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ポテンシャルを示す価値あるドロー/レノファ山口(J2第1節)

上田真之介ライター/エディター
岸田和人(9番)の気迫のシュート (筆者撮影。この記事の他の写真も)

 渡邉晋監督が就任したJ2レノファ山口FCは2月28日、維新みらいふスタジアム(山口市)で新シーズンの開幕戦を戦った。初戦の相手となった松本山雅FCのブロックを突いて決定機は作ったが、スコアは0-0。ただレノファの上昇への兆しがはっきりと見える試合になった。

明治安田生命J2リーグ第1節◇レノファ山口FC 0-0 松本山雅FC【得点者】なし【入場者数】4862人【会場】維新みらいふスタジアム

新戦力中心に起用

 フォーメーションとしてはオーソドックスな4-4-2を採用。11人のスタメンのうち既存戦力は佐藤健太郎、楠本卓海、高井和馬の3人で、過去にレノファでプレーしていた選手も含め新戦力が8人と大多数を占めた。

 ボランチを経由地としたパスワークでボールを握り、両サイドはサイドハーフとサイドバックのコンビネーションが推進力となった。前線のアイデアで崩したり、ドリブルで風穴を開けたりするよりも、パスを使って相手との駆け引きに挑む機会が多く、90分間は多少の懐かしさを覚えながら、あっという間に過ぎていった。

佐藤謙介はパスワークの中心となってボールを動かした
佐藤謙介はパスワークの中心となってボールを動かした

 試合を振り返ると、序盤は相手の出方を探る動きや開幕戦ゆえの緊張感などから中盤での攻防が続くが、前半22分に入った飲水タイム以降は双方がゴールに迫る場面を作っていく。

 同27分には右サイドハーフの島屋八徳が浮き球のパスを送り、これに反応した高木大輔が右足を振る。「シンプルにミートできれば良かったが、力が入ってしまった。あのようなところは確実に決めなければいけなかった」(高木)とゴールには飛ばなかったが、両サイドハーフの連係から決定機を創出。その直後には好セーブに跳ね返されるものの、石川啓人が左サイドから枠を捉えるシュートを放った。

 一連の攻撃では得点できず、代わって松本がサイドから仕掛けてセットプレーを多く獲得。佐藤和弘のプレースキックから何度かシュートまでつなげるが、レノファの守備陣も粘り強く対応し、前半を0-0で終える。

代役不在。手痛い島屋八徳の負傷

 後半の立ち上がりに、レノファは島屋を下げて池上丈二を投入する。島屋は前半40分に相手選手から左足にチャージを受け負傷。島屋と高木というタフガイをサイドハーフに置いていただけに、わずか45分での退出はチームにとって想定外だった。サイドハーフの代役もベンチには不在で、センターラインが本職の池上を急きょ投入した。

右サイドハーフで先発した島屋八徳。左足にチャージを受け45分で交代
右サイドハーフで先発した島屋八徳。左足にチャージを受け45分で交代

 「正直、一番痛かったのは島屋の負傷交代だ」。渡邉監督が率直に話すほど手痛い選手交代だった。それでも試合は「(FWに身長の)高い選手を入れて、そこを目掛けていくという仕掛けよりは、モビリティー(機動性)を出し、スピード感のある選手で背後を取っていくほうが松本さんにとって嫌であろう」というプランを変えずに進めていく。

 しかし、ゲームの進展とともに自陣でのパスミスで守備に追われたり、前線へのパスがずれたりと、疲れや連係の未成熟さがはっきりと見えるようになる。ボールを持てどもシュートを思い切り打てるような場面は減り、スコアレスのまま時間だけが過ぎていった。終盤、背後へのスプリントを得意とする岸田和人とフィジカルに勝る梅木翼を投入して1点を狙うが、ゴールは近づけられなかった。

 後半アディショナルタイムのラストプレーでは、高木がロングスローを入れ、その跳ね返りからゴール前にクロスを供給する。これに岸田が飛び込んでゴールネットを揺らすが=本稿表題の写真=、気持ちの入ったシュートは手に当たっていたためノーゴールの判定。試合は0-0のスコアレスドローで終え、勝ち点1を分け合った。

