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カタールW杯から成長を遂げるスペイン、ドイツ。森保ジャパンの「W杯ベスト8」は現実的か?

小宮良之スポーツライター・小説家
カタールW杯のスペイン戦で采配を振る森保監督(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

進化を続ける「世界」

 今年3月、世界各地で代表戦が行われている。

 欧州は、その渦の中心となった。今年6月には、EURO2024が開催される予定で、その出場を懸けたプレーオフも行われていた。ウクライナがその座を勝ち取り、ジョージアも初めての大舞台への出場切符をつかみ取った。

 すでに出場を決めた国々は、強化のために南米から強豪国を招いて親善試合を開催している。熱戦の連続で、とにかくそのレベルが高かった。なかでも、スペイン対ブラジル(3-3)、フランス対ドイツ(0-2)というゲームは、ワールドカップの準決勝にも等しいレベルだった。

 かつての世界王者であるスペインは、今や世界最高MFの呼び声も高いロドリを中心にゲームをコントロールしていた。リスクを恐れず、どんどん縦パスを差し込み、フリックで展開し、ゴールに迫った。無理だったらサイドを変え、自ら持ち出し、ダニ・オルモが神出鬼没。16歳のラミン・ヤマルは数的不利でも崩しにかかり、新時代到来を感じさせた。

 カタールW杯、スペインは無残にも日本のカウンターに沈んでいる。その弱点は変わらずに孕み、ブラジルにも痛い目に遭っていた。しかし攻撃の厚みは増し、戦術は成熟し、確実に成長を遂げている。

 一方、ドイツはキリアン・エムバペを擁するフランスを相手に、敵地でいきなりフロリアン・ヴィルツが先制している。シャビ・アロンソ監督率いるレバークーゼンで急成長する20歳の新鋭アタッカーの輝きは鮮やかだった。その後は反撃に劣勢も、かつて畏怖された勝負強さを発揮し、アントニオ・リュディガーが奮闘。カイ・ハベルツが追加点を決め、完封で勝利した。

 カタールW杯、ドイツも日本の反撃に面食らい、逆転負けの失態を演じている。最も期待外れのチームだった。しかし若い選手が台頭し、確実にチームとして上向きだ。 

 2026年ワールドカップに向け、日本の目標は「ベスト8」だというが、スペインやドイツと相まみえ、再び勝てるのか?

アジアカップで惨敗した森保ジャパン

 森保ジャパンの今の戦いは、不安しかない。

 何しろ全力で向かったはずのアジアカップでさえ、ベスト8が精いっぱいだった。グループリーグから不調は明らかで、イラクにも弱点を研究された印象で、”たまたま負けた”のではない。準々決勝のイラン戦に至っては完敗だった。

 日本は、彼らの高さやパワーを上回るほどの技術とコンビネーションで勝負を挑むべきだったのである。今までよりもリスクをかけるべきだった。攻撃で圧倒するような姿勢が望まれたが…。

「欧州組はシーズン中で、モチベーションが難しかった」

 その通りの総括だろう。

 しかし、そんなことは大会前から分かり切っていた。だからこそ、筆者はJリーグ勢やMLSなどアジアカップにシフトできる日程のリーグを中心に構成する”Bチーム編成”を提唱していたのだ。

 実際、アジアカップの敢闘賞は、セレッソ大阪の右サイドバックである毎熊晟矢だった。実力をアピールしようと、高い士気で挑んでいた。特に攻撃面では、久保建英などとのコンビネーションは可能性があった。

 イラン戦、毎熊はたしかに「世界」に遭遇し、限界だったと言えるだろう。イランの攻撃に対応できず、マーキングで常に後手に回った。息の根を止められた失点では、単純な高さで負けていた。

 つまり、Bチーム編成でも同じようにベスト8が限界だったかもしれない。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/08ba9281e54c3eb26f3309b6189e9b456f6fe7dd

 しかし、戦力の底上げにはつながっていただろう。Jリーグで結果を残した選手が選ばれ、そこで活躍ができた場合、正しい競争を生む。とても健全だ。

 ところが、森保一監督は「アジア制覇」を掲げて欧州から主力に全員集合を懸けたにもかかわらず、その競争にも不当さを組み入れていた。

森保ジャパンの矛盾

 森保監督は、GKにだけ「ポテンシャル」で鈴木彩艶にポジションを与えてしまった。

 プロに入って、一度もシーズンを通じてプレーしたことがないGKを抜擢し、そこに生じさせた矛盾は巨大と言える。たとえ、数年後に鈴木が日本を代表するGKになっても、マイナスは計り知れない。すでに一つの大会をすでに失っているのだ(指揮官は鈴木を大会で使い続け、今年3月、北朝鮮戦でも先発させている)。

「よりボールを長く持ち、イニシアチブを持って戦う」

 カタールW杯後、続投した森保監督は高らかに言って、昨年の欧州遠征まではトライしていたが、弱者の兵法に立ち戻っている印象で…。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4243b5410141dd6a82476bade4cf5449ef51720d

 世界のサッカーは健全に進化を遂げている。実力のあるものが生き残り、そうでないものは淘汰される。結果を残せなかったチームは変革を余儀なくされている。つまり、スペインはルイス・エンリケをクビに、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督を招聘し、ドイツもハンジ・フリックを解任、後任にユリアン・ナーゲルスマン監督を据えた。

 森保ジャパンはカタールW杯で殊勲を上げ、昨年9月にも主導権を握ってドイツを撃破したが、あの頃から刻々と状況は変化している。

 昨年夏まで、ドイツはカタールW杯での敗退のショックを引きずって連敗中だったし、新チームの戦い方に戸惑いも見えた。しかし、今や歯車がかみ合いつつある。新鋭選手が出てきたし、ドイツ開催のEURO2024に向け、攻勢に転じるパワーも出てきた。

 スペインも、16歳のラミン・ヤマル、17歳のパウ・クバルシなどが台頭。新チームに生まれ変わって、弱点よりも武器が強く打ち出されるようになった。EUROでも優勝候補の一角だ。

 今の森保ジャパンがドイツ、スペインと再戦して勝てるのか。

 現状維持では突き放されるだけだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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