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「au三太郎」はなぜ好感度が高いのか――共感を呼ぶCMの作り方

2018/12/13(木) 08:00 配信

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CM好感度ランキングで4年連続1位を獲得している人気シリーズ「au三太郎」。出演者の桐谷健太がCMソングでNHK紅白歌合戦に出場するなど、CMの枠を超えて人気だ。ディレクターを務める浜崎慎治は「教えてトライさん」(家庭教師のトライ)、「ヒノノニトン」(日野自動車)など、話題のCMを世に送り出してきた。メディアや人々の興味が多様化する昨今、「みんなが知っている」「共感を呼ぶ」CMをいかに作るのだろうか。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

携帯のCMなのに、携帯を使えない設定

KDDI・auのCM「au三太郎」シリーズは2015年にスタート。CM総合研究所が発表した2018年度のCM好感度ランキングで、4年連続となる年間1位を獲得した。

桃太郎、浦島太郎、金太郎を軸に、かぐや姫や一寸法師といった、誰もが聞いたことのある昔話のキャラクターをモチーフにしている。

時代設定は「昔」。あえて時代は曖昧にしているという。「昔」だから、KDDI・auの広告なのに携帯電話を使っている場面は出てこない。ラストに商品カットが登場するくらいだ。同シリーズの演出を担うCMディレクターの浜崎慎治(42)はこう語る。

浜崎慎治氏(撮影:大河内禎)

「携帯を使っていないというのが、ミソなのかもしれません。ないことで、じゃあどう描くかというアイデアが湧く。今や携帯を持つことは当たり前になっていますし、携帯そのものを描くことはさほど重要じゃない。通信会社は人と人とのコミュニケーションを大切にする会社だから、コミュニケーションを大切に描いています」

手掛けた「au三太郎」のCMは100作以上。クリエイティブディレクターの篠原誠を中心としたチームで作ってきた。当初はシリーズ化される予定ではなかったという。

「スタートは企業広告だったと思います。『私たちはこういう企業です』というイメージアップのための広告。ダジャレで『英雄』と『au』を掛けていた企画でした。最初はどうなることかと心配でしたが、気に入っていただけたようで商品広告も作ることになりました」

「桃ちゃん」こと桃太郎、「浦ちゃん」こと浦島太郎、「金ちゃん」こと金太郎が、毎回登場する。例えば桃太郎が「桃から生まれた」ということは、誰もが知っていること。そういう既知の設定を強みにしながら、キャラクターに意外な個性を持たせている。

桃太郎は桃から生まれたことに引け目を感じていて、「どんぶらこ」と言われると恥ずかしくなる。浦島太郎は漁師で海好き、元気で勢いのあるタイプだ。金太郎は腕っぷしも強くなく泣き虫。「金」と付くだけあって、金にうるさい。

そこに、「転校生」のように「鬼ちゃん」が加わった。

菅田将暉が演じる鬼ちゃん(写真提供:KDDI)

「途中から入ってくる鬼ちゃんは後輩キャラ。『あ、こんちは』みたいな感じで、みんなを気持ちよくヨイショして入ってくる。『どうやったら仲良くなれるかな』って考えて、下手に出る感じがいいのではという意見にみんなが賛同してくれました。登場人物が増えるごとに、キャラクターの枠が埋まってくるので試行錯誤です」

桃ちゃんを演じるのは松田翔太、浦ちゃんは桐谷健太、金ちゃんが濱田岳、そして鬼ちゃんは菅田将暉だ。「au三太郎」を通して、それぞれCMタレント好感度ランキングで上位入りした。桐谷健太はCM内で披露した楽曲『海の声』が人気に。2016年のNHK紅白歌合戦にも出場を果たした。

「桐谷健太さんに最初にお会いしたとき、『少しおバカな、でもピュアな漁師で』と話したら、ご自分で解釈されて、ああなった。すごく面白かったですね」

(撮影:大河内禎)

