東京ドームの“こけら落とし”以来、32年ぶりに都心に積もった季節外れの雪
そうか、あの日以来か──。昨日付で配信された「東京で1センチの積雪観測 3月下旬以降としては32年ぶり」という記事を読んで、季節外れの雪が舞い散る窓の外を眺めながら、しばし物思いにふけった。
都心で9センチの雪が積もったその1988年4月8日は、ちょうどプロ野球の開幕日だった。
初のオープン戦でさっそく「ドームの恩恵」
その日、東京では読売ジャイアンツ対ヤクルトスワローズ(現東京ヤクルトスワローズ)のデーゲームが予定されていたのだが、降りしきる雪にもかかわらず試合が中止になることはなかった。前年までオープンエアの後楽園球場だった巨人のホームグラウンドは、この年から開場したばかりの東京ドームになっていたからだ。
日本初の全天候型多目的スタジアムとして東京ドームが開場したのは、1988年3月18日のこと。当日の東京は雨模様だったが、巨人対阪神タイガースのオープン戦はさっそく「屋根付き」の恩恵を受け、予定どおりに行われている。ちなみにこの試合で始球式を務めたのが、前年限りで現役生活に別れを告げ、巨人のユニフォームを脱いだばかりの江川卓(当時32歳)だった。
翌3月19、20日には「世界マーチングバンドページェント」というイベントが開催され、ゲストとして3人組ロックバンド、THE ALFEEがステージに上がっている。つまり、彼らが東京ドームで初めてライブを行ったアーティストということになるが、単独公演は英国のロックバンド、ローリング・ストーンズのリードボーカルであるミック・ジャガー(当時44歳)が第1号。大阪、東京、名古屋を巡るジャパン・ツアーの一環として、3月22、23日の2日間にわたってソロ公演を行っている。
東京ドームの“こけら落とし”は伏兵の一振りでヤクルトが勝利
話を4月8日の開幕戦に戻そう。開幕前には前述のオープン戦、そして12球団トーナメントも行われていたものの、この日がプロ野球公式戦としての東京ドームの“こけら落とし”。当時はまだ学生だった筆者は、発売前夜から徹夜でプレイガイドに並んでチケットを手に入れた。「東京ドーム開場記念」と銘打たれたこのチケットは、中央にゴールドでドームの全景が箔押しされた見開き仕様になっていて、今見ても特別感がある。
オープン戦の雨に続き、4月というのにドーム球場初の公式戦に合わせたかのように雪が降ったのは驚いたが、一歩ドームの中に足を踏み入れれば、そこは別世界。白い天井に覆われた球場内の雰囲気はそれまでとは全く違っていて、グラウンド上の選手を見ても、現実離れした感じがなかなか拭えなかったのを思い出す。
試合はヤクルトの新外国人ダグ・デシンセイが、20歳になったばかりの巨人の開幕投手、桑田真澄に東京ドーム第1号となるソロ本塁打を浴びせて先制。一度は逆転を許しながらも、7回に相手のエラーで追いつくと、代打・平田薫の2点二塁打で勝ち越しに成功した。投げては、先発の尾花高夫の後を受けた伊東昭光(現ヤクルト編成部長)が3イニングのロングリリーフで反撃を許さず、ヤクルトが4対2で逆転勝利を収めた。
決勝打を放った平田は、当時のヤクルト関根潤三監督の巨人二軍監督時代の“教え子”であり、大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)からトレードでヤクルト入りしたばかり。そんな伏兵が、古巣相手に大仕事をやってのけた。伊東は前年は31試合に先発してチーム最多の14勝を挙げていたが、この試合でプロ初セーブをマーク。この年はオール救援で55試合に登板して18勝9敗17セーブの成績で、最多勝のタイトルに輝く。
昼は巨人、夜は日本ハムの開幕ダブルヘッダー
なお、この日の東京ドームは変則ダブルヘッダーで、デーゲームで巨人対ヤクルトの開幕戦が行われたのに続き、ナイターで日本ハム・ファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)対ロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)の開幕戦も行われている。当時はセ・パ共に前年のAクラス球団が開幕カードを本拠地で開催することになっていて、前年はセ・リーグ優勝の巨人もパ・リーグ3位の日本ハムも、どちらも東京ドームを本拠地としていたためだ。
ナイターのほうは日本ハムが四番・大島康徳の2点二塁打で先制するも、開幕投手の西崎幸広が8回に乱れ、2対3で逆転負け。巨人と同様、新本拠地のこけら落としを白星で飾ることはできなかった。
当時のプロ野球は130試合制であり、ポストシーズンも日本シリーズのみのため、開幕は4月初旬というのが通例だった。現在はレギュラーシーズンが143試合に増え、さらに2ステージのクライマックスシリーズが行われることもあり、通常は3月下旬に開幕している。
今年は7月に東京五輪が開催されることになっていたため、例年よりも早い3月20日の開幕が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて延期されたまま。現在は4月24日の開幕を目指しているものの、選手たちの中からも感染者が出始めたことで、さらに延期される可能性もある。
(文中敬称略)