子どもと新型コロナ 知っておきたい大事なポイント
新型コロナの流行に伴い、子どもの新型コロナの感染事例が増加しています。
子どもを持つ親として知っておくべき、「子どもと新型コロナ」の大事なポイントをまとめました。
子どもは大人と比べると新型コロナ感染者が少ない
厚生労働省の発表している年齢別の感染者数では、20代が最も多く、10代未満、次いで10代が最も少なくなっています。
20代と比べると、10歳未満の感染者数は10分の1未満です。
これは、小児の国内での人口が少ないから、というわけではありません。
図は折れ線が国内の年齢ごとの人口、棒グラフが年齢ごとの感染者数を表しています。
こうして見ると、10歳未満、10代は人口分布と比べても明らかに感染者数が少ないことが分かります。
ただし、日本国内でも感染の拡大に伴ってその割合が徐々に増えてきていることには注意が必要です。
子どもは感染しにくく、感染しても無症状になりやすい
なぜ子どもは感染者数が少ないのでしょうか。
その理由の一つとして、そもそも子どもは大人と比べて感染しにくいことが疫学的な検討から示されています。
つまり同じ新型コロナ患者と接触した場合であっても、大人は感染し、子どもは感染しないということが起こり得るということです。
これは実際に診療をしていてもしばしば経験しています。
この図は年齢ごとの感受性(感染者との接触による感染確率)の違いを見たものです。
年齢が低いほど感受性が低く、年齢が高くなるに従って感染しやすくなります。60歳くらいからは一定で落ち着きます。
なぜ年齢によって感受性の違いが生まれるのかについては、まだ結論は出ていませんが、新型コロナウイルスが細胞内に侵入する際に結合するACE2受容体に関連した遺伝子の発現量が小児では少ないことが可能性の一つとして挙げられています。
また、新型コロナウイルス感染症では、感染したとしても症状が出ない"無症候性感染者"がいることが分かっていますが、子どもは大人と比べてこの無症候性感染者の割合が多くなるようです。
世界各国の感染者の状況の調査によって、70代以上の感染者のうち69%が有症状者になる(31%が無症状)のに対し、10代の感染者では約21%の人が有症状者になる(79%が無症状)と報告されています。
しかし、現在イギリスを中心に広がっているVOC-202012/01と呼ばれる変異株は、これまでの新型コロナウイルスよりも子どもへの感染が起こりやすいのではないかと言われています。
もし国内でこの変異株が広がることがあれば、これまで以上に子どもでの感染事例が増える可能性があります。
子どもが感染源になることは大人と比べて少ない
では子どもは新型コロナの感染源になりえるのでしょうか?
結論から言うと、子どもが感染源となる可能性はありますが、大人と比べると高くありません。
まず、学校内でのクラスターも発生はしていますが、割合としては多くありません。
2020年10月30日までのクラスターの発生数は1761と報道されていますが、6月1日から11月25日までの学校現場でのクラスター(5人以上の感染者が出た施設)は61施設であり、社会全体に起こっているクラスター件数から見ると少ないと言えるでしょう。
第一波では学級閉鎖が行われましたが、海外の研究では新型コロナの流行に対する学校閉鎖はその他の介入と比べて効果は少ないと報告されています。
すでに学校は文部科学省から出された「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」という長いタイトルのマニュアルに基づいた感染対策を行っており、子どもが感染しにくいという性質だけでなく、こうした対策もあって学校でのクラスター発生が少なく抑えられているものと考えられます。
むしろ、子どもが感染しないように注意するためには、大人が感染しないことが重要です。
なぜなら、大半の子どもの感染例は、その親から感染しているからです。
日本小児科学会の小児症例レジストリでは約75%の子どもの感染例が親からの感染であることが分かっています。
つまり、子どもたちの間で流行が広がるというよりも、大人が外から家庭内にウイルスを持ち帰り、子どもにも感染させていることの方が多いというのが実情です。
子どもに感染させないためには、私たち大人が職場や会食などで感染して家庭に持ち込まないことが重要です。
子どもは症状が乏しく、重症度も低い
子どもの新型コロナの症状も明らかになってきています。
アメリカでの新型コロナ感染者の成人と小児の臨床症状を比較した報告では、発熱、咳、息切れなどほとんどの症状の頻度が成人よりも低く、成人に比べて子どもは症状が乏しいことが分かります。
また子どもは大人と比べて重症化しにくいことも分かっています。
厚生労働省の発表資料によれば子どもの重症化リスクは、30代を基準とすると、10歳未満は重症化リスクは0.5倍、10代は0.2倍とされます。
成人と比べて明らかに重症化はしにくいものの、重症化しないわけではなく、アメリカでは21歳未満の新型コロナ患者39万例のうち121例(0.03%)が亡くなっています。
特に1歳未満の乳児は重症化のリスクが高いとされています。
また、
・肥満
・遺伝性疾患
・神経障害
・遺伝性代謝障害
・鎌状赤血球症
・先天性心疾患
・糖尿病
・慢性腎臓病
・慢性肺疾患
・悪性腫瘍や免疫抑制薬による免疫抑制状態
Coronavirus disease 2019 (COVID-19): Clinical manifestations and diagnosis in children(UpToDate)より
などの持病のある子どもでは重症化リスクが高いとされており、特に注意が必要です。
海外では川崎病に似た重症化する病態も報告されている
欧米では子どもの新型コロナに関連して、(不全型) 川崎病に似た全身に強い炎症を起こす病態が報告され、新型コロナウイルス感染症関連小児多系統炎症性症候群(MIS-CまたはPIMS)と呼ばれています。
これは発熱、皮疹、結膜充血、心筋障害、腎障害などが見られる重症の病態です。
現時点では、国内で新型コロナの流行に伴って川崎病の発症数の増加はなく、またMIS-Cが疑われる症例は報告されていませんが、新型コロナのために入院した後で川崎病を発症した1歳児の事例が報告されています。
今後、日本でも感染者の増加に伴いMIS-Cの事例が増えるかもしれません。
これまでアジア人ではMIS-Cの報告は少ないのですが、今後、日本でも感染者の増加に伴いMIS-Cの事例が増えるかもしれません。
新型コロナによく似た感染症はたくさんある
もしお子さんに熱や咳、喉の痛みなどの症状がみられたとしても、新型コロナとは限りません。
今年は報告が激減していますが、インフルエンザやRSウイルス感染症、マイコプラズマ感染症、A群溶連菌性咽頭炎など、様々な疾患が熱や咳、喉の痛みの原因になります。
これらの感染症もときに重症化することがありますので、新型コロナだけでなく広く原因について考慮する必要があります。
仮に新型コロナのPCR検査を受けて陰性であったとしても、症状が続くようであればその他の原因も含めてかかりつけ医などに相談するようにしましょう。
子どもの感染対策も基本は同じ
子どもは重症化のリスクが少ないとしても、周囲に感染を広げないためにはやるべきことは大人と同じです。
・屋内ではマスクを装着する
・3密を避ける
・こまめに手洗いをする
といった基本的な感染対策を遵守するようにしましょう。
ただし、子どものマスク装着については、
・呼吸が苦しくなり、窒息の危険がある
・嘔吐した場合にも、窒息する可能性がある
・熱がこもり、熱中症のリスクが高まる
・顔色、呼吸の状態など体調異変の発見が遅れる
などの危険性が日本小児科学会から指摘されており、特に2歳未満ではこのような危険性が高まると考えられます。
子どもがマスクを着用する場合は、保護者や周りの大人が見守るようにしましょう。
監修:国立国際医療研究センター 日馬 由貴(小児科専門医)
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】