Yahoo!ニュース

広がる実習生支援と終わらない権利侵害(1)弁護士の”10年支援”の結論は「制度の廃止」

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」の共同代表を務める指宿昭一弁護士、筆者撮影

 日本各地の弁護士が、労働組合など他の支援者と連携し、外国人技能実習生の権利保護に向けた活動を積極的に展開している。様々な問題から外部に相談することが難しい技能実習生。そんな中、法律の専門家をはじめとする市民社会の側から、未払い残業代や強制帰国、セクハラといった問題に直面した技能実習生を具体的に実効力ある形で支援する動きが続いている。

◆搾取される女性研修生との出会いが弁護士を動かした

実習生弁連の共同代表を務める小野寺信勝弁護士、筆者撮影
実習生弁連の共同代表を務める小野寺信勝弁護士、筆者撮影

 技能実習生を法律面から支援してきたのが、「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」(実習生弁連)だ。

 実習生弁連は2008年6月に「外国人研修生問題弁護士連絡会」の名称で発足し、その後、2010年に出入国管理及び難民認定法改定によって研修・技能実習生制度が技能実習に事実上、一本化されたことを受け、現在の実習生弁連に改称した。

 実習生弁連発足のきっかけの一つは、熊本県で弁護士として活動していた小野寺信勝氏(現在は実習生弁連の共同代表)が、同県天草地方の縫製工場で就労する研修生に対する人権侵害事件を担当したこと。当初、研修・技能実習制度のことは労働弁護士にも知られていなかったというが、小野寺氏は縫製工場で働く研修生の女性たちの話を聞く中で、壮絶な労働環境や人権侵害の実態を知ったのだった。

 そんな中、小野寺氏は、岐阜県の縫製工場で就労する研修生による労働審判の申し立てについて報道で知り、これを担当していた指宿昭一弁護士(現在は実習生弁連の共同代表)と連絡を取り、研修生・実習生の権利保護に向けた全国の弁護士のネットワークの設立を提案したのだという。

 その後、2008年6月、弁護士1、2年目の若手を中心に実習生弁連が活動を開始した。

◆「実習制度が今もあることに忸怩たる思い」

実習生弁連の設立10周年記念シンポジウム、筆者撮影
実習生弁連の設立10周年記念シンポジウム、筆者撮影

 実習生弁連は7月14日には都内で、設立10周年を記念するシンポジウムを開催した。

 シンポジウムでは、実習生弁連の共同代表、指宿昭一氏が「弁連のこれまでの取り組み」、移住労働者と連携する全国ネットワーク(移住連)の代表理事を務める鳥井一平氏が「技能実習制度について」というテーマで、それぞれ基調講演を行った。

 さらに、技能実習生支援の現場からの報告として、岐阜一般労働組合の甄凱(けん かい)氏が「岐阜アパレル」、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)のミンスイ氏とものづくり産業労働組合(JAM)の小山正樹氏が「ビルマ人実習生」、愛知県労働組合総連合(愛労連)の榑松佐一氏が「愛知での取り組み」、外国人技能実習生権利ネットワークの旗手明氏が「技能実習法の評価と『骨太の方針2018』」、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」の伊藤和子氏が「サプライチェーンの視点から」をテーマにそれぞれ話をした。

 この中で指宿氏は、発足からこれまでの実習生弁連による研修生・実習生支援について説明。実習生弁連のメンバーが現在までに、研修生の労働者性が争点となった「三和サービス事件」や「プラスパアパレル事件」に加え、全国で初めて研修・技能実習生の過労死労災申請を行った「技能実習生過労死事件」を皮切りに、全国の様々な事件を担当してきたとする。

 

実習生弁連の10周年シンポジウムの様子、筆者撮影
実習生弁連の10周年シンポジウムの様子、筆者撮影

 実習生弁連のメンバーが手掛けた事件では、研修生・実習生に対する時給300円という最低賃金割れの時給、賃金の未払い、賃金の強制貯金、過労死ラインを超えるような長時間労働の強要、強制帰国、セクハラ、パワハラ、恫喝、暴力、パスポートや通帳、印鑑の取り上げ、不当に高額な寮費や水光熱費の徴収、劣悪な住居環境といった数々の問題が露呈したという。

 中には、中国人技能実習生が日本人従業員に殺害された「銚子事件」や、日本弁護士連合会(日弁連)が事業協同組合(監理団体)、法務省、厚生労働省に勧告を出した「川上村事件」などもある。(『外国人技能実習生法的支援マニュアル』(2018年、明石書店))

実習生弁連の共同代表を務める指宿昭一弁護士、筆者撮影
実習生弁連の共同代表を務める指宿昭一弁護士、筆者撮影

 2008年の実習生弁連発足からこれまでの経緯を振り返り、指宿氏は、「(実習生の弁護を)やればやるほど、個別の事件が解決するだけではしかたない、この制度ではどう考えても人権が守られない、技能実習制度の廃止と、まともな外国人労働者の受け入れ制度の構築が必要だと思うようになった」と強調する。そして、「実習生弁連を10年やってきて、こんなに長くこの技能実習制度が存続するとは思わなかった。こんなにひどい制度は3~5年でなくなると思っていた。10年経ってもこの制度があることに、忸怩(じくじ)たる思いだ」と語る。

 さらに指宿氏は、(政府の外国人労働者の受け入れ政策の変化を受け)「技能実習制度が尻すぼみになる可能性があるものの、安倍政権の政策は、外国人労働者の受け入れを拡大する一方で、外国人労働者の定住化を促すものではないため、(技能実習制度と)同じ問題が繰り返されるかもしれない」との懸念を示した。(「広がる実習生支援と終わらない権利侵害(2)」に続く。)

研究者、ジャーナリスト

岐阜大学教員。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

巣内尚子の最近の記事