金正恩氏が消すに消せない「オラオラ時代」の不良写真
北朝鮮の金正恩委員長の振る舞いに変化が起きている。北朝鮮の朝鮮中央通信は先月29日、金正恩氏が今年創立70周年を迎えた平壌の金策工業総合大学を訪問し、教授や研究者らを激励したことを報じた。その場で金正恩氏は教授たちに深々と頭を下げるなど殊勝な姿を見せた。金正恩氏が頭を下げるだけでニュースになるのは、彼が過去に見せた「暴君」ぶりとはあまりにも違うからだろう。
たとえば2015年には、スッポン養殖工場を現地指導した際、工場の管理不備に激怒。支配人を処刑してしまった。この時の様子は公開された動画からもわかるが、尋常ならぬぶち切れぶりだ。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)
処刑前の動画を公開
金正恩氏は2011年、若干27歳という若さで北朝鮮のトップになった。人口約2,500万人の小国・北朝鮮とはいえ、27才で国家を率いる立場に就くというのはやはり普通のことではない。しかしそれにしても、彼の傍若無人な振る舞いは「若気の至り」では済まないレベルだ。
金正恩氏が公開活動をする際、彼の後ろに立った幹部たちが金正恩氏の指示や言葉を懸命にメモを取るのは、もはや現地指導のおなじみのシーンである。写真もたくさん公開されている。金正恩氏本人はと言えば、タバコを片手にふんぞり返っている。もはやマナーも何もない、オラオラ系の不良少年のようだ(下)。
もしかしたら金正恩氏は、このように振る舞ってこそ自らの権威が守れると思っているのだろうか。金正恩氏は、自らの権威のためなら手を血で汚すことも厭わない。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の幹部であろうと、少しでも気に入らないことがあれば容赦なく粛清してきた。2015年の春には玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)を銃殺した。韓国の国家情報院が国会に報告したところによれば、処刑では人体が文字通り「ミンチ」になってしまう「高射銃」が使用されたという。
(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…)
このような過去を持つ金正恩氏が殊勝な態度を見せたことで、韓国メディアは様々な推測をしている。全国紙の朝鮮日報は、首脳会談を通じて文在寅大統領の謙虚さに学んだのではないかと分析しているが、いささか深読みのし過ぎだろう。
そもそも、金正恩氏が頭を下げたのは今回が初めてではない。たとえば2017年1月1日、肉声で発表した「新年の辞」で「いつも気持ちだけで、能力が追いつかないもどかしさと自責の念に駆られながら昨年を送りましたが、今年は一層奮発して全身全霊を打ち込み、人民のためにより多くの仕事をするつもりです」と述べながら、頭を下げた。
また3月に中国の習近平国家主席との間で開催された中朝首脳会談では、目の前に置かれたノートに懸命にメモ書きするなど、これまでになかった様子が見られた。
おそらく南北首脳会、中朝、米朝首脳会談を通じて、自分の振るまいに対して多少なりとも神経を配る、つまり自分が世界からどのように見られているのかに気を使っているのではないだろうか。もしかしたら今までの傍若無人な振る舞いを「むかし、若かった時のこと」として封印したいと思っているかもしれない。
国際政治の舞台でデビューを果たした金正恩氏が自らのイメージアップを図るのはいいだろう。とはいえ、彼が国内で行ってきた乱暴で残虐な振る舞いをなかったことには出来ないのだ。