南野拓実、23歳。森保一監督率いる新生・サッカー日本代表の主力として、結果を残している。一方で、19歳で移籍した海外クラブでの歩みは順風満帆ではない。「2、3年でよそに移籍できるだろう」と思っていたというオーストリア・ザルツブルクでは、5シーズン目となる。今のところ「計算違い」のキャリアを覆し、南野は欧州で飛躍できるのか。(了戒美子/Yahoo!ニュース 特集編集部)
チャレンジャーの気持ち
いまだに確信を持てないでいる。自分が森保ジャパンの確固たる主力であり、毎回招集されることに対してである。横に並んでプレーする堂安律、中島翔哉と合わせて「新BIG3」「三銃士」などと呼ばれ、注目も集まっている。その中心にいるにもかかわらず、自分が日本代表に定着しているという認識をまだ持ちきれないでいる。
「また次も代表に選ばれるために、今アピールするっていうことしか考えてなくて……。うーん、自分のことしか言えないですけど、僕はロシアW杯にも行ってないですし、9月に選ばれた最初のときも今も、チャレンジャーの気持ちしかないです。自分がここ(代表)で何をすべきかということしか考えてないんですよね」
ザルツブルクの本拠地レッドブル・アレーナで取材に答えた南野。慎重に言葉を選んでいるようでもあるし、そうとしか言いようがないと言いたげな、率直な表情のようにも見える。いずれにせよ、気負いは見られない。
この9月から始まった、森保監督が率いる日本代表の計3回の合宿に全て招集されている。つまり、主力、レギュラーメンバーだ。これまでの計5試合すべてに出場し、初戦から3試合連続の計4得点を決めている。結果からはエースといってもいい。
森保監督が採用する4−2−3−1システムの2列目の中央、いわゆるトップ下が定位置。味方に点を取らせることも自分が取ることもできる、最も花形のポジションを与えられている。
南野は2013年、セレッソ大阪で高卒ルーキーながら主力として活躍を見せた。若くして才能が注目されたが、日本代表にはなかなか定着できなかった。
14年のブラジルW杯では、最終メンバー23人の一歩手前となる予備登録メンバー30人には入った。18年のロシアW杯を目指す過程の初期、15年10月には初代表も経験し試合出場も果たした。だがその後は音沙汰は全くなかった。ロシア行きに淡い期待を持ちつつも、どこか他人事のようでもあったという。
「チャンスがあってもなくても行きたい気持ちはもちろんありました。でもあんまり代表発表の頃のことは覚えてないというのが、正直なところです。全然選ばれてなかったですから。可能性は薄いだろうなと思ってました」
W杯の日本戦はテレビで見つめた。
「W杯までの自分が選ばれてない日本代表の試合は一回も見たことがなかったですけど、W杯は世界の強豪との真剣勝負。自分が選ばれなかった日本代表の選手たちがどういう戦いをするのか興味がありました」
大会序盤は日本国内で友人たちと、決勝トーナメントに入ってからはザルツブルクの同僚たちと観戦した。日本が敗れたベルギー戦での戦いぶりについては、プレシーズンの合宿中にチームメイトたちとも白熱した議論を交わした。
「自分がもしあそこに立ってたら何ができたか、何か違うことができたのか……。その何かが足りないから自分はそこに立ててないわけで、そこは理解してたんですけど、サッカー選手として悔しい気持ちはありましたね」
「4年もいるつもりはなかった」
代表での華々しい活躍の一方で、所属クラブではまだまだ物足りなさを感じさせる。
南野が所属するのはオーストリア1部リーグのレッドブル・ザルツブルクだ。オーストリアでは近年、ザルツブルクの1強が続いている。国内リーグは5連覇中。国内カップ戦も昨季は準優勝し、それまでは4連覇。今季のリーグ戦も独走態勢に入っている。
そんな強豪に加入したのは15年1月、まだ19歳だった。日本の同世代のトップランナーとして、早々と海外挑戦を始めた。だが、そのあとは順風満帆とはいえない。数字だけ見れば、15/16シーズンは10得点、16/17シーズンは11得点、昨季は7得点と悪くない。
一方で、昨季28試合出場のうち、先発は20試合でフル出場は7試合。ターンオーバーしながら戦っていたといえ、ラツィオとレアル・ソシエダ相手に得点した欧州リーグでも先発は1度だけ。まぎれもない中心選手ではある。ただ、エースとは言い難いというのが現状である。
「正直そうですね、4年もいるつもりはなかったというか。2年か3年でよそに移籍しているだろうなと思ってました」
オーストリア・ブンデスリーガと呼ばれるオーストリア1部リーグは、UEFA(欧州サッカー連盟)の算出する国別ランキングで12位につける。同ランキングはUEFA主催の大会で各国のクラブが残した成績などをもとに順位づけしたもの。各国リーグの「実力」の目安となる。
18年12月のランキングでは1位から順にスペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランスと並ぶ。この5カ国のリーグがいわゆる5大リーグだ。日本代表の同僚・中島翔哉が所属するポルトガルは7位、長友佑都が所属するトルコは10位といった具合である。
UEFAは同様に、クラブランキングも発表している。1位はレアル・マドリード。日本人が関わったクラブを見ると8位にセビージャ、11位にボルシア・ドルトムント、シャルケは20位、ザルツブルクは30位に位置している。それより下位では、マルセイユが49位、インテル55位、フローニンゲンは166位だ。
