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ナダルがローマ・マスターズで今季初タイトル。全仏優勝候補筆頭に踊り出た赤土の王

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

 ナダルが、果たしてタイトルなしで、ローランギャロスへと赴くことになるのか――?

 

 それが今回のローマ・マスターズの、最大の関心事項の1つだった。

 3月のインディアンウェルズ準決勝をヒザの痛みで棄権したナダルは、モンテカルロで復帰するも、続くバルセロナ、さらにはマドリードでも準決勝で敗退。ナダルがこれら3大会いずれでも優勝を逃したのは、2005年以降ではわずかに2度目のこと。ちなみに、赤土の王がツアー優勝することなく全仏に挑んだことは、過去に1度もない。

 今季、ローマを迎えた時点で無冠だったナダルの、心身の状態を心配する声はメディアや関係者の間でも囁かれる。だがそんな喧騒をよそに、「これまで勝ち続けていたのが異常事態。今の状態が普通」と、いつもの控えめな口調で語る彼は、ローマでもいつもの激しさでボールを叩き、2回戦から準々決勝までの3試合で6ゲームしか落とさぬ驚異の強さで、ドローを駆け上がっていった。

 ローマでのナダルにとって、最初の試金石となったのが、マドリードで敗れた次代の旗手のステファノス・チチパス戦。しかもチチパスは、フェデラーの棄権のため準々決勝を戦わずして勝ち上がるという、体力的なアドバンテージも得ていた。

 そのチチパスに、ナダルは序盤から剥き出しの闘争心で襲いかかる。この日のナダルが、マドリードの対戦時と大きく異なったのは、何よりフォアの精度だろう。早い仕掛けの攻めに活路を見出そうとするチチパスは、フォアの逆クロスを打ち込んではネットに出るが、その勇気はことごとくナダルの左腕の餌食になる。いずれのセットも序盤にブレークしたナダルが、自分のサービスゲームは全てキープし、全豪オープン以来となる決勝に歩みを進めた。

 

 一方、ナダルが待つ決勝に上がってきたジョコビッチは、満身創痍だったと言える。1日2試合を戦った翌日には、デルポトロと日付けを超える死闘を演じ、その翌日の準決勝でも、シュワルツマンと深夜に及ぶ2時間半の試合を戦ったばかり。無尽蔵のスタミナを誇るジョコビッチとはいえ、決勝戦の第1セットで動きに精彩を欠いたのは、あまりにも当然だった。

 それでも第2セットに入ると、ジョコビッチは数少ないブレークのチャンスをつかみ試合は最終セットへ。ここからさらに続くだろう死闘の予感にファンは沸き立つが、ナダルの左腕が、再びジョコビッチの気力を打ち砕く。試合が決した時には、疲労困憊のライバルをいたわってか感情の表出は控えめだったナダルだが、ベンチに戻ると激しく両手で拳を振り上げ、日が傾き始めた空へと咆哮をあげた。

 

 十分な練習と準備ができずに望んだというモンテカルロ、さらには「エネルギーを全く感じられなかった」というバロセロナの初戦を経て、「徐々に調子を上げてきた」と明言するナダル。ローマの優勝会見では「昨日の試合が今季のクレー最高の出来だと思ったが、今日は、昨日よりさらに良いプレーだった」と、目に光を宿し口元に微かに笑みを浮かべた。

 急ピッチで調子を上げた赤土の王が、ピークを迎えて、過去11度戴冠したローランギャロスへと帰還する。

※テニス専門誌『Smash』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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