俳優のアドリブも多いという。たった15秒か30秒のテレビCMの中に、アドリブの入る余地はあるのだろうか。

「僕は面白ければ入れたほうが企業のためになると思っていて、決め込まない緩さというか、“余白”を極力用意しておこうと考えています。絵コンテと呼ばれる設計図はありますが、設計図にないことも現場でトライしてもらえるようにしているんです。一方で、キャラクター設定は決めている。キャラクターを示すことで役作りがしやすくなり、俳優さんが自由に走れると思うんです」

桃ちゃんのキャラクター設定シート。浜崎氏のメモ(撮影:編集部)

富士フイルムやトヨタ自動車、三井のリハウスのCMで共に仕事をした樹木希林の取り組み方は、ひときわ印象に残っているという。

「用意された台詞に対して、『ここの台詞ってこんな言い方するかしらね?』『ここってこういうことじゃないかしら』と提案されることがしばしばあって。現場での変更が多く、こちらはあたふたしてしまうこともありますが、結果的に良いものになる。いつも妥協せずに取り組まれていて、CMを作品として一緒に作り上げてくれました」

目的は好きになってもらうこと

「au三太郎」シリーズの究極的な目標は「auを好きになってもらうこと」だという。

「通信会社はそれぞれ新商品やサービスを提供していますが、もし各社の商品力が横並びになったとき、何で勝負が決まるのか。それが『好き』という感情で、『好き』をつくるのにCMが作用している。『三太郎』のキャラクターを毎日CMで見るうちに、親しみが湧き、『好き』が醸成されていくといいなと」

「究極的に言えば、どのCMも目的は好きになってもらうこと。商品の売り上げは、結局のところ商品力による部分が大きい。でも、まずは知られないと売れません」

日野自動車のCM「ヒノノニトン」もシリーズ化している。「トントントントン、ヒノノニトン」というリズミカルなフレーズでおなじみだ。堤真一とリリー・フランキーが「謎のおじさん」として出演している。

右からリリー・フランキー、堤真一(写真提供:日野自動車)

(写真提供:日野自動車)

「2トントラックはみんなが買うようなものではないですよね。たった15秒ですから、走行性能や燃費などについて説明するより、覚えてもらうことが大事です。目標は『トントントントン、ヒノノニトン』という強い『記号』を印象に残すこと」

家庭教師のトライのCM「教えてトライさん」シリーズも、2012年から続いている。アニメ『アルプスの少女ハイジ』の原画にオリジナルキャラクターの「トライさん」を合成したもの。アフレコでアルムおんじがラップをするなど、コミカルでシュールな展開が記憶に残る。

(写真提供:家庭教師のトライ)

手掛けたCMはシリーズ化されることが多い。

「最初は『ちょっと気になる』くらいでいいと思ってスタートしているんです。それが徐々に大きいうねりになるときがあります」

「ベタ」を起点に、少しずらす

認知度が高く、共感を呼ぶCMはどのように作るのだろう。10月には著書『共感スイッチ』を上梓し、「共感」について多角的に記した。

「以前はすごく尖ったものを作りたいという気持ちもありました。でもCMは芸術ではないし、『分かる人に分かればいい』というものではない。『広告』は『広く告げる』と書くわけです。日本全国、老若男女が知っている『ベタ』なところからスタートする。みんなの『共通認識』を活用しながら、そこから少しずらして意外性を生む。それが僕のよく意識している表現方法です」

浜崎はテレビCMを中心に活動してきた。メディアも人々の興味も多様化するなかで、広く共感を呼ぶことは難しくなっていないだろうか。

「広告も多様化していますが、テレビCMは今でも『あ、あのCM見たことある』ってなるための、一番の近道だと思います。ウェブCMは何分でもよいなど条件は広がりますが、共通のパイをつかむのはなかなか難しい。爆発的に情報が広がる『バズ』もその瞬間はいいけれど、すぐに忘れられては困る。何かを伝えるときは、印象に残したい時間の『長短』を考えるべきだと思います」