つまり、オーストリアは必ずしも欧州のトップの舞台ではない。南野はザルツブルクをきっかけに5大リーグなどへさらにステップアップすることを見据えて、早めの一歩を踏み出したわけだ。だが、そこで5シーズン目を送っている。それは南野にとって多少、計算違いでもある。
クラブにとっても、南野の状況は想定外だったかもしれない。ザルツブルク広報のクリスティアン・キルヒャー氏は言う。
「以前に、宮本恒靖や三都主アレサンドロもこのクラブでプレーしたよね。彼らはキャリアの後半にやってきた。年齢も高かった。だけど、タクミを獲得は、彼らの移籍とは全く違うんだよ」
確かに宮本や三都主がザルツブルクに加入したのはそれぞれ29歳のときだ。現在のザルツブルクは、そういった経験のある選手を積極的に獲得する方針ではない。
キルヒャー氏によると、ザルツブルクは12年に、シャルケでも監督を務めたラルフ・ラングニック氏がスポーツディレクターに就任し、クラブのあり方が大きく変わったそうだ。
簡単に言えば、育成組織を充実させ、自前の若手選手を育てて成長させ、他クラブに売って収益を上げる。そうやって次の若手を育て、選手も資金も循環させていくようにしたという。だからこそ、15年に19歳の南野は獲得されたのであり、彼は今後どこかビッグクラブに羽ばたいてこそ価値が出るのだとも言う。
現在のチーム構成を見ても、若手がずらっと並ぶ。1995年生まれの南野はフィールドプレーヤー23人のちょうど真ん中の年齢だ。これから先はメンバーの入れ替わりによってはベテラン側に分類されるということだ。だからそろそろ、ステップアップを実現させたい。
日本代表において南野の少し上の世代から、いわゆるビッグクラブでプレーしている選手がいない。そのことも気にならないわけではない。ACミランでプレーした本田圭佑、インテルで7年間過ごした長友佑都は30代だ。
「結果がすべての世界なので……。上の世代の人たちがビッグクラブでプレーしてて、僕たちが現状できてないというのは単純に、悔しいなとは思います。このチームでもドルトムントとかとヨーロッパリーグでやって勝つこともある。だから意識しすぎても、とも思いますが、チーム名も大事なんだなって。いずれはね、そういうチームに行く日本人選手が出てこないといけないと思う」
さらに英プレミアリーグの強豪トッテナムに所属し、2シーズン連続で2桁得点の隣国のエースの名を挙げて危機感を示す。
「(アジアのライバル)韓国にはソン・フンミンって絶対的な選手がいますし。今まで日本にもそういう選手がいましたけど、ここからは若い選手が突き上げていかないといけないと感じます」
「飛び抜けた存在」を目指す
5シーズン目を過ごしているザルツブルクの街は、伝統的な街並みが残り、中世にタイムスリップしたかのような感覚をもたらしてくれる。市街地は「ザルツブルク市街の歴史地区」としてユネスコに世界遺産登録もされているほど、こぢんまりと美しい街だ。
一方で地理的には不便で、他チームの日本人選手と頻繁に会える環境でもない。南野はここで長く過ごす間、自分自身と向き合う時間が増えたという。うまく結果が出ない時期もあった。その中で、パーソナルトレーナーから専門家を紹介され、瞑想に取り組むなど、チームを離れているときも自分をブラッシュアップすることにした。
「こっちにいたら自分の時間が多くて。そういうときに何もせずに過ごすのではなく、手探りでも自分のために何かできないかと思って。瞑想を始めてから、プレーが良くなった部分もあるし、自分や試合を俯瞰できるようになったと思います」
南野は、今季リーグ戦17試合終了時点で9試合先発、うち6試合でフル出場、途中出場5試合、不出場3試合。4得点。今季のリーグ戦から新方式が採用され、残り15試合はある計算になる。もう少しペースを上げて得点を重ねたいところだ。
「細かいところをいえばね、点とかアシストがなかったとしても、例えばドリブル突破の回数だったり、チームの攻撃を引っ張っているという印象だったりというのが見ている人たち全員に伝わるプレーをし続けられれば、ステップアップのチャンスはあると思う。やっぱ飛び抜けた存在というのにならないと、自分が目指してるところにはたどり着けないんじゃないかなと思いますね」
まずはザルツブルクで圧倒的な結果を残すこと。それがその先の全てにつながる。クラブをステップアップすることだけでなく、まだまだ主力だと確信しきれていない代表選出に関してもそうだ。
「クラブで絶対的なスタメンの選手になること。それが一つ絶対的な条件ですね。だってやっぱりこっちで結果を残してるから代表に選ばれるわけで、こっちで結果を残し続ければ必然的に、代表でのチャンスというのも開けてくると思ってます」
来年1月から始まるアジアカップ。当然ながら南野への期待は大きい。
「チームとしても自分としても、代表でのここまでの試合で手応えはあります。でもまだまだ親善試合。代表としては大会で何かを成し遂げないと意味がないと思うんです」
アジアカップは森保ジャパンにとっても初の公式戦。日本代表は4年前、ベスト8で敗れている。前世代のリベンジという期待も上乗せされる。
南野は圧倒的な結果をたたき出し、未来を切り開く。照準を、静かにそう定めている。
了戒美子(りょうかい・よしこ)
1975年生まれ。98年、日本女子大学文学部史学科卒。映像制作会社勤務を経て2003年から執筆活動を開始。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州サッカーをメインにスポーツ全般を取材。「スポルティーバ」(集英社)、「ナンバー」「ナンバーウェブ」(文藝春秋)などに寄稿している。