懐かしさと新しさを携えて

 攻撃で主導権を握るというレノファらしさは歴代の監督と同じだ。ただ、人数の掛け方は全員攻撃を貫いた上野展裕監督時代のスタイルに近いかもしれない。もちろん「近い」と言っても選手も違えば、フォーメーションも違う。それでも高さでの勝負を避け、人数を割いた地上戦でゲームを進めてく様は同時代を思い起こさせる。

 前任の霜田正浩監督はボランチから斜めに供給し、ボールを受けたウイングとセンターFWが最終局面を形成したが、それに比べれば横幅は同じでも、縦方向にはかなり可動領域が広がったサッカーに変化した。また、昨シーズンは失点が多かっただけに、渡邉監督はセットプレーや流れの中でのディフェンスも修正を図った。

飲水タイム時に選手に声を掛ける渡邉晋監督(中央)
飲水タイム時に選手に声を掛ける渡邉晋監督(中央)

 昨シーズンを最下位で終えたチームを「2年でJ1昇格」(渡邉監督)に持って行くためには、ドラスティックな変革は避けられない。霜田監督のスタイルが浸透している既存戦力にとっては頭の切り替えが必要で、渡邉流のカラーを植え付けるには時間が掛かるだろう。新戦力が多く入ったスタメンは必然だった。

 試合後の記者会見でテレビ局の記者から選手起用に関する質問が出され、渡邉監督は次のように答えている。

 「レノファが培ってきたものを尊重しつつ、自分の色を付け加えていく。どれくらい自分の色を出すかの作業をやりながら、キャンプ中のゲームでもう少し自分自身の色を出していかないと開幕には間に合わないというものを感じていた」

 渡邉監督が長く指揮してきた仙台でのプレー経験がある関憲太郎と渡部博文のほか、これまでのプレースタイルを渡邉監督自身が熟知している中堅選手を中心に起用。カギを握るボランチは横浜FCから加入した佐藤謙介と、ポジショニングやゲームの読みに長けた佐藤健太郎を配置した。

佐藤健太郎(左)は既存戦力で開幕スタメンを勝ち取った一人。中央はレノファでもプレーした松本の前貴之
佐藤健太郎(左)は既存戦力で開幕スタメンを勝ち取った一人。中央はレノファでもプレーした松本の前貴之

 もちろん先発が彼らで固定されるわけではない。開幕戦の先発は短期間で一定レベルのサッカーを表現するために選ばれた顔ぶれだ。それでも完璧だったとは言えない。関のファインセーブに救われたとはいえ、致命傷になってもおかしくはない守備陣のミスもあったし、前線に目を向けると、2トップの高井と草野侑己が孤立気味になったり、後ろ向きにパスを受ける場面が目立った。連係面が未成熟である分、ベンチ外の選手たちが入り込む余地は十分にある。

 渡邉監督は「相手の5人のディフェンスをどれくらい攻略できるかを一週間、入念に落とし込んできたが、パワーと勇気を持ってもう一人、二人が加勢するということをもっと増やせれば良かった」とも振り返った。相手陣での人数の掛け方も課題の一つだ。

ポテンシャルの見えた90分

 レノファは今年のスローガンを「決起」とした。上昇への決意がにじむその文字からすれば無得点は物足りないが、攻撃的なサッカーを貫くというレノファの伝統の上に、渡邉監督のスタイルがきれいに重なってきているのは間違いがない。スポーツナビで表示しているデータではボール支配率が約6割で、数字もレノファらしさの復活を支持する。

 次こそは勝ち点3を手にしたい。攻撃で主導権を握りながらどのように結果を出し、いかにして既存戦力を巻き込んで成長させていくか。ポテンシャルは十分にある。開花と上昇へ、新生レノファの挑戦が始まった。

 レノファの次戦はアウェー戦で3月6日に沖縄県でFC琉球と対戦する。アウェーサポーター席の設置状況についてはクラブの公式発表を確認してほしい。次のホーム戦は3月13日午後2時から、維新みらいふスタジアムでアルビレックス新潟と対戦する。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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