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「理想の子どもにしたい」は虐待リスク要因 目黒女児虐待死事件の父親の発言から見えたもの

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

10月1日、目黒5歳女児虐待死事件の父親の初公判が開かれました。

東京都目黒区で昨年3月、当時5歳だった船戸結愛(ふなとゆあ)ちゃんを虐待し、死なせたとして、

保護責任者遺棄致死や傷害などの罪に問われた父親の船戸雄大被告は、初公判で起訴内容の大筋を認めました。

父親の弁護側は、雄大被告には、理想の家庭があったこと、理想の子どもにしたいと思っていた、

父親になりたいという気持ちがあり、前夫との子が邪魔であるとか、憎たらしいから

虐待したのではない、と主張しました。

しかし、その主張の中からは、むしろ雄大被告が

虐待をエスカレートさせてゆく心理状態にあったことが見えてきます。

父親は虐待をエスカレートさせる心理状態にあった

雄大被告は、理想の家庭像を持ち、結愛ちゃんを理想の子どもにしたかったのだ、

と弁護側は主張していました。

理想の家庭像を持つことは決して悪い事ではありません。

ですが、理想を完璧に実現しようとするのはとても難しいことで、

実現出来ないことこそ、当然なのだと現実の中で受け入れていくことが必要です。

雄大被告には、その受け入れが出来なかったことが、弁護側の言い分から見えてきます。

 

「理想の子どもにしたい」という思いは、虐待につながるリスク要因です。

子どもが自分の思い通りにならないことが許せない、と感じてしまうからです。

言うことをきちんと聞かない、子どもが悪いのだ、だからもっと厳しくしなくては、とも考えてしまうからです。

雄大被告が結愛ちゃんに対して、そう思っていたのは、結愛ちゃんの反省文から明らかです。

「もうパパとママにいわれなくても

しっかりとじぶんから きょうよりも もっともっと あしたはできるようにするから

もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします

ほんとうにもう おなじことはしません ゆるして

きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことを なおします

これまでどれだけあほみたいにあそぶって あほみたいだからやめるので

もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします

あしたのあさはぜったいにやるんだとおもって いっしょうけんめいやる やるぞ」(結愛ちゃん反省文より)

理想の子どもにしたい。その親の思いは、エゴであり、押し付けでしかありません。

ですが、その思いが強いと、親は子どもへの暴力を「しつけのため」と考え、

虐待を正当化するようになりリスクがあるのです。

自分はこの子を「良い子」にするためにやっている。それなのに言うことを聞かないこの子が悪い。

親がそう思うようになり、虐待がエスカレートしてしまうのです。

ですが、親は子どものためにやっている、と思っているので、

自分の行動を正当化し続けます。

雄大被告も、この心理状態にあったと考えられます。

結愛ちゃんの体重をコントロールしようとしたのも、

ひらがなの練習や九九をやらせたのも、運動をさせたのも、

雄大被告は結愛ちゃんのため、と考えていたのでしょう。

だから結愛ちゃんが苦しんでいるのを無視し続けたのです。

自分が正しいと思っていたからです。

最近、知られるようになってきた「教育虐待」の親の心理にも共通しています。

名古屋で、子どもを自分と同じ学校に入れる為に教育虐待をした父親が

子どもを刺殺してしまった事件を記憶されている方もいらっしゃると思います。

親のエゴと「子どものため」という押し付けが、虐待につながるのです。

児童相談所の指導を理解していない

また、弁護側の主張の中で、雄大被告は、児童相談所に、

「実の親ではない」と言われ、拒絶反応があった、とありました。

「実の親ではない」と児童相談所は言ったかもしれません。

ですが、児童相談所は、「実の親ではない」という理由だけで子どもを保護することはありません。

雄大被告に一時保護の理由を説明しているはずです。

暴力は虐待である、やってはいけないことだ、と伝えているはずです。

それなのに、雄大被告には「実の親ではない」という言葉しか残っていない。

つまり、それは自分の何が悪くて、何を変えなくてはならないのか、

その指導を理解していない、ということです。

雄大被告は、児童相談所に結愛ちゃんを保護されても、

自分のやっていることが虐待であると理解していなかったということになります。

だから虐待が繰り返されたのではないでしょうか。

雄大被告が自分の行動を正当化していた、

正しい子育てをしている、と思っていたからだと考えられます。

公判はまだ続きます。

今後も公判に合わせて雄大被告の心理状態を分析し続けたいと思います。

※見出しと本文を修正しました。

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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