ようやく金正恩氏を「狼狽」させることに成功した日本外交
北朝鮮が、久々に日本政府に噛みついた。
日本政府は今春以降、米韓両国と連携し、北朝鮮労働者の派遣先となっている国に、受け入れを拒否するよう働き掛けを強めているとされる。北朝鮮による労働者の海外派遣が深刻な搾取と人権侵害を伴っており、そこからもたらされた年間5億ドルとも言われる収益が、核兵器や弾道ミサイルの開発にあてられている可能性があるためだ。
アキレス腱を切断
これに対し、北朝鮮の朝鮮中央通信が6日、「自発性の原則に基づいて海外に派遣された共和国勤労者たちは、国際法と国内法の要求に合致する労働および生活条件」の下にあると大真面目に反論し、日米を名指しで罵倒する論評を配信したのだ。
日朝交渉が停滞する中、日本にほとんど関心を失っているように見える北朝鮮が、このような反応を示すのは久しぶりだ。そして、その裏にはまず間違いなく、金正恩党委員長の怒り、ないしは狼狽がある。
なぜそう考えるかというと、北朝鮮のメディア戦略は、正恩氏が直轄していると見られるからだ。そうでなければ、北朝鮮メディアが正恩氏のヘンな写真を次々と公開することなどありえない。
(参考記事:金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか)
ともあれ、北朝鮮の反論が事実でないのは明らかだ。海外に出された北朝鮮国民が、様々な苦難の中にあることは、各方面からの情報ですでにわかっている。
(参考記事:ねらわれる少女、アキレス腱を切られる労働者…北朝鮮人権報告)
それでも、毎年送金される5億円の収入を維持するために、北朝鮮は強弁を張るほかないのだ。
つまり今回の日本政府の行動は、人権という普遍的な問題の観点からも、対北制裁という個別具体的な政策の観点からも有効であったと言える。そういえば、日本政府の取り組みが正恩氏を本気で怒らせたり狼狽させたのは、国連での人権制裁決議の推進以外では初めてではないか。成功した外交攻勢はいずれも、人権がらみだったということだ。
そしてそもそも、北朝鮮の核・ミサイル問題での暴走の背景には間違いなく、日本や欧米主要国との人権問題での断絶がある。
(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑)
だが、日本政府の今後の動き方については心配な点もある。
米国はすでに、北朝鮮国民への人権侵害の責任を問い、金正恩氏を制裁指定している。これは、政治犯収容所が全面的に閉鎖されるなどの措置が取られない以上、簡単に解除される性格のものではない。
それなのに日本政府はなおも、国交正常化を前提とした日朝交渉に固執している。仮に拉致問題で前進があったとして、日本政府は米国の制止を振り切ってまで、北朝鮮との国交正常化や大規模な経済協力ができるのか。
これまでの日米関係を振り返る限り、そんなことは到底できそうにない。そして、そのことは北朝鮮も知っており、だからこそ日本への関心を失っているのだ。
日本政府はこの際、対北朝鮮政策を大きく転換し、人権問題をより中心に据えた外交方針を立てるべきではないのか。