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過去3年で10倍に高騰したアメリカ農地価格

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

米カンザスシティ連銀が発表した「農業信用状態(Agricultural Credit Condition)」調査によると、米プレーンズの今年第1四半期(1~3月期)の農地価格は、灌漑地区で前年同期比+21.5%、非灌漑地区で同+19.3%に達するなど、依然として高騰状態が続いていることが確認された。灌漑地区に限定すると、実に10四半期(=2年半)連続で前年同期比二桁の上昇率を記録している。2010年の農地価格を100とすると、1,031にも達している計算になる。

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ただ、昨年第4四半期(10~12月期)の+30.3%からは伸び率が鈍化しており、生産コストの高騰と穀物価格の低下が、農地価格の上昇にブレーキを掛けていると言えるだろう。同連銀は、「生育期を通じて収穫物の価格が低下する見通し」となっている影響を指摘しているが、農地価格動向からも米農家が今年の穀物価格見通しに慎重姿勢を強めていることが窺える。

通常だと、農地価格は農家のバランス・シートを強化するため、農家は農地を担保に銀行から融資を受けて、更に農地面積を増やすオペレーションを行う傾向にある。しかし、「多くの銀行は(農家の)負債レベルは管理可能な水準に留まっている」と報告しており、仮に穀物価格急落で農地価格に下落圧力が強くなったとしても、農家が農地の強制売却を迫られるような事態は回避できる見通しである。米農地面積は着実に増加しているが、農家は比較的健全な経営を行っていることが窺える。

若年層や新規に農業分野に参入した農家の借り入れ債務拡大がリスク要因として指摘されているが、農業経営環境全体としては収穫物価格の高止まりで良好な状態が維持されていると言えよう。

■干ばつ再来を警戒する米農家

その他に同調査から読み取れることは、昨年の大規模な干ばつ被害を受けて、米農家が灌漑施設に対する関心を著しく高めていることだ。10年までは灌漑農地と非灌漑農地の価格上昇率はほぼ同じだったが、11年中盤以降に灌漑農地の価格上昇率が明確な加速状態にあることが示されている。

ここ数年の世界的な天候不順で、米穀倉地帯でも「干ばつ」リスクが高まる中、農家が灌漑施設の整った農地に対する関心を高めていることは明らかである。米農地価格全体が上昇傾向にあるが、その中でも「天候トラブルの影響を受けづらい農地(=灌漑農地)」と「自然任せの農地(=非灌漑農地)」との間で、農家の選別が始まっていることが明確に確認できよう。

そしてもう一つの特筆すべき動きは、畜産農場価格の上昇率が鈍化していることだ。こちらは10年までは耕作用農地価格とほぼ同様の価格変動率にあったが、11年以降は耕作用農地価格との比較で明らかに価格上昇率が鈍っている。直近の13年第1四半期の場合だと、灌漑農地の上昇率が前年同期比+21.5%だったのに対して、畜産農場は同+14.3%に留まっている。2010年からの通期で見てみると、上述のように灌漑農地価格は10倍以上に値上がりしたのに対して、畜産農場価格は4倍程度の上昇率に留まっている。

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ここからは、大豆、トウモロコシなどの飼料価格高騰を受けて、畜産業に対する関心が相対的に低下していることが窺える。飼料価格高騰のコスト負担を畜産業者が消費者に転嫁仕切れていないことを強く示唆するデータであり、食肉・乳製品価格上昇または穀物価格下落の必要性を読み取るべきである。

国際連合食糧農業機関(FAO)の5月月例穀物供給・需給概況報告において、世界の小麦、粗粒穀物とコメの大規模増産を予測する一方で、穀物利用に関してはほぼ前年度並みの水準に停滞するとの見通しが示されているのも、これと同じ文脈である。

FAOの食糧価格指数は全体としては高騰が一服した形になっているが、こうした中でも食肉価格や乳製品価格が過去最高値更新を窺っていることは、未だこの分野が価格調整の必要性が高いことを訴えている。穀物価格の低下、食肉・乳製品価格の上昇、もしくはその双方を進める形で、バランス修正を進める必要性が高まっている。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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