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【熊本地震から4年】被災の和食店が新型コロナで開店延期 社長は「耐えるしかない」

田中森士ライター・元新聞記者
「青柳」の倉橋篤さんは、リニューアルオープンの延期を決断した(田中森士撮影)

熊本地震の「前震」から今日で4年が経過した。被災した店舗の建て替え工事が終了し、「本震」から4年となるタイミングでリニューアルオープンする予定だった熊本の和食店「郷土料理 青柳」(熊本市中央区)。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オープンの延期を決断した。社長の倉橋篤さん(43)は、「万一のことがあれば取り返しのつかないことになると考え決断した。経営へのダメージは甚大だが、今は何とか耐えるしかない」と苦渋の表情を見せる。

熊本地震で店舗は大規模半壊に

1949年創業の「青柳」は、県内の常連に愛されている有名和食店だ。県外にもファンは多く、関係者によると、先月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった志村けんさんも毎月のように訪れていたという。

「万一のことがあれば取り返しのつかないことになると考え決断した」と明かす倉橋さん(筆者撮影)
「万一のことがあれば取り返しのつかないことになると考え決断した」と明かす倉橋さん(筆者撮影)

かつては本館と別館の2棟で営業していたが、熊本地震で被災。別館が大規模半壊と判定された。「青柳」では、熊本城本丸御殿内の食事提供や、熊本市民病院の食堂運営も請け負っていたが、いずれも被災し営業できない状態となった。

「一時は落ち込んだ」という倉橋さんだが、「従業員の雇用を守らねば」と決意。「青柳」の再開に向けて動き出し、本震から1カ月ほどで、建物の安全が確認された部分で営業を再開した。その後、多額の借り入れをするなどして建物の再建に着手、仮店舗で営業を続けながらリニューアルオープンの準備を進めた。

「果たして本当に開店してよいのか」

本震が発生した「4月16日」という日付にこだわっていた倉橋さんだが、今年3月に入ると雲行きが変わった。新型コロナウイルスの感染が国内で拡大していったのだ。熊本でも感染者数は増加し続け、感染拡大に伴う緊急事態宣言が出されると「青柳」のある中心市街地の人通りも減った。

まだ一度も使われていない新店舗の個室。窓から見える和風庭園には枯山水が整えられていた(筆者撮影)
まだ一度も使われていない新店舗の個室。窓から見える和風庭園には枯山水が整えられていた(筆者撮影)

リニューアルオープンのお知らせは常連客にすでに郵送し、予約も多く入っていたものの、「果たして本当に開店してよいのか」と倉橋さんは自問自答した。個室での換気を徹底するなどの対策を考えていたが、「万一のことがあるとお客様や従業員などに多大なる影響を与えてしまう」と判断。社内で話し合いを続け、最後は延期を決断した。

いつもなら書き入れ時の春。しかし、歓送迎会の予約キャンセルが相次いだ結果、仮店舗での3月の売り上げは前年比で40%減となった。リニューアルオープンに望みを託していただけに、延期となって「経営は非常に苦しい」と胸の内を明かす。それでも、社員25人、アルバイト10人は現時点で一人も解雇しないことに決めた。

「今を全員で耐え抜く」

現在、自宅待機の従業員もいるが、5月8日のオープンに向けて生活リズムを崩さないよう、ビデオ会議システムによる朝礼を実施するなどしている。倉橋さんは役員報酬を全額返上し、休業補償の原資に充てることにしている。倉橋さんは「先行き不透明な状況に皆不安を感じている。これまで苦楽を共にしてきた仲間たちを守らねば」と力強く語る。

倉橋さんは「今を全員で耐え抜く」と自分に言い聞かせるように語った(筆者撮影)
倉橋さんは「今を全員で耐え抜く」と自分に言い聞かせるように語った(筆者撮影)

現在、「青柳」では弁当などの持ち帰り商品の販売に力を入れている。常連客からの注文が相次いでおり、昼間は忙しい。それでも「大赤字」(倉橋さん)なのが現実だ。倉橋さんは、「とにかく早く収束してほしい。皆が安心できる状態でオープンし、お客様をもてなしたい」とした上で、「それまで今を全員で耐え抜くつもりだ」と自分に言い聞かせるように語った。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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