Yahoo!ニュース

銅先物市場での異変

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 主要な工業用金属の銅市場で異変が起こっていると27日付の日本経済新聞が報じた。

 世界最大の金属取引所のロンドン金属取引所(LME)で在庫が払底したことで、現物の取引価格が先物(先渡し)の価格よりも高くなる「逆ざや」の幅が一時1100ドル超と過去最大規模に拡大した。一部企業の意図的な供給締め上げ(スクイーズ)が背後にあった可能性もあり、LMEも抑制に動いている(27日付日経新聞)。

 LMEの銅先物の最終決済は株価指数先物のように売値と買値の差額のみをやり取りする「差金決済」ではなく、現引き現渡しとなる。これは原油先物や日本債の券先物の最終的な決済時も同様となっている。

 通常、商品先物の価格は現物と比べて倉庫代がかさむなど余分なコストがかかるため、理論上は順ざやになりやすい。

 しかし今回、激しい逆ざやが生じたきっかけは銅の在庫の急激な減少だとされる。在庫から引き出す予定の数量を差し引いた「余剰在庫」が14日に一時1万4150トンと、1974年以来47年ぶりの低水準に陥った(27日付日経新聞)。

 これによって価格変動リスクを回避するなどの目的で、先物の売り、つまり空売りしていた向きが現物を渡せなくなるリスクが発生し、これによって取引最終前に買い戻しを行わざるを得なくなったとみられる。

 これは2020年4月に発生した原油先物の一時マイナス化と逆のことが起きたといえる。

 原油先物取引も現引き現渡しが存在しており、買い方はそのポシションを取引最終まで持ち続けると、現物つまり原油そのものを引き取らなくてはならない。

 しかし、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を抑制するためとしてのロックダウンなどによる経済活動の低下を受け、原油そのものの需要が大きく後退した。さらに原油の供給も過多となっていたことで、需給バランスが崩れて原油先物は下落した。

 米国内ではすでに原油在庫が貯蔵施設の能力の限界に達しつつあり、供給過多で原油在庫が満タン近くとなっていた。

 原油を貯蔵する手立てがなくなりつつあり、そもそも原油を引き取るつもりもなかった投資家も慌てて売りを出したとみられる。WTIの取引がマイナスでも可能ということがわかったことも買い方を慌てさせた。その結果、WTIの先物価格が初めてマイナスとなってしまったのである。

 原油先物のマイナス化、そして今回の銅先物の逆ざやも、先物の現引き現渡しが絡んではいる。しかし、それとともにコロナ禍における原油需要の後退と、経済活動再開による銅需要の急拡大によって、先物と現物のバランスが崩れた事例といえよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事