撮影:稲垣謙一

世界人気は「想定内」――レコード会社に所属しない覆面アーティスト「AmPm」のヒットの戦略

2018/12/8(土) 8:52 配信

仮面をつけた正体不明の男性2人組ユニット「AmPm(アムパム)」は、レコード会社にも芸能事務所にも所属していない。しかし、日本にいながら一足飛びに海外でブレイク。音楽配信サービス「Spotify(スポティファイ)」では、2017年リリース曲において、世界で一番聴かれた日本人アーティストとなった。34歳の「右」は、20代で起業し、中国でビジネスを展開していた敏腕経営者。40歳の「左」は、大企業の元営業マン。レコード会社に所属していない音楽業界の“弱者”のブレイクは、偶然ではなく、戦略が生きた想定内の出来事だという。 (撮影:稲垣謙一/Yahoo!ニュース 特集編集部)

人当たりのいい「仮面男子」

世界を驚かせた一曲「Best Part of Us」は、「和」のテイストを押し出しているわけではない。エレクトロな音を基調とした、スムーズな聴き心地の一曲だ。

いわゆる、「クールジャパン」として認知されているわけでもない。ライブでは常に仮面をかぶって登場するスタイル。昨年インドネシアのジャカルタで開催された音楽フェス「SPOTIFY ON STAGE」で、1万人以上の観客を前に“初舞台”を踏んだ「ルーキー」である。AmPmのメンバーに個々の名前はない。「右」と「左」という呼称があるだけだ。

取材の日、現場にごく普通の、外見は30代と思しき男性2人が姿を現した。

「こんにちは、AmPmです」

向こうからそう切り出されなければ、まさかこの2人組がそうだとは気づかないだろう。

「お面、つけてないとホントに誰かわからないですね……」と当惑するこちらの気配を察したのか、すかさず軽妙なトークで場を和ませる2人。「右」が笑いながらこう切り出した。

「お面のいいところって、中身は誰でもいいところなんです。ミッキーマウスやガチャピン、ムックだって、そのときどきで中身は違いますし。でも、概念としての『ガチャピン』に変わりはないじゃないですか」

「覆面アーティスト」の冷たいイメージと、目の前に現れた人当たりのいいAmPmの印象はかなり異なる。

AmPmが仮面をしているのは、2015年に制作会社を設立して、音楽に関連する「本業」が別にあるというビジネス上の理由が大きい。もっとも、それだけではないと「右」は言う。

「年齢やビジュアルが優位に働くのであれば容姿を出すつもりでしたけど、出す必要もないかなと思ったんです」

現在の「仮面」は4代目。ラトビアのアーティストに制作を依頼したものだ

Spotifyを“ハック”した

正体不明の2人組が最初に脚光を浴びたのは、2017年のこと。震源地は世界有数の巨大音楽配信サービスSpotifyだ。Spotifyユーザーが曲をSNSでシェアした回数に基づくランキング「バイラルチャート」で、デビュー曲「Best Part of Us」が6位に躍り出たのだ。

「最初はエラーかと思いました」と左右の2人は口をそろえる。

謙遜気味に言うAmPmだが、ある程度の目算は立てていた。知名度ゼロなうえ、プロモーションする予算もなかったため、ひたすら自分たちの手を動かし、ビルボードチャートなどにランク入りする曲のテンポやキーの高さの傾向をあらかじめ分析。「Best Part of Us」のような曲がヒットしやすいリリース時期を計算しての「デビュー」だった。

ある意味「想定内」のヒットを受け、AmPmが次に着手したのはバイラルチャートの分析だった。一発屋で終わる気はさらさらない。バイラルチャートへ「戦略的に」ランクインするため、デジタルマーケティングのスキルがある「右」が、Spotifyの“ハック”に動いた。AmPmの場合、乱暴に言ってしまえば「右」が音楽マーケットを俯瞰し、分析、「左」が音楽的なクリエーティビティーを担う。

「Spotifyのバイラルチャートの仕組みを調べました。アルゴリズムはあくまで非公開でしたが、GitHubというソースコードの共有サービスがあって、Spotifyもそこにオフィシャルのアカウントを持ってるんですよ。そこに公開されているコードや、外部に提供されているAPIを調べて検証しました」

「ハック」の結果、いつ、どこに、どのように広告を出せば効果的にSpotifyのリスナーに届くかがわかってきた。そうしてこれまで20作品以上を発表し、いずれも世界中のSpotifyの重要プレイリストへ選出されている。2017年リリース曲において、Spotify上、世界で一番聴かれた日本人アーティストとなった。「Best Part of Us」は今年12月段階で通算1900万再生を超え、AmPmの代名詞となっている。

「当たり前のこと」をやっただけ

「当時は予算もないし、大きなレコード会社と契約していたわけでもなかった。要は『弱者の戦い』しかできないので。マーケットを理解しないでやみくもにサービスを投入するのはただの自爆行為だし、当たり前のことをやっただけなんです」(右)

「左」も「右」の考えに同調する。2人がこうした冷静な考え方ができるのは、彼らが別の「本業」を持っているのも一因だ。

AmPmは何から何まで秘密主義というわけではない。「左」は40歳、「右」は34歳で、新潟県と埼玉県の出身。2人がAmPmとして活動するまでの経歴は、かなり変わったものだ。

「右」は20代で起業し、中国でビジネスを展開していた敏腕経営者の顔を持つ。

「『ニイハオ』『シェイシェイ』しかわからない状態で、日本語がしゃべれないスタッフと一緒に働いていました。翻訳アプリを駆使してなんとかやっていましたね(笑)。現地法人の社長として中国で7店舗を出店しました」

