鬼頭志帆

登録者500万人「フィッシャーズ」の軌跡と「ユーチューバー」のこれから

10/9(火) 7:32 配信

YouTube動画を投稿して広告収入を得る「ユーチューバー」。子どもたちの「なりたい職業」の上位に入るなど、若年層の憧れの存在だ。7人組の「フィッシャーズ」はチャンネル登録者数500万人を超え、テレビ出演や歌手デビューも果たし、活躍の場を広げている。若者が熱狂するユーチューバーとは、どんな素顔を持っているのだろう。彼らの周囲にはどんな問題と将来が横たわっているのだろう。いま最も勢いのある「フィッシャーズ」の軌跡から探る。(Yahoo!ニュース 特集編集部)

このやり方でよかった

「有名になってやろうとか稼いでやろうとか考えないで、楽しいと思えることを最優先に続けてきたら、ユーチューバーとして食べられるようになっていました。この世界で長く続けていくには、このやり方でよかったんだろうなと思っています」

東京都内のマンションの一室。フィッシャーズのリーダー、シルクロードさん(シルク)さん(24)はそう話した。隣に座るメンバーのマサイさん(23)が大きくうなずく。

シルクさん(写真右)、マサイさん(写真左)(撮影:鬼頭志帆)

「ここで動画を撮影することもありますよ」。マサイさんは、メンバーが撮影と編集、仮眠に使うという部屋でこう話した。リビングにはYouTubeを運営するグーグル社から贈られた盾や視聴者からのプレゼントが飾られている。ユーチューバーとしての成功の証しだ。別の部屋には編集用のパソコンやビデオカメラなどの機材が並ぶ。

動画の公開はほぼ毎日だ。内容によって幅はあるものの、ほとんどの動画は公開から数日もしないうちに再生数が100万再生を超える。

海上にある巨大アスレチックパークで足を滑らせ、海に落ちる。ジャンプ台のてっぺんまで駆け上がって、海への飛び込みに成功する。そのたびに眺めているメンバーから、笑い声やツッコミが起きる――。フィッシャーズの代表作ともいえる「アスレチック動画」は、体を張ったズッコケ芸だ。全国のアスレチックで撮影した動画には、1000万再生を超えるものも複数ある。

ちょっとしたパーティーゲームを楽しんだり、iPhone Xの新機能に挑戦したり。メンバー同士の掛け合いの面白さで、若年層から熱い支持を受けてきた。

勢いはYouTubeの外側にも広がっている。今年4月には「ミュージックステーション」(テレビ朝日系列)に出演し、昨年8月にネット配信限定で発売したシングル曲の『虹』を歌った。6月の単独イベントには約5000人のファンが詰めかけた。Tシャツやタオルなどを扱う物販ブースには、朝の7時から行列ができる。会場の雰囲気は、もはや人気ロックバンドかアイドルのそれと変わりない。

思い出づくりがしたかった

「最初の動画は、みんなで『思い出づくり』しようと思って撮ったんですよ。功名心とか、驚かせてやろうとか、一切ありませんでした」

マサイさんはそう振り返る。

フィッシャーズの原点は「ユーチューバー」という言葉もなかった8年前の2010年にさかのぼる。7人のメンバーは東京都出身の仲間で、あのころはみんな中学生だった。

最初期の動画は、河原で遊んでいるところを撮ったものだ。「フィッシャーズの始まり」と検索すれば、今でも出てくる。メンバーたちは寒空の下、川に入ってはしゃいでいる。15歳だったシルクさんがカメラに向かって笑う。「みんなバカ、俺もバカ」。どこにでもいそうな子どもたちだ。

転機は2014年だった。映画「アナと雪の女王」の劇中歌を口パクで熱唱した動画を投稿した際、それまでにはなかった工夫を凝らした。シルクさんが言う。

「主題歌の『Let It Go』を歌っている人は山ほどいた。だから、劇中で使われる別の歌『雪だるまをつくろう』で口パクをやりました。観ている人を飽きさせないようにもしたい。そのためにはどうしたらいいのか。それまでにはない『欲』が出てきて、初めて何パターンか撮ったんですよね」

試行錯誤するなかで、「手ごたえ」を感じたという。

「面白いのはここだ。これならいけるって、確信みたいなものが見えたんです。実際、動画についたコメントを読んでいると、観た人は自分たちが面白いと確信したところで、盛り上がっているのが分かった」

寝て起きたら、再生数が30万回を超えている。驚いた。それまでは1万回、2万回という数字で喜んでいたから「別次元」の数字だった。判断は間違っていない、自分たちのやっていることはこれでいいのだ、と自信になったという。

シルクさんは大学を卒業した後、一般企業に就職しなかった。グループにはユーチューバー「専業組」と、副業として取り組む「兼業組」がいて、シルクさんとマサイさんは専業で活動している。

サポートする人たちがいる

フィッシャーズのような、動画クリエイターのマネジメント・サポートを中心に事業展開する会社も誕生している。

東京都港区の六本木ヒルズに本社を置く「UUUM」(ウーム)。この会社では、所属するユーチューバーを「クリエイター」と呼ぶ。フィッシャーズの所属先であり、「HIKAKIN」や「はじめしゃちょー」など国内で活躍する多数のトップクラスと専属契約を結んでいる。

