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田中将大は契約破棄しヤンキースと再契約すれば良かった

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

田中がオプトアウトの権利を行使しなかったのは意外だった。ぼくが考えるほどFA市場での田中への評価は良好なものではなく、健康状態には依然強い懸念をいだく人たちも多かったようだが、他にも理由はあるかもしれない。

誤解がないようにしておきたいが、ぼくにとって意外だったのは、ヤンキース残留を選択したことではない。ヤンキースに残りたければ、オプトアウトし一旦FAとなり、ヤンキースを含む全球団の反応を見極め、その上でヤンキースと再契約すれば良かったのだから。そうすればニューヨーク残留と現時点での残契約3年6700万ドルを上回る契約の両方を手にすることができるはずだとぼくは考えたのだ。

オプトアウトすると思った理由は、ポストシーズン3試合で防御率0.90というパフォーマンスを含むシーズン後半以降の快投、肘の故障歴への懸念が指摘されながらも過去2年間基本的にローテーションを全うしている事実、まだ29歳という「賞味期間」を残した年齢などだ。これらを総合的に評価すると、このオフの先発投手FAの目玉であるダルビッシュ有(31歳)やジェイク・アリエッタ(31歳)らに、商品性では決して引けを取らないと考えたのだ。実際、選手の動向に関する有力サイトの「MLB トレード・ルーモアーズ」は、田中がFA市場に出た際の予想契約条件として、5年1000万ドルを挙げていた。単年では現状の残2200〜2300万ドルを下回るが、総額では大幅増だ。そして、これがとても重要なのだが、「オプトアウト条項を契約に組み入れるということは、それを行使することを前提としている」ということだ。

しかし、実際には厳しい評価もあったようだ。「ニューヨーク・ポスト」は「オプトアウト回避は、田中にとって賢明だった」と評価した。「肘の故障再発の可能性は否定できず、現在の契約を上回る条件は難しい」と見ていたようだ。結局、肘の状態に対する評価が分かれた訳だが、中を覗いてみることができない以上当然とも言える。

仮に、田中とその代理人ケーシー・クロースの認識が「ポスト」同様なら、今回の彼らの決断は理解できる。しかし、前述のようにオプトアウト条項を契約に盛り込むということは、それを行使することが前提だ。彼らはそこまで悲観的だったのだろうか、という疑問は残る。これは、日本人特有の組織への「帰属意識」が少なからず影響を与えたのではないだろうか。

純粋な田中も、オプトアウト権行使とはどういうもので、どんな影響をもたらすかよく理解していないということないだろう。メジャーの世界において契約は純粋なビジネスであることも、チームの先輩であるアレックス・ロドリゲスやCC・サバシアが契約途中でオプトアウトし、更に好条件でヤンキースと再契約をした(球団は痛い思いをしたが)ことも、それは選手の権利であり恥ずべき行為ではないことも知識としては得ているはずだ。しかし、それでもFA宣言後の残留を潔しとしない部分があるのかもしれない。個人よりも組織優先が尊ばれる日本社会で育ち、FA宣言&残留を認めない旧態依然とした球団が多いNPBに長く在籍したことの影響ではないか。もし、「カネより愛するヤンキースとニューヨーク」なら、オプトアウト後に好オファーがなくても3年6700万ドルを下回る条件でヤンキースと再契約すれば良いのだから。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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