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”子宝温泉”で授かったワタシが激推しの【温泉ごはん】は、ラジウム納豆!

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
栃尾又温泉は、今頃雪景色だろう。共同浴場「したの湯」(撮影・筆者)

湯治する大豆「ラジウム納豆」

おいしい旅館「自在館」(新潟県・栃尾又温泉)

「いい加減、おれたちで商売すんないゃ」

いつも父は苦笑いしながら私を見る。

しかし紛れもない事実であるから、私は語らずにはいられない。

許せ、父上。

上越新幹線浦佐駅から車で40分程の新潟県魚沼市に栃尾又温泉がある。

今でも素朴な雰囲気を残す旅館が3軒のみの山峡のいで湯。

開湯1300年と新潟県最古の湯と伝えられ、子宝の湯として名高く、薬師堂と子持杉と夫婦欅がある。

子供に恵まれなかった両親は長岡の自宅から1時間ほど車を走らせて栃尾又に通った。お薬師様に手を合わせて祈り、子持杉をまたぎ、夫婦欅をくぐり、仲良く一緒に湯に浸かり、そして私が授かったのだと、幼少の頃から聞かされて育った。

そうしたご縁もあるのだろう。栃尾又の湯との相性はばっちりだ。

共同浴場「したの湯」の源泉温度は約36度。ぬる湯にじっくりと入るのが栃尾又ならで、足を浸けると冷たい。どうしようと迷いつつ、時間をかけてゆっくりと身体に慣らしていく。

最後は「えいや!」と、気合でとぷん。

全身に震えがくる。鳥肌が立つ。

それでも入り続ける。肌が慣れてきたのか、気持ちも落ち着いてくる。

目をつむると、静けさが広がっている。

するといきなりその時がやってきた。

身体が溶けだすような、ほどけるような、とろけるような、温泉と身体が一体化した瞬間だ。

もよよよ~~~ん。

温泉のなかでゆらゆらと、全身が浮遊しているようだ。

ここまでくるのに、入浴から20分の人もいれば、30分以上かかる人もいるが、寒かろうが、冷たかろうが、温泉と一体化できる、その到着点を待つことだ。

気づけば、肌に気泡が付いていた。払い落すとしゅわしゅわとした。気泡が付くのは新鮮な温泉の証である。

栃尾又はラジウム泉で知られるのだが、こうした自然界の微量なラジウムは身体を整える効果があるとされ、江戸時代より湯治場として栄えてきた。ぬるい湯にじっくり浸かることで、基礎代謝が上がるのだろう。そういえば、母は冷え性だから、ここであたたまったに違いない。

湯治しているのは、人間だけではない。

大豆もだ。

今では温泉名物となっている「ラジウム納豆」は湯治の果ての産物なのである。

魚沼市の大力納豆の社長が、栃尾又温泉「自在館」に湯治に来たことがきっかけ。帰りに「自在館」の主がお土産にと、温泉の湯を持たせてくれた。これを納豆に使えないかと試行錯誤が始まり、「ラジウム納豆」の誕生と商品化に至る。

今では週に3回ほど、「自在館」の主が納豆工場へ温泉を運び、春なら18時間、冬なら20時間、新潟県内産の大豆を温泉に漬けて軟らかくする。その後、発酵させて納豆に。「自在館」に宿泊すると、朝食に「ラジウム納豆」が出る。

パッケージを開けると、あまり匂いが強くない。まるで大豆をそのまま食べているような感覚だ。大粒だから、余計に大豆のうまみを堪能できるような納豆だ。

ねばねばが強く、味はまろやか。こうした特徴は、水ではなく栃尾又温泉に漬けたからだそうだ。

「ラジウム納豆」のパックは30グラムと少量だが、朝食で食べ切るのにはちょうどいい。お土産に持ち帰ることもできる。納豆好きで、ほぼ毎日食す私も「ラジウム納豆」特有の粘りとまろやかさを時折思い出す。

大豆も、もよよよ~~~んと、温泉と一体になったのだろうか。

※この記事は2023年4月6日に発売された自著『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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