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クラブW杯で鹿島が躍進。Jリーグに世界で戦える人材はいないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
クラブW杯ではばたく金崎夢生(写真:ロイター/アフロ)

「(Jリーグには)代表に選ぶ選手がいない」

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はそう言って、Jリーグを軽視した。

Jリーグは実際、プレーテンポやインテンシティは欧州各国リーグと比較すると明らかに劣る。テクニックは高いのだが、激しさの中で技術が出せない。一方で守備は、プレー強度の高い相手(例えばハイクロスを放り込んでくる単純な攻撃でも)に脆さを見せる。アジアチャンピオンズリーグではそうした傾向が強かった。マイナス点は否めない。

しかし、JリーグにはJリーグが培ってきた特長もある。総じてボールテクニックに長け、アジリティーが高く、組織で戦う連帯感と献身性を持っている。それらは紙一重で懦弱さにもつながってしまうが、長所を糾合することによって、勝利を得ることもできるだろう。

クラブワールドカップにおける鹿島アントラーズの躍進が、その証左だ。

昌子の進化

鹿島はオセアニア代表のオークランド・シティ、アフリカ代表のマメロディ・サンダウンズを終盤のゴールでしぶとく撃破。グループとして「戦いの粘り」を見せた。それはジーコ以来伝統となっている「クラブは家族」の勝利精神に由来するだろうか。

とりわけ、アトレティコ・ナシオナルとの準決勝は真骨頂だった。相手の猛攻を集中して凌ぎ、カウンターで鼻を明かしている。3-0という勝利は、サプライズとして世界中に打電された。

ナシオナルの選手は、半数以上がコロンビア代表だ。ブラジルW杯でアルベルト・ザッケローニ監督率いた日本が為す術もなく敗れたのが、ハメス・ロドリゲスらワールドクラスを擁するコロンビアだった。ナシオナルのコロンビア人選手は代表の主力とは言えないものの、リベルタドーレス杯MVPのFWミゲル・ボルハなど、選手の質は遜色ない。

格上の相手に対し、鹿島の選手たちは辛抱強く守って、先制に成功している。ボールの出所をツートップが全力で塞ぎつつ、受け止めきれなければリトリート(後退)し、堅固なブロックを作った。時として、FW、MF、さらにDFの防御線も越えられたが(VAR判定は優位に働いたし、2度ポストやバーに当たる幸運も)、臆してはいない。後半になると、焦り始めて前がかりになったナシオナルの中盤でボールを引っかけ、精度の高いカウンターで突き放した。

センターバック、昌子源を中心としたディフェンスは何度も守備ラインを破られながら、水際で防いでいる。昌子はマメロディ戦はアフリカ人特有の強引さと身体能力に手こずり、何度も体を入れ替われていたが、そこからヒントを得たのか。たった1試合で、その間合いは見違えるほど研ぎ澄まされていた。自らタイミング良く仕掛け、インターセプトにも成功している。

また、途中投入された金崎夢生はスケール感を見せた。ボールをキープするだけでなく、前に運ぶ推進力も持ち、気持ちまで守りに入りそうだった味方に勝機を与えている。右サイドにボールを引き出し、遠いサイドから走り込んだ鈴木優磨に合わせたアシストは白眉だった。チャンピオンシップからオークランド、マメロディ戦と、金崎には覚醒した感がある。

鹿島の躍進で、「世界1位2位」を論じるのは空疎でばかばかしい。運もあったし、ナシオナル戦は完全に分が悪かった。しかし運をつかむのも実力だ。

昌子も、金崎も、世界と伍する日本人Jリーガーであることを証明している。

世界と対等に戦えるJリーガー

今シーズンのJリーグを振り返ったとき、阿部勇樹(浦和レッズ)、中村憲剛(川崎フロンターレ)、小笠原満男(鹿島)の3人が見せたプレークオリティは、特筆に値する。敵を引きつけ、ボールを流れさせる。守備では、敵の攻撃の渦となる発生点を見抜き、確実にフタをする。それはベテランの技量というのか。プレーを見る目は鋭く、まるで千里眼のようだった。

「世界に伍する選手。高いインテンシティやスピードの中、自分のペースでどんな相手も引き回せるか」

その基準で、バロンドール(フランス・フットボール誌選定の年間最優秀選手賞)風に選ぶなら、1位齋藤学(横浜F・マリノス)、2位大久保嘉人(川崎)、3位金崎という順位で推したい。齋藤はスピードを自在に操り、相手のスピードも奪う巧みさで、リーグでは一人抜けた感があった。大久保も4年連続得点王はならなかったが、日本人得点王の面目は保っている。次点では、ゴール前での高さや駆け引きに個性が見える豊田陽平(サガン鳥栖)か。

ディフェンダー陣ではGK中村航輔(柏レイソル)、CB昌子、SB吉田豊(鳥栖)、小林祐三(横浜)らが技量の高さを見せた。怪我に祟られたが、前半戦のCB奈良竜樹(川崎)のパフォーマンスも目覚ましかった。来季への期待を込めたルーキーとしては、関根貴大(浦和)、中谷進之介(柏)、橋本拳人(東京)、富樫敬真(横浜)、伊東幸敏(鹿島)、鎌田大地(鳥栖)の6人だろうか。いずれも、大化けする可能性を持っている。

特記すべきは、ここに挙げた全員がロシアW杯アジア最終予選(5試合)で一度も出場していない点だろう。ほとんどが選ばれてすらいない。

Jリーグに人材はいないのか?

クラブW杯における鹿島の躍進は、一つの答えを持っている。苦しい戦いをものにすることで、飛躍的に成長しつつある。決勝では、レアル・マドリーと激突。それは得難い経験になるだろう。

「厳しい環境を触媒に変身できる」

少なくとも、日本サッカーが"殻を破れる選手"を育んでいることは間違いない。欧州で活躍する海外組も、Jリーグから巣立って羽ばたいているのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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