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歌舞伎を見る前に知っておきたい「ネタバレは正義!」 〜大向うが案内する歌舞伎入門〜

堀越一寿歌舞伎大向う
(写真:アフロ)

こんにちは。大向うの堀越です。

大向うとは、歌舞伎で掛かる「中村屋!音羽屋!」などの声援やその声を掛ける常連客のこと。皆さんもテレビなどで一度は聞いたことがあるかもしれません。私は劇場公認の大向うとなって25年余り。「興味はあるけど、歌舞伎を見に行くのはいろいろハードルが高くて……」という皆さんに、長年にわたり舞台を見てきたからこその歌舞伎の楽しみ方をお伝えしていきたいと思います。

今回は、歌舞伎に限っては「ネタバレ」を食らっておくことが大切!というお話をさせていただきます。

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映画を見る時、ネタバレが嫌でパンフレットを買っても見終わるまで読まない方は多いだろう。かくいう私もその一人だ。

しかし歌舞伎に限っては、これは全くオススメできない。「初めての歌舞伎だから自分の感じるままに見てみよう」というのは(あえて強い言葉で言うが)大変な間違いだ。

歌舞伎では「ネタバレは正義!」なのだ。今回はなぜネタバレをオススメするのかについてお話ししたい。

◆歌舞伎の落とし穴・「名場面だけ上演」

歌舞伎では「見取り(みどり)」と呼ばれる上演形態がとても多い。これは通し上演だと半日以上もかかるような大作の中の「これぞ名場面」という部分だけを上演するやり方を指す。合理的ではあるのだが、これこそが初心者を待ち受ける最大の落とし穴なのだ。

とにかく場面の前後に何が起きたのか分からない。その人物が誰で、どんな立場なのかわからない。その場面にはいないのに、知らない名前がどんどん出てくる……などなど。

ちょっとご自分の好きな映画やドラマを想像してみてほしい。それを友達に紹介する時に、いくら自分のお気に入りだったとしても、いきなりクライマックスシーンだけを見せたりはしないはずだ。

◆歌舞伎は「ライブ」であり「アニメ」だ

さて、あなたがもし誰かのライブに行くとなったら、まずはサブスクやCDなどを聴いて予習するのではないだろうか。「この曲、ライブで聴いたらさらに盛り上がるよなぁ…」など想像するのが楽しいし、むしろ1曲もそのアーティストの曲を聴いたことがないままライブに行く人は珍しいだろう。

実は歌舞伎にも同じことが言える。あらすじや全体像を先に知っておくことは、ライブにおける予習に等しい。そして、知っているからこそ、ライブ会場でそのコンテンツをとことん味わうことができるわけだ。

「いや、そうは言っても音楽とストーリーのある芝居ではネタバレの意味が違うよ?」と思われる方には、こんな質問をしてみたい。

『あなたが好きなマンガがアニメ化されたら、“もう内容を知ってるから見る気がしないよ”と思いますか?』と。

多くの方は「あれがアニメで動いたらどうなるんだろう?声優は誰?キャラデザインは?」とワクワクされるのではないだろうか。

そう、実は「内容を知っていたら楽しめない」というのは先入観で、メディアが変われば全く異なる楽しみが生まれることを私たちはとっくに知っているのだ。

◆歌舞伎では「筋書き(プログラム)」を買おう

先に書いた通り、歌舞伎では「見取り」上演が一般的だ。そのため、予習が必要だという点はおわかりいただけたと思う。とはいえ「予習なんかしている時間はない!」「予習しないと見に行けないの?」と不安になる人もいるかもしれない。

しかしちゃんと頼もしい味方がある。それがプログラム(歌舞伎では筋書き、番附などと呼ばれる)だ。

筋書きには芝居のあらすじや、そこにいたる前後関係、どの役を誰が演じるかなどが詳しく書かれている。また、各々の役者がどんな役作りや心掛けで舞台に臨んでいるかというコメントも掲載されることが多い。これらに開演前に目を通しておけば、いまから見る作品の大枠が理解でき、見どころもなんとなくわかってくる。

そうなればこちらのものだ。原作コミックのアニメ化同様、その物語を役者がどう表現するのか、どんな見た目なのか、衣装デザインや小道具、大道具に至るまで……しっかりと中身を味わうことができる。

たとえ多少わからないセリフがあったとしても、あらすじを知っているから置いてけぼりになることもない。

◆スマホで情報収集するだけでも楽しめる

その公演に特化した情報の入手には、筋書きを買うのがベストだ。ただ、「初めてだし、チケット代以外はちょっと節約したいなぁ…」ということもあるだろう。そんな時は、劇場に向かう電車の中からスマホで予習するだけでもいい。それだけで観劇体験は大きく変わるからだ。

なお、その予習には松竹の公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」や各劇場の公式サイトが大いに手助けになる。また、演目名で検索をすればさまざまな解説記事もヒットするはずだ。

どうだろう?「初心者には、ネタバレこそ正義!」という主張に、そろそろご同意いただけたのではないだろうか? 予習はたしかに面倒かもしれないが、少しの手間で歌舞伎体験そのものが大幅にアップグレードされるのは間違いない。ぜひ初心者の方こそ、積極的に「ネタバレ」を食らっていただきたい。 

歌舞伎大向う

東京生まれ。1997年より「音羽屋!「成田屋!」など俳優に声をかけて舞台を盛り上げる歌舞伎大向うとして故・十八代目中村勘三郎から信頼を得た。歌舞伎の面白さを多くの方に味わってもらいたいとの思いから講演や執筆を開始。テレビ、ラジオなどのメディア出演も多数。

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