将軍様のゴルフの腕を「笑いもの」にした北朝鮮記者の悲惨な運命
北朝鮮の外務省は昨年11月、このようなコラムをホームページに掲載した。
立派に整備された平壌ゴルフ場
わが国でも朝鮮民主主義人民共和国ゴルフ協会の主催でゴルフ愛好家たちの試合が定期的に行われており、ゴルフに対する社会的関心も高まっている。特に、試合が行われる平壌ゴルフ場は、多様で特色のある自然の起伏を生かし、国際的な試合が円滑に行われるように形成されたゴルフコースと、澄み切った青い湖畔の景勝地に位置する素敵な宿泊施設、クラブハウスは、ゴルフ愛好家たちを感嘆させている。
国営の朝鮮中央テレビは、「スポーツに対する社会的関心と熱気が高まり、平壌ゴルフ場に多くのゴルフ愛好家たちが訪れ、楽しい休息のひとときを送っている」と報じるなど、「推し」に余念がない。
平壌市内中心部から27キロ離れたところにあるこのゴルフ場は1987年にオープンし、18ホール、パー72のコースがある。ゴルフジャーナリストのジョッシュ・センス氏は、アメリカのゴルフ・マガジン誌に、2011年にこのゴルフ場を訪問した際のレポートを寄稿した。
彼がゴルフ場のマネジャーに「金正日総書記のプレーを見たことがあるか」と尋ねたところ、「将軍様は驚異的なゴルフの腕前の持ち主だ」と答えたという。
金正日氏と言えば、同ゴルフ場での初めてのラウンドで、5つのホールインワンを含む38アンダー「34」という驚異的なスコアを叩きだしたとされる「伝説」がある。
しかしセンス氏の取材によれば、金正恩氏のスコアカードには「パーで0」「ボギーで1」「ダブルボギーで2」と書き込まれていたという。これを、ゴルフに対して何の知識もない朝鮮中央通信の記者が「1=ホールインワン」と誤読し、将軍様を世界中の笑い者にするネタ記事を生み出してしまったのだ。
その後、件の記者が悲惨な運命をたどったであろうことは、想像に難くない。
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)
このエピソードが示すように、一般の北朝鮮国民にとってゴルフは見たこともないスポーツであり、平壌ゴルフ場は接近すら許されない場所だという。デイリーNK内部情報筋が伝えた。
平壌市民は、平壌ゴルフ場を「1号行事(金正恩氏が参加する行事)」や外国人用として認識しているという。平壌ゴルフ場を利用するツアーを販売する黎明ゴルフ旅行社の従業員以外の一般住民は接近が許されず、警備が厳重であるため、近づくのを恐れるほどだという。
今年5月に行われた「春季ゴルフ愛好家競技」について情報筋は、「黎明ゴルフ旅行社の従業員と一部の外交団員だけが参加した」「住民は報道を通じて行事があったことを知った」と述べ、外界とは完全に隔離されている様子を伝えた。
南浦(ナムポ)市江西(カンソ)区域に住む住民は、「ゴルフ場には武装警備兵が立っており、一般人は近づけない」「周囲にある太城湖もゴルフ場区域と一般区域を分けているが、水の中には網、水上には鉄条網を張って区切っている」と証言した。
1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころ、この湖で魚を釣っていた住民が警備兵に射殺される事件が起き、それ以降、人々は怖がって近づかなくなった。
「現地住民にとって、ここは不用意に入ると銃で撃たれて死ぬかもしれない恐怖の場所だ」(住民)
北朝鮮当局は、外国人観光客の本格的な受け入れ再開後に、観光の目玉の一つとしたいようだ。金正恩氏は、リゾートホテルが林立する元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区の建設事業の現地指導したと、18日の朝鮮中央通信が報じているが、国際社会の制裁に晒されている北朝鮮にとって、観光業は制裁にひっかからずに外貨が稼げる有力な産業だ。
コロナ前には数多くの中国人観光客が押し寄せ、オーバーツーリズムの様相を呈していた。しかし、中国人観光客の北朝鮮への関心はすっかり薄れたと言われている。また、ゴルフのプレー料金も決して安くはなく、観光の目玉になるのは期待薄だろう。