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「ストレス耐性」の強い人ばかり採用してよいのか〜メンタルヘルス重視時代を反映したこの採用基準の是非〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
(写真:アフロ)

■「ストレス耐性」は企業の採用基準に頻出するが定義は曖昧

よく採用における求める人物要件で、「ストレス耐性」という言葉が挙げられます。特に、ここ数十年で組織においてメンタルヘルスの問題が大きくなってきてからは、あらゆる会社が「ストレス耐性の高い人を採れ」と喧しいです。

しかし、「ストレス耐性」と言っても、いろいろあり、自社の仕事や社風にとって、適している筋の良いものと適していない悪いものがあります。それを十把一絡げにしてしまっては間違った人を採ることになります。

■あまりよくない「ストレス耐性」の例

例えば、鈍感な人はストレス耐性が高いかもしれません。自分に対する攻撃やダメ出しに気づかないのだから、ストレスをストレスと感じないから、耐性は高くなるというわけです。彼女に嫌われているにもかかわらず、「いやいやいや恥ずかしがっちゃって」とか言っている痛い男のイメージです。しかし、こういうストレス耐性の高さはよいのでしょうか。

また、物事を他責に考える人もストレス耐性が高いはずです。何か問題が起こっても、「俺のせいじゃない。あいつが悪いんだ」と明るく言える人は、おそらくストレスをやり過ごしやすいことでしょう。しかし、周囲の人はその人によって、かなりの迷惑を被ることになります。そう考えると、組織全体として見た場合の生産性は低くなってしまうかもしれません。

■よい「ストレス耐性」の例

一方、物事を良いように意味付けできる力のある人は、これもストレス耐性が高い人と言えます。同じ単純作業をしていても、「くだらないなぁ」とだけしか思えない人はその作業はさぞかし苦痛なことでしょうが、自分の行った作業がどこの誰かためになると意味づけして思えるのであれば、やりがいを感じて幸せな気分になれるのではないでしょうか。

自己効力感(あることについて、自分は多分できるという推測)や世界に対する基本的信頼感(別名、「根拠のない自信」)の高い人も、強いストレスにも負けずに、新たなことや未知なこと、リスクのあることに対峙する力を持つストレス耐性の高い人と言えるでしょう。

■「ストレス耐性」の強い人ばかりの集団はよいのか?

前二者は、自分はよくても周囲には悪影響を与えることのある「筋の悪い」ストレス耐性と言えます。後二者は、総称すればポジティブ・シンキングとも言える、周囲に悪影響を与えない「筋の良い」ストレス耐性と言えます。

しかし、私は思うのですが、後二者であったとしても、本当にストレスに強い人だけで構成されている組織が最高の組織なのでしょうか。

私が関わっていたある会社でよくあったことなのですが、間違った戦略の下でストレス耐性の高い人たちが頑張って目標を達成してしまう。すると間違った戦略は温存され、さらに厳しいストレスにさらされることになり、そしてどこかの時点で崩壊する。そんなことがありました。

また、いきなり歴史の例で恐縮ですが、江戸幕府が仏教を庶民に広めたのは、他の世界宗教と同様に、仏教が現状改革ではなく、現状の「認識」を変えることで幸せになるという教理を持つ宗教だったからという説も聞いたことがあります。

確かに、現状の保全を図る為政者にとっては、現状改革思想は危険思想にも見えます。ポジティブ・シンキングで現状の認識を変えるだけで幸せになってくれるのであれば、これほど楽なことはないでしょう。しかし、本来変えるべきものを変えないまま先延ばしにしても、待っているのはこれまた崩壊です。

■ストレスに弱い人は組織の健康状態がすぐわかる

ところが現在では、冒頭でも申し上げましたように、ストレスに弱い人を排除しようとする動きがあります。ストレスに弱い人は、組織の問題のしわ寄せを受けやすく、倒れやすい。だから、排除しようとするのでしょうが、それは実は浅薄な考えだと私は思います。

彼らは、組織問題のアラートを身を以て示してくれているのです(やりたくてやっているわけでは絶対ないでしょうが)。つまり、排除するのではなく「ありがとう」「申し訳ない」と思うべきではないでしょうか。彼らがいることで、組織は改革の必要性を感じることができるのです。

何事もバランスであるとは思うのですが、一定の割合で、敏感で感受性が強い一方で、ストレスには弱い人も組織にいることで、組織の変化対応能力や多様性の維持が可能となるのではないでしょうか。

■ストレスに弱いこと自体が価値ある場合がある

もちろん、彼らを人身御供にしたいわけではありません。そもそも鈍感で感受性の低い人ばかりで、世の中の変化や人々の気持ちを感じ取ることなどできません。ですから、そもそも価値ある人たちなのです。

細かいことを気にしたりする人も、ストレスには弱いでしょうが、そういう人がいなければできない仕事もたくさんあります。校正の仕事や経理の仕事などもそうでしょう。人事の仕事だって、大雑把な人では務まりません。

ストレスの問題にばかり目を向けてしまうと、それを解決しようと過度に偏った施策を行ってしまうことになります。組織の問題は別にストレスの解消だけではありません。

むしろ、問題だと思っているストレスに弱い人の増加は、皆さんの会社の強みを作っているコアの「副産物」かもしれません。

そうであれば、問題の立て方は「いかにストレスに強い人だけを採用するか」ではなく、「いかにストレスに強くない人でも能力を発揮できる組織を作るか」ではないでしょうか。この二つの問いは全く反対の答えを生みます。どうぞご注意ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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