新しい性犯罪規定(7月13日施行)の概要
■はじめに
先日成立しました、110年ぶりとなる性犯罪規定の改正法が、7月13日より施行されることが決まりました。そこで、改めてその新しい性犯罪規定の概要について整理してみました。
主な改正点は、次の4点です。
- 強姦罪の抜本的な見直し(「強制性交等罪」への罪名変更、法定刑の引き上げ)
- 監護者としての影響力に乗じたわいせつな行為等の処罰(監護者わいせつ罪および監護者性交等罪の新設)
- 強盗強姦罪の見直し
- 強姦罪等の非親告罪化
■1■ 強姦罪の抜本的な見直し
(旧)(強姦)
第177条 暴行又は脅迫を用いて13 歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3 年以上の有期懲役に処する。13 歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
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(新)(強制性交等)
第177条 13 歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5 年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
a. 処罰の対象が広がった
まず、罪名が〈強姦罪〉から〈強制性交罪〉に改められました。
旧法では、(女性も強姦の共同正犯となることはできますが)強姦罪の主体は男性に限られ、被害者は女性とされていました。新法では、この処罰対象が広がり、性別を問わず、他人に対して性交、肛門性交または口腔(こうくう)性交をした場合が処罰されることになりました。
「性交等」には、犯人が、被害者の膣や肛門の中に、あるいは口の中に自己または他人のペニスを入れることに加え、自己または他人の膣や肛門、口の中に被害者のペニスを入れる行為が含まれます。肛門性交や口腔性交は、従来は強姦に対して刑が軽い強制わいせつとされてきましたが、行為の悪質性や重大性からこれらの行為も強姦と同じように処罰すべきだとされました。
b. 法定刑の引き上げ
旧法では、強姦罪の法定刑は「3年以上の有期懲役(原則20年)」とされていましたが、新法では、これが「5年以上の有期懲役」に引き上げられました。
これは、強姦罪の法定刑が財産罪である強盗罪(5年以上の有期懲役)よりも刑の下限が低いのは、被害者の性的自己決定権を財産よりも低く評価するものであり、不適切だとの批判があったためです。
なお、法定刑の下限を懲役3年から懲役5 年へ引上げたことについては、旧法では3年までの懲役ならば執行猶予が可能でしたが、刑の下限が懲役5 年に引き上げられた結果、情状酌量による減軽などがなされなければ執行猶予が付かなくなります。
c. 集団強姦罪(第178条の2)・集団強姦等致死傷罪(第181条第3 項)の廃止
これらの規定は、集団による強姦・準強姦という悪質性に対して強姦罪よりも厳しい刑を科す趣旨で2004年に改正されたものです。新法で、強制性交罪の法定刑の下限が引き上げられたことによって、これらの規定の意味がなくなりましたので、削除されることになりました。
■2■ 監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪の新設
(新設)(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第179条 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176 条(注:強制わいせつ罪)の例による。
2 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。
この規定は、18歳未満の者を現に監護する立場にある者が、その地位を利用して行った性犯罪を処罰するものです。
旧法では、強姦も強制わいせつも「暴行又は脅迫」(あるいは心神喪失や抗拒不能に乗じたこと)が要件となっていましたが、例えば被害者の意思に反して親子間で行われた性行為の場合、暴行や脅迫が行われていなければこれらの罪が成立せず、量刑がより軽い児童福祉法違反で処罰されていました。このような場合、被害者は加害者の庇護から逃れることが難しく、また、性的虐待が常態化しやすいことから、とくに暴行や脅迫を用いなくとも監護者としての影響力を行使することを要件としたものです。
「現に監護する者」とは、「実際に監護している実態のある者」という意味であって、必ずしも親に限りません。親子関係に同視できるような保護・被保護の関係があれば、「現に監護する者」に当たります。個別の事情によっては、養護施設の職員などは当てはまるでしょうが、教師やスポーツ指導者などは、「現に監護している者」とはいえないでしょう。
■3■ 強盗強姦罪の見直し
(旧)(強盗強姦及び同致死)
第241 条 強盗が女子を強姦したときは、無期又は7 年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。
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(新)(強盗・強制性交等及び同致死)
第241 条 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第179 条第2 項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は7年以上の懲役に処する。
2 前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
3 第1項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。
旧法では、強盗犯人が強姦をした場合には、第241条前段により、強盗強姦罪として「無期又は7年以上の懲役」という、強盗罪や強姦罪に比べて重い法定刑が規定されていました。他方、強姦犯人が強盗をした場合には、このような規定はなく、一般的な加重処理がされて、刑は〈5年以上30年以下の懲役〉となっていました。この点は、従来から同じ機会に強盗と強姦の両方の被害に遭うという点では同一であるのに刑罰が不均衡であるとの批判がありましたので、その点が改められました。
■4■ 性犯罪の非親告罪化
(旧)(親告罪)
第180 条 第176 条から第178 条までの罪(注:強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ罪及び準強姦罪)及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 (略)
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(新)削除
旧法が性犯罪を親告罪化していた趣旨は、被害者の名誉やプライバシーを保護することにありました。この点、新法は、被害者が告訴するかどうかの選択を迫られているように感じる場合や告訴したことにより犯人から報復を受けるのではないかとの不安を抱く場合があるなど、親告罪となっていることでかえって被害者に精神的な負担を強いている場合が少なくないとの認識から、親告罪に関する規定を削除しました。
ただ、これによって被害者のプライバシー保護や、被害者が起訴を望まない場合におけるその心情が軽視されないよう、慎重な捜査や公判段階における被害者の精神的負担軽減のためのいっそうの充実が望まれます。
なお、新法の施行前に行われた性犯罪についても、すでに告訴が取り下げられているといったようなケースを除いて、(被害者の精神的負担を軽減するという改正の趣旨から)さかのぼって非親告罪とすることが決まっています。(了)