その後、30歳でカンヌ国際広告賞を受賞し、クリエーターとしての才能が開花。「右」は「クリエーター兼経営者みたいな感じ」と自己分析する。

一方の「左」は、日本では誰もが知る大企業に入社、営業マンとして働いていた。

「10年間ずっと営業。夜はクラブでDJをしてたから毎日24時間営業みたいな感じでした」

その後、営業マン時代の退職金を元手に、ミュージシャンたちと音楽プロジェクトを発足させる。

「退職金を元手に作ったCDで、全国行脚しました。そこで出会ったミュージシャンからまた別のミュージシャンを紹介されて、縁をつなげて。まだまだ日本には力のあるアーティストが眠っているんだって気づかされました」(左)

その全国行脚には、多くのアーティストに交ざって、デザインなどで「右」も参加していたが、「良い楽曲を作っただけでは届かない」という現実が立ちはだかる。どんなに力があるアーティストでも届かなければ無意味だ。当時、無名なうえに予算もなかった2人はある結論を出す。

「何かプロジェクトが爆発的に有名になれば、参加しているミュージシャンの認知度も上げることができると考えました。結論としては、アーティストをつくって自社から発信しようと」(右)

「僕たち自身がアーティストという感覚じゃなくて、アーティストを紹介する新規事業を立ち上げている感覚なんです」(左)

そこで、当時2人が運営していた会社の名前をモジった「AmPm」という名のユニットが生まれた。

作詞・作曲はしないスタイル

AmPmは、作詞・作曲をしていない。「左」が語ったように、仲間のミュージシャンたちに楽曲を発注していくスタイルを貫く。AmPmはあくまでプロデュース役で、楽曲を世に送り出す役割を担う。2人はこう口をそろえる。

「僕らはアーティストにとっての、『代理店』のようなものです」

AmPmはインタビュー中に「マーケティング」という単語を多用する。2017年3月に「Best Part of Us」が配信されたのも、曲調と季節の関係性を意識して春を選んだからだ。ここまで冷静に市場を分析し、曲をリリースしていくのは、彼らの音楽市場への思いがある。

だが、ビジネスライクに映るマーケティングという言葉自体、日本の音楽シーンでは避けられがちだった。J-POPシーンでは、市場の攻略よりも自己表現が価値を持つという「信仰」があるからだ。そんなJ-POPシーンから見れば、AmPmは「仏作って魂入れず」に見えるのかもしれない。

「大前提として、魂のこもった楽曲がスタンダードであると、僕らも思っているんです。でも、気持ちだけあれば売れるなんていうのは、ただのエゴに過ぎない。そこに論理的な思考を加えて、適切にマーケティングやプロモーションをしないと、せっかくの想いも届けられなくなっちゃうんです。僕らは制作陣の気持ちも酌んでいるつもりです。だからこそ最大限に売れるにはどうしたらいいんだろうと考えるのは当然だと思っています」(右)

「僕は自分が好きなものを信じてやっているんです。『今これが流行るんじゃないかな』っていうファッション感覚みたいなものがまずあって、それを『右』が理論的に全部分析してくれていますね」(左)

「左」が“右脳的”に「これが流行る」とひらめき、「右」が“左脳的”にロジカルに市場へとドロップしていく、それがAmPm流だ。

Spotify収入は使い切ってる

理論的に分析して楽曲を制作し、広告宣伝費も投じる。そこにはSpotify経由の収入も費やされている。

「Spotifyからの収入は、年間で1000万円近くになるんじゃないかな。でも、全部使っちゃってるんです。新しい曲の制作費や広告宣伝費や衣装代に。なるべく安くやるなんて、(自分たちにだけ)都合のいい話だと思うので」(右)

J-POPシーンには別の「信仰」もある。音楽を制作するなかで自分のパーソナルな部分を出すことに価値があるという考え方だ。「右」はそれを真っ向から否定する。

「どれだけ欲や感情やエゴを殺せるかを、かなり意識しています」

自分自身の感情もエゴも殺す――。すべてはマーケットを分析して得た答えだ。

「Spotifyで数字が増えれば増えるほど、『世界との壁がこんなに厚いんだ』って鮮明になってきたんです。数字が500万、1000万って増えるほど、逆にどんどん冷静になってきて。これで『世界で売れてる』って言ったら、海外のアーティストに鼻で笑われるレベルなんです。クリエーティブをもっと強いものにしなきゃいけないし、マネジメントのようなバックオフィスもスピード感を持たないといけない。そのすべてにおいてもっと力をつけないと世界のアーティストとは戦えないと思っています」

仮面の奥の四つの瞳は、「ポップス」という世界的なマーケットを静かに熱く、見据えている。

AmPm(アムパム)
2017年3月、デビュー曲「Best Part of Us」が世界各国のSpotify「バイラルTOP50」にチャートイン、リリースから半年間で1000万再生を超えるヒットを記録(現在1900万回を突破)。2017年リリース楽曲において、世界中のSpotifyで最も聴かれた日本人アーティストに。以降、精力的にトラックをリリース。日本ではゲスの極み乙女。「ぶらっくパレード」のリミックスや、平井堅「HOLIC」の楽曲プロデュースを手がける。2018年9月12日にエイベックス契約第1弾となる「3AM feat.Haneri(ヘネリ)」を、12月5日に最新曲「Faded Love feat.Michael Kaneko」をリリース。https://avex.jp/ampm/


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※初出時、見出しは「世界一」としていましたが、「世界人気」と改めました。また、本編にも「2017年に世界で一番聴かれた日本人アーティスト」と表現しておりましたが、「2017年リリース曲において、世界で一番聴かれた日本人アーティスト」が正確な表現でした。確認が不十分でした。訂正しておわびします。

最終更新 12/15(土) 12:36

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