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もはや比較対象は1890年以前に!遂に近代野球の枠をも飛び越えてしまった大谷翔平の二刀流の非現実さ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
すでに近代野球の範疇では比較できなくなった大谷翔平選手の二刀流(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【今シーズン7項目で史上初を達成した大谷選手】

 大谷翔平選手がMLB5年目のシーズンを戦い終えた。

 昨シーズンはジョー・マドン前監督の下、日本ハム時代から継承してきた従来の起用法を撤廃し、二刀流としてフル回転することでMVPを満票で受賞するほどの活躍をみせた。

 その時点ですでに二刀流選手として新たな領域に足を踏み入れていたのだが、それがまだ終わりではなかったことを証明してみせたのが、まさに今シーズンだった。

 エンジェルス広報が10月6日に公表した資料リリースによれば、今シーズンの大谷選手は、以下の7項目で史上初を達成している。

・同一シーズンで打者と投手で規定打席と規定投球回をクリア

・同一シーズンで投手として10勝以上+打者として30本塁打以上を記録

・MLB選手として打者で1試合8打点以上+投手で1試合13奪三振以上の両方を達成

・前年のリーグ優勝2チーム相手に6イニングまで1安打投球を達成

・4月20日のアストロズ戦で1900年以降史上初めて先発投手としてマウンドに上がる前に2度打席に立つ

・シーズン開幕戦で打者として初球に対峙し、投手として初球を投げる

・投手として先発した全試合で先発DHを兼務(「Dictionary.com」に大谷ルールという用語が追加される)

【投打の優劣がなくなり両方でMLBトップレベルに進化】

 今シーズンの大谷選手を端的に表現するとするならば、投打いずれもがMLBトップクラスに進化したということだ。それは大谷選手本人が、シーズン中に何度も「昨シーズンよりもいいかたちでできている」と手応えを口にしている通りだ。

 もし昨シーズンが終了した時点で、ファンを対象に「将来的に大谷選手が二刀流を断念しどちらかを選ぶとしたら?」というアンケートをとっていたとしたならば、かなりの確率で打者に偏っていたはずだ。

 だが今シーズン終了点で同じアンケートを実施したならば、より拮抗した結果になることが容易に想像できる。それほど今シーズンの大谷選手は、投手としての急成長が目覚ましかった。

 すでにご承知のことと思うが、規定投球回をクリアしただけでなく、いわゆる投手主要3部門(勝利数、防御率、奪三振数)でMLBトップ10入りしているのだから、大谷選手がMLBを代表する先発投手だということを誰も疑わないだろう。

【本塁打数&奪三振数でMLBトップ15入りは1893年以降初】

 投打ともMLBトップクラスに進化した大谷選手は、とうとう近代野球という物差しでは収まりきらなくなってしまった。

 これまで大谷選手の記録について報道される際、基本的に近代野球といわれる1901年以降(これまで本欄では「1900年以降」としてきたが、今後は「1901年以降」に統一します)の記録がベースになってきた。

 その中で特に大谷選手が比較されてきたのが、二刀流選手の草分け的存在だったベーブ・ルース選手だった。ところが今シーズンの大谷選手は、そんな枠すらも飛び越えてしまったのだ。

 とりあえず米メディアが投稿した2つのツイートを紹介したい。まず1つが本欄でも度々紹介しているサラ・ラングス記者のツイートだ、彼女はMLB公式サイトで記録専門の記事を担当し、米メディアの間でも“記録の大家”として認識されている存在だ。

 ラングス記者によれば、投手としての奪三振数と打者としての本塁打数の両方でMLBトップ15に入ったのは、マウウンドが現在の距離(18.44メートル)になった1893年以降で史上初の快挙だという。

【本塁打数&奪三振数でリーグトップ5入りは1890年以来】

 さらに時代は遡っていく。

 ESPNのツイートによれば、MLB全体ではなくリーグ単位で本塁打数+奪三振数でトップ5入りした選手は1890年以降で初めてのことだという。ちなみに1900年までMLBは1リーグ制だったので、「リーグのトップ5」という考え方も決して間違いではないはずだ。

 しかもMLBが創設された1876年から1890年の間でも、2つのカテゴリーでトップ5入りした選手は、1878年と1879年のジョン・ワード選手(1878年が1本塁打&116奪三振で、1879年が2本塁打&239奪三振)、1882年のジム・ウィットニー選手(5本塁打&180奪三振)、1890年のジャック・スティベッツ選手(7本塁打&289本塁打)と、のべ4人しか存在していない。

 ラングス記者が指摘しているように、1893年まではバッテリー間の距離が短かったため当時の記録と現在の記録を単純比較するのは不可能だ。だが大谷選手の二刀流が規格外なものになってしまったからこそ、米メディアは130年以上昔の資料を引っ張り出してくる事態になったというわけだ。

 これ以上の説明は不要だろう。今シーズンのMVP受賞が誰になろうとも、大谷選手は紛れもなくMLBで唯一無二であり、完全無欠の存在になってしまったのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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