夫は結婚していたのですが、のちに離婚したとき、たまたま私が2人の子どもの面倒を見る機会があってトイザらスに連れて行きました。すごく私に懐いてくれて、その後もちょくちょく遊んだり、夫の家に行ったりするうちに、子どもたちから『お父さんと結婚して!』と言われ、ゴールインしました(笑)」

その後、岳さんとの間に和久くん(2)と莉和ちゃんが生まれ、6人家族になった。首都圏の一軒家で、賑やかな毎日を過ごしている。

(撮影:鈴木愛子)

伊藤さん一家のような再婚家庭は増加傾向にある。厚生労働省の調査では、2018年に結婚したカップルで「夫婦とも再婚、またはどちらかが再婚」なのは15万6739組。結婚の4組に1組が再婚だ。地域によっては3割を超えている。このうちの何割かに子どもがいる。新たに一緒になった家族は、英語の「ステップ」に「血縁のない」という意味があることから、「ステップファミリー」とも呼ばれている。

保育士の母から子どもとの関わり方を学ぶ

伊藤家の場合、恵さんにはじめから、夫の連れ子たちの母親になろうという気持ちはなかった。結婚時は24歳。7歳の子どもの母親になるには早すぎるとも思った。夫の岳さんも「母親になってとは言わない。4人で楽しく暮らせるだけでいいよ」と言ってくれた。恵さんは振り返る。

「子どもには実の母親の記憶もあるし、面会交流も決まっていました。だから、私をママと思うには無理があったし、私も『ママになる』という気持ちはありませんでした」

陸くんと菜々ちゃんは恵さんのことを「母ちゃん」と呼ぶ。結婚当初、2人は「恵ちゃん」と呼んでいた。「母ちゃん」に変えたのは、街中で知らない人に「いまどきの若いお母さんは親をファーストネームで呼ばせるのね」などと、陰口を叩かれたからだ。

「いちいち事情を説明するのも面倒くさい。だから私は『母ちゃん』、本当の母親は『ママ』で呼び分けてもらうことにしました」

伊藤恵さん(撮影:鈴木愛子)

恵さんの実母は保育士で、里親の問題などにもともと関心があった。そして、実の子ではない子どもとの関わり方を、実母から学んだ。

「結婚してすぐ家を建てたのですが、完成するまでの3カ月間、私の実家にみんなで住んだんです。そのとき母が子どもたちと接する姿を見て、ああ、こういうふうにすればいいんだ、と思いました。子どもであっても一人の人間として尊重するとか、感情で叱らずきちんと言葉で言い聞かせるとか、子どもの不安な気持ちを受け止め、スキンシップをとって安心させるなど、とても参考になりましたね」

(撮影:鈴木愛子)

上の子のしつけは「いい意味で妥協」

それでも当然、ステップファミリーならではの苦労はあった。

「遊んでいるときは調子よく『母ちゃん、母ちゃん』って言うくせに、ちょっと叱ると『ママがいいー』ってわめくんです。割り切っていても、やっぱり傷つきますよね。私の愛情が足りないのかなって悩むこともありました」

2人の子どもはそれまでの暮らしで身についていた、だらだら食いや夜更かしなどの生活習慣も直らない。きちんとした生活をしたい恵さんにとってはストレスだった。

そうしたつらさを、毎晩のように泣きながら岳さんにぶつけた。

「自分の子どもの悪口を言われたら怒る人も多いと思うんですけど、お酒を飲みながら愚痴るのを、夫は『そうだよね、それは嫌だよね』って聞いてくれた。すごくありがたかったし、気持ちも楽になりました」

(撮影:鈴木愛子)

結局、2人のしつけについては「いい意味で妥協」することで恵さんの気持ちは落ち着いた。

「その代わり、大人になってから困ること、人として間違っていることについては妥協せずに、理由をきちんと説明したうえで叱っています。それが一緒に暮らす大人としての愛情だと思っているので」

2017年に和久くんが、2019年末に莉和ちゃんが生まれた。2人が誕生した後も、恵さんの陸くんと菜々ちゃんへの愛情は変わらないという。

「逆に、陸と菜々のこと、ちゃんと愛せていたんだわと安心しました。出産する前は、もしかしたら実の子じゃないからイライラするのかな、と思うこともあったんです。でも、実の子でも、イヤイヤされると腹が立つんですね(笑)」

左から陸くん、和久くん、莉和ちゃん、菜々ちゃん(撮影:鈴木愛子)

菜々ちゃんが大事にしている絵本がある。恵さんが和久くんを妊娠したとき、菜々ちゃんのために手作りしたものだ。

菜々ちゃんを産んだのはママだということ、でも自分も家族であるということ、これから生まれてくる子も家族だということが、イラストや写真とともに描かれている。

「菜々は私が妊娠したとき、赤ちゃんに私を取られちゃうって不安になったようです。だから、早いうちに家族の構造を理解させたいと思って、絵本を作って毎日読み聞かせました。それもあって今は自分に『ママ』と『母ちゃん』がいて、それぞれから愛されているということを理解し始めていると思います」

(撮影:鈴木愛子)

実の親子のように……そうなれない苦しみ

「ステップファミリーは、大きく二つのタイプに分けられます」と指摘するのは、緒倉珠巳さんだ。緒倉さんは2001年、ステップファミリーを支援する団体「ステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン」(SAJ)の設立に参加。以来、数多くの子連れ再婚家族のサポートに携わってきた。2010年から同団体の代表を務める。

緒倉さんによれば、ステップファミリーには大きく分けて「代替家族モデル」と「継続家族モデル」がある。代替家族モデルは、いなくなった親に成り代わる存在として新しいパートナーを迎え、実の親子のように父親や母親の役割を担おうとするもの。継続家族モデルは、実親子関係は継続し、新たに登場した大人と子どもが、実の親子とは異なる個別の関係を築こうとするものだ。伊藤さん一家は後者に当たる。

