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名古屋のシンボル「ナナちゃん人形」が45歳に!愛され続ける理由

大竹敏之名古屋ネタライター
待ち合わせスポットとしても便利な名古屋駅のナナちゃん人形(4月22日撮影)

名古屋のシンボルといえば名古屋城天守閣の金の鯱、通称「金シャチ」が名実ともにダントツの存在感を示していますが、地元っ子の間で親しまれているのがナナちゃん人形(以下、ナナちゃん)です。

ナナちゃんは名鉄百貨店本店前の身長6・1mの巨大マネキン昭和48(1973)年に名鉄セブン館の開業1周年を記念して設置され、4月28日で45歳の誕生日を迎えます。名前は“セブン”館にちなんだもの。長らくスイス製とされていましたが、数年前の中日新聞の調査取材によって、スイスの規格を元に長野県で制作されたことが確認されています。

10年以上前から定点観測する筆者が知るナナちゃんの変遷

筆者の著作『なごやじまん』でもナナちゃん人形の衣装の変遷を紹介している。同書47ページより
筆者の著作『なごやじまん』でもナナちゃん人形の衣装の変遷を紹介している。同書47ページより

名古屋駅という場所柄に加えて、大きくて目立つので待ち合わせスポットとしても重宝されていますが、本来の役割はマネキンです。名鉄百貨店の催事のPRで夏は水着、クリスマスはサンタ、正月は晴れ着などに着替える他、名古屋まつりや献血、確定申告など公共性の高い広報・啓蒙活動にも熱心です。

筆者は平成19(2007)年から衣装の変遷を撮影し続け、Webガイドサイト「AllAbout」でアップしています。10年以上“定点観測”していると、衣装・演出の傾向や衆目の変化も見えてきます。

かつては裸の状態も珍しくなかったが今はほぼオールシーズン衣装を身にまとっている、トレンドを取り入れて毎年新調していた水着がここ数年は見られない、ドラゴンズが不調だと優勝記念セールなどがないためユニフォームを着る機会がない、服飾デザイン系の学生が手がける衣装が定番化している…などが近年の傾向です。

最近はあまり見られない裸、水着、ドラゴンズユニフォーム
最近はあまり見られない裸、水着、ドラゴンズユニフォーム

企業広告解禁でインパクト路線に

とりわけ大きな変化は平成24(2012)年から一般企業広告が解禁されたこと。これによって映画やアニメのキャラクターに扮したり、企業のキャンペーンに合わせた衣装を着用したりと自由度がぐんと広がりました。と同時に演出はどんどんインパクト重視に。壁から突き出たゴジラの腕につかまれたり、セールの安さに驚いてアゴがびょ~んと伸び、翌年には伸びたアゴが地面を突き破ったり。一昨年は興奮して鼻息がブシューッと噴き出す演出で、全国区のワイドショーにも取り上げるなど話題を振りまきました。

名鉄百貨店のインパクト演出の数々。おじきする、セールの安さに興奮して鼻息をブシューッと噴き出す、アゴがびょ~んと伸びて地面を突き破る、などなど
名鉄百貨店のインパクト演出の数々。おじきする、セールの安さに興奮して鼻息をブシューッと噴き出す、アゴがびょ~んと伸びて地面を突き破る、などなど

人々の反応にも変化が見られます。筆者が写真を撮り始めた頃は「何やってるの?」という冷ややかな視線を感じたものですが、数年前からは筆者以外にもナナちゃんにカメラを向けている人が珍しくなくなりました。ナナちゃんと同じポーズをとって記念撮影したり、ナナちゃんをバックに自撮りする人も数多く見かけるようになりました。インパクト路線が奏功してSNS映えすると注目度が高まっているのに加え、地元学生の衣装作品を採用することなどで市民にもより親しまれるようになっていると感じます。

ナナちゃんを撮る人たち街頭インタビュー

ナナちゃんをスマホ撮影する人も近年急増している
ナナちゃんをスマホ撮影する人も近年急増している

実際にどれくらいの人が“ナナちゃん撮り”をしているのか? 現地調査してみました。4月22日(日)の午前11~12時の間、確認できただけで24組。写真を撮る理由なども聞いてみました。

「あ、ここなんだと思って、名古屋に来た記念に撮って残しておこうかな、と撮りました。(印象は)デカいな(笑)。」(友人と2人でナナちゃんをバックに自撮りしていた神奈川県の20代女性)

「こっち(名古屋)の友人と待ち合わせ。目立って分かりやすいからとここを指定されました。写真は多分SNSにアップします」(大阪から来ていた50代男性)

「実際に見るのは初めて。たまたま通りかかって。インスタ映えは…あんまりしない(笑)。でも一応SNSに上げようかな」(友人と2人で撮影していた岐阜の10代女性)

「何度も見てるけど写真は初めて撮りました。2人で遊びに来た記念です」(岐阜の女子中学生2人組)