(撮影:大河内禎)

“朝ドラ”(NHK連続テレビ小説)のように、じわじわ好かれていくものを作りたいと語る。

「時代がさまざまに変化しても、人と人との関係とか、根っこの部分は大きく変わらないですよね。本質的なことで言えば、その変わらない部分を押さえておけば、ちゃんと『共感』を呼ぶCMは作れるはずだと思うんです」

流行や人々の興味を知るために何かリサーチをしているのかと聞けば、そうではない。浜崎自身は、TwitterもFacebookも利用していないと言う。

「流れてくる情報を受け入れて対処するだけになるのは、あんまり良くないんじゃないかなと思って。『あの人がここに行っていたから自分も行きたい』じゃなくて、自分が面白いと思うことを毎日やればいい。自分の頭でしっかり考えないと、と。『人の毎日って見えないからいい』と思ったりもします。みんな結構、『裸』になり過ぎているような気がする」

一方、「YouTuberはライバル」だと話す。

「YouTuberは来る日も来る日も動画をアップして、どうすれば再生回数が伸びるのか、いろいろ試しながらやっている。秒数の制限とかコンプライアンスとか、テレビCMとは条件は全く違うものですが、ファンを増やすという意味で言えば一緒だと思うんですよ」

狙っていないと、ヒットなんか出ない

(撮影:大河内禎)

CMがインターネットで炎上することもある。認知度を上げるためにあえて炎上させているのではないか、と言われるものもある。浜崎自身、過去に制作したCMが炎上して、批判を浴びた。

「CMの場合、非常に残念なのですが、炎上したらほぼ失格だと思います。商品やサービス、企業イメージを良くするために作っているのに、流せば流すほど印象を悪くしてしまうわけですから。話題になったところで、“一発”で終わってしまう」

そんななか、表現の幅が狭まることへの危機感も抱いている。

「炎上のきっかけは誰か一人のつぶやきかもしれなくて、元々はムカついていなかった人も、動かされていったりする。気にし過ぎたらどんどん表現が丸まってしまうから、戦わなきゃいけない部分もあります。みんなが意見し始めると、面白いものはなかなかできない」

「一人の個人的な思いが、特殊な面白いものを作ったりするんですよね。『僕はこう思う』という強い意志がないと、世の中に出ない。CMじゃなくても、何か面白いものが生まれたときは、そこに戦っている人がいるなと思います。狙っていないと、ヒットなんか出ません」

テレビCMに携わって16年が経つ。道が開けたのは、29歳のころだった。

浜崎は当時、広告制作会社で働いていたが、自分に仕事は来なかった。どうしたら面白い仕事が来るようになるのか――。「賞を取ろう」と考えたが、そもそも賞に出すCMの依頼もない。そこで浜崎は、自身の実家が営む醤油屋のCMを制作する。そのCMで、ACC CM フェスティバルのブロンズを受賞。やがて仕事が舞い込むようになった。

きっかけを自分でつくり、狙いを定めては試行錯誤を重ねてきた。

そして今度は、映画を作っている。ソフトバンクのCM「ホワイト家族」シリーズなどを手掛けるCMプランナー、澤本嘉光がオリジナル脚本を書き上げた。

「ふだん15秒や30秒で作っているのが90分以上の長尺になって、制約も少ない。100メートル走の選手が、いきなり長距離を走るような……。手探り状態ですね」

今、新しい挑戦の真っ最中だ。

浜崎慎治(はまさき・しんじ)
1976年鳥取県生まれ。2002年にTYOに入社。2013年からフリーランス。手掛けたCMにKDDI・au「au三太郎」、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「教えてトライさん」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、トクホン「ハリコレ」など。ACCグランプリ、ACCベストディレクター賞、広告電通賞優秀賞、ギャラクシー賞CM部門大賞など受賞多数。著書『共感スイッチ』が発売中。初監督を務める映画『一度死んでみた』(仮題)は2020年公開予定。

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