同社取締役の梅景匡之さん(40)は言う。

「動画クリエイターが自分たちのチャンネルを自分たちで運営しているというスタンスがベースにある。マネジメントするというより、対等な立場でサポートしたいという思いがあります」

UUUMの梅景匡之さん(撮影:鬼頭志帆)

契約するユーチューバーには「バディ」と呼ぶ担当スタッフをつけている。スケジュールの管理や日々のサポートのほか、判断に迷ったときの「相談相手」にもなる。

「数多くのクリエイターをサポートしてきた我々だからこそ持つ、ノウハウがあります。これを伝えることができますし、クリエイティブ面で助言することもあります。対等な立場なので『バディ』なんです。一定の距離感を保ってもらうために、担当クリエイターとの個人的な食事会などは禁止しています」

(撮影:鬼頭志帆)

「自分たちで運営する」ことが基本のユーチューバーにとってUUUMのような会社は頼れる存在だ。動画やSNSでの投稿内容が批判にさらされる「炎上」などのリスクを未然に防ぐため、契約クリエイターを対象としたコンプライアンス研修も行っているという。

「炎上があまりにひどいと、クリエイターが活動できなくなってしまうこともありえます。長きにわたって活動できるように必要な知識を覚えていただいています」

例えば、権利関係で注意すべきことはなにか。屋外でロケをする場合は、人の映り込みに注意しなければならない。コスメ製品を紹介する際は、医薬品医療機器等法(薬機法)に抵触する「効果を絶対に保証する」といった類の表現を避けなければならないことも伝えてきた。

(撮影:鬼頭志帆)

リスクもある

ITジャーナリストの高橋暁子さんは「YouTubeもソーシャルメディアと同じです」と言う。10代のSNS利用や情報リテラシー教育に詳しく、動画投稿に際しての「リスク」も考えてほしい、と訴えている。

「動画を投稿したなら、やっぱりたくさんの人に観てほしいし、話題になってほしいと考えるでしょう。その欲求自体は自然なことですが、ごく一部には『観られたい欲求』が暴走し、過激な行動で数字を稼ごうとする投稿者もいます。視聴者にとって良い影響を与えているとは言えません」

さらに、動画投稿によって意図せず自分の個人情報を公開してしまうリスクもある、と警鐘を鳴らす。

ITジャーナリストの高橋暁子さん(撮影:鬼頭志帆)

「子どもはネットへの安全意識が低い。自撮りの感覚で動画投稿する子も珍しくありません。悪質な視聴者からそそのかされて、コメント欄でうっかり住所や名前などの個人情報を明かしてしまうケースもある。そうしたリスクを周囲の大人が教える必要があります」

フィッシャーズのシルクさんも「顔出しは怖い」と感じているという。

「本当にたくさんの人に観られています。いつ、誰にどう見られているのか。一般の方たちが、ネットに感じているような不安を感じることもあります」

この流れはとまらない

人気が拡大する一方で、リスクもある――。そんなユーチューバーを取り巻く環境は今後、どのような展開を見せるだろうか。映像作家の藤代雄一朗さん(33)は、映像表現という視点で彼らに注目する。

映像作家の藤代雄一朗さん(撮影:鬼頭志帆)

「ユーチューバーは、撮ってから出すまでのスピードが速いですよね。雑ということではなくて、動画の質をめぐる新しい考え方なんだろうなと感じます。一本の動画に時間や手間ひまをかけるよりも、パッと出してしまうやり方をする。こういうのもありなんだな、と」

速いテンポでカットを切り替えたり、突然アップにしたりする演出は「テレビのバラエティー番組がやってきた演出を独自に進化させた印象がある」とも言う。そこには、“YouTube以前の世代”としての危機感もある。

「媒体がスマホになってコンテンツがコンパクトになった。そのまま進化するだろうし、この流れは止まらない。ユーチューバーも僕らのような映像作家も同じ土俵にいる。僕らも時代に合わせて考えていかないと取り残されてしまう」

(撮影:鬼頭志帆)

時代はめまぐるしく変わる。YouTubeだけでなく、さまざまなプラットフォームで動画コンテンツが視聴されている。人気ユーチューバーとしてフィッシャーズは、自分たちの将来をどう考えているのだろうか。

「時代に合わせて適応していきたいですね」とマサイさんは言う。シルクさんもその考えに同意する。

「将来こうなりたいというのはあまり決めてなくて。『これだ』って決めても、将来、その夢がその時点であるかもわからないし。ユーチューバーっていうものだって、いつどうなるかわからない。今みんな観てくれているうちに、特技とか技術とかいろんなものを養っておけばどうにかなる。そのスキルアップしていく様子を動画にして見せるのも面白いと思います。将来のことを考えてもしょうがない。悩んでる時間があったら楽しいことやったほうがいいよ、と思ってます」

フィッシャーズ
スポーツマン、ダンサー、歌い手、クリエイター、社会人などの7人(シルクロード、マサイ、ンダホ、ぺけたん、ダーマ、ザカオ、モトキ)から構成される「思い出系ネットパフォーマンス集団」。中学3年生の時、中学の思い出として動画投稿をスタートさせる。「コメディ」「チャレンジ」などテーマを決めてカメラを回し、あとはアドリブで動画を作り上げていく。

写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝
[写真] 撮影:鬼頭志帆


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