「5~6年前から面白い衣装の時は撮っているね。フェイスブックに上げて“名古屋に遊びに来てよ”とアピールしてます。名古屋へ来る人をまず案内する場所。こんな人形、他にないからね」(名古屋在住の60代男性)

この日着用していたのは昨年から何度もくり返し着回している名鉄百貨店の定番衣装のため、撮影者はかなり少ない方で、「話題性のある衣装の時はこの4~5倍はいます」(名鉄百貨店)とのこと。それでも、名古屋らしい風景として、とりあえず撮っておこう、という人が多いようでした。地元の人にとっても、他地方の人にとっても、ナナちゃんは名古屋のアイコン、シンボルとして機能しているといえるでしょう。

名鉄百貨店に聞く!ナナちゃんが愛される理由

さて、ナナちゃんはどうしてこんなに愛されるのか? 名鉄百貨店に尋ねました。

筆者の秘蔵ナナちゃん画像。名古屋まつりのパレードに参加、愛知芸術文化センターに一時引越しした際のナナちゃんの貴重な頭頂部、これまた貴重な衣装制作用の実物大ヘッドマネキン
筆者の秘蔵ナナちゃん画像。名古屋まつりのパレードに参加、愛知芸術文化センターに一時引越しした際のナナちゃんの貴重な頭頂部、これまた貴重な衣装制作用の実物大ヘッドマネキン

Q  ナナちゃん人形は名古屋の人にとってどんな存在でしょう?

名鉄百貨店広報担当者(以下、名百) 「名古屋駅のシンボルとしてそこにいなければならない存在として、皆さんに親しみ深く見守っていただいていると感じます。以前、建物の改修の際に一時的に愛知芸術文化センターへお引越しした際(2007年2~3月)は“どこへ行っちゃったの?”“ナナちゃんがいなくてさびしい”という声も聞かれました」

Q  近年はインパクトある衣装や演出も増えています。

名百  「現在は、名鉄百貨店独自の企画とスポンサーによるものと2種類があります。スポンサーにはナナちゃんのイメージを壊さないようご配慮いただき、“これはちょっと…”という場合は修正していただいています。その場合も、皆さまナナちゃんのことをよくご理解いただいているので、快く応じてくださいます。うちの企画は四季折々のものとクリアランスセール用が中心で、特にクリアランスのPR用はインパクトを重視したものが増えています。鼻息を噴き出すなど大胆なものもありますが、それぞれ話題になって多くの方に楽しんでいただいているようです」

Q  スレンダーで色白美人のナナちゃんですが、日頃のお手入れは?

名百  「もともとおきれいな方なので、特に何かしているということはありませんが、着替えの際に軽くお手入れするくらいです」

名古屋駅再開発で気になるその去就

ナナちゃんの定位置である名鉄百貨店を含む名古屋駅一帯は、2027年のリニア中央新幹線開業に向けて大規模な再開発が計画されていて、その際のナナちゃんの去就も気になるところです。

筆者はこの再開発にともなう街づくり会議の末席に加えてもらっていて、名鉄のお偉方にナナちゃん存続について意見したことがあります。名鉄も当然ナナちゃんの存在価値を認めていて、反応は前向きでした

今は全国各地のゆるキャラに代表されるように、様々な団体が愛されるマスコットづくりに躍起になっています。名鉄百貨店にとって、40年以上かけて多くの人から親しまれてきたナナちゃんに取って代われるキャラクターは、容易に生み出せるものではありません。この先も、永遠の箱入り娘として名古屋駅に立ち続けてくれることを期待します。

企業系衣装は一週間限定。GWや年末年始は限定コラボ商品も

「ナナちゃんチョコサンドクッキー」(左上)は通年販売の人気商品。他、GW限定の両口屋是清の千なり、農ブランドのナナちゃんロール、藤田屋のあんまき、ブルーミッシュのマカロン、美濃忠のももやま
「ナナちゃんチョコサンドクッキー」(左上)は通年販売の人気商品。他、GW限定の両口屋是清の千なり、農ブランドのナナちゃんロール、藤田屋のあんまき、ブルーミッシュのマカロン、美濃忠のももやま

名鉄百貨店ではナナちゃん人形のおみやげアイテムの販売もあり、円筒形のパッケージもかわいい「ナナちゃんチョコサンドクッキー」は通年販売の人気商品(15本入り770円)。他、GWや年末年始には地元メーカーによる期間限定手みやげ商品も登場します。

様々な衣装に七変化し、しかもその大半は一週間限定でその間しか見られない、さらには学生たちの手作りのコスチュームも登場する。ナナちゃんは一種のソーシャル&パブリックアートといえます。それを背景に写真を撮れば、まさに二度と再現できないオンリーワンのレアショットを残すことができる。あなたもナナちゃんとのツーショットを撮影しに、名古屋へお越しください。

(おみやげ商品写真は名鉄百貨店提供、他はすべて筆者撮影)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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