日本には代替家族モデルが多いという。

「新しいパートナーは、新しいお父さん、お母さんなどと呼ばれることもあります。『ふつう』の家族と同じようになることがいい、と考えるステップファミリーは少なくありません。ですが、父親にならなければいけない、母親にならなければいけないという焦りで、子どもも親もみんな傷ついてしまうケースが、少なからず存在します」

(撮影:鈴木愛子)

緒倉さんら支援者のもとには、多くの悩みが寄せられる。子どもが継親に懐かない。実の子のようにはかわいがれない。パートナーがわが子に厳しくあたる。パートナーに気を使い、自分もわが子に厳しくしてしまう――など。実親も継親も、実の家族のようになりたいと願い、愛情さえあればそうなれるのではないかと思い、できない自分を責めて苦しんでいる。

ステップファミリーが抱えるこのような課題は、まだ十分に認知されていない。

どちらのモデルにもあてはまらない第三のケース

代替家族モデルでも継続家族モデルでもない、独自のやり方でステップファミリーを築いている人がいる。

弁護士の古賀礼子さん(40)は2011年、当時3歳の誠くん(仮名)を連れて離婚。その後にいまのパートナーと一緒になることを決めたとき、法律婚をしなかった。いまは夫婦と 12歳になった誠くん、5歳の涼ちゃん(仮名)、3歳の春男くん(仮名)の5人家族だ。

(撮影:鈴木愛子)

3人の子どもはそれぞれ姓が違う。誠くんは、実の父親の姓。パートナーとのあいだに生まれた子どもは、1人は父の姓、1人は母の姓。母子同姓の子の親権者は父親とした。

ちなみに、法律婚をしていないので、父子同姓の子も生まれた時点では母の姓。裁判所に氏の変更を申し立て、父子関係がある、共同養育の実態があるという理由で認められた。

大人2人と子ども3人が、戸籍(姓)か、親権かのどれかでゆるやかにつながりながら5人家族を形成している。

「婚姻している父母とその子ども」という枠に収まらない、ユニークな家族の成り立ちを、古賀さんはこう話す。

「パートナーは元は男友だちの一人。付き合う前から、子連れで一緒に遊んでいました。息子にとっては、ときどき車を出して遊んでくれるおじさん的な位置づけだったと思います」

(撮影:鈴木愛子)

誠くんが5歳になったころから、3人で過ごすことが増えた。誠くんは「おうちゃん」と愛称で呼んで慕った。事実婚として関係が定着し、その後、子どもが生まれてパートナーは下の子たちにとっての「お父さん」になったが、パートナーの誠くんへの接し方は変わらなかった。父親ぶることなく、一緒に暮らす仲間として仲良くしたり喧嘩したりしている。

「休日は近所のショッピングモールにみんなで買い物に行き、ゲームセンターで遊んだり、アイスを食べたりなど気楽に過ごしています。私が食に興味がないタイプなので、彼と息子が『男子料理部』としてわが家の料理担当。強固な師弟関係を築いていますよ(笑)」

さらに、難しい宿題があるとアドバイスをしたり、悩みがあるときは男同士として相談に乗ったりもしているようだ。

一方で、誠くんは、実の父親と定期的に面会交流を続けている。「おうちゃん」もそのことを好意的に受け止めていて、「今月はいつ会うの?」などと当たり前に話題に出る。小学校の運動会には実の父親も参観する。誠くんにとっては、パパの手作りのお弁当を食べられる機会だ。

(撮影:鈴木愛子)

何も目指さなくても、そこに家族がある

古賀さんはもともとジェンダー問題に関心があった。大学時代に学びを深めるなかで、夫婦別姓や、男女の役割に縛られない自由な結婚を求める気持ちを強くもつようになった。

いまのパートナーは、法律婚をしようと考えたことがなく、もっといえば結婚そのものに興味がなくて、事実婚という意識も希薄だという。

「彼いわく、一緒にいたい人と一緒にいることができるのであれば、今のところそれ以上の何かが必要と思ったことがないようです。そう言うと誤解されそうですが、一方で、家事や家族の時間に夢中になっている、昔でいうマイホーム夫です」

大人も子どもも、基本は個人。家族のつながりも、個々のアイデンティティーを尊重した上でのつながりであることが大事だ。

「親子きょうだいで名字が違うなんて子どもがかわいそう、と言う人もいるかもしれませんが、かわいそうという見方自体が子どもを傷つけるんですよ。常識的であることや平凡であることは素晴らしいけれども、それとは違ったわけの分からない思い込みの『ふつう』が世の中にはある。『ふつう』の枠に押し込められることによる不自由さから、できるだけ逃れて生きていきたい。わが家はいわゆる『ふつう』の家族ではないかもしれませんが、みんな仲良しです。多様化する社会における最先端家族だと言われることもあります」

(撮影:鈴木愛子)

前出の緒倉さんは、「ステップファミリーは、『ふつう』の家族にならなくていい、むしろ『ふつう』の家族を目指さないようにしよう、と伝えたい」と言う。

「家族はこうあるべき、親子とはこうあるべきというところから、もっと自由になりませんか。子どもであっても相手を一人の人間として尊重し、1対1の人間関係を築くという意識は、ステップファミリーだけでなく、実の親子関係にも必要なことなのかもしれないと思うのです」


上條まゆみ(かみじょう・まゆみ)
1966年、東京都生まれ。大学卒業後、会社員を経てライターとして活動。教育・保育・女性のライフスタイル等、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。

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