<ガンバ大阪・定期便V0L.5>宇佐美貴史が語る、唐山翔自。 二人に通じるゴールまでの『過程』。
「緊張しました。昨日の夜も眠れなかったです」
ルヴァンカップ・グループステージ第3節の湘南ベルマーレ戦でトップチームデビューを果たし、2ゴールを挙げた唐山翔自は試合後、ピッチで魅せていた姿から一転、17歳らしい初々しさを覗かせた。
そんな彼にどことなく懐かしさを覚えたのは、今から11年前の宇佐美貴史の姿が蘇ったからだ。当時、クラブ史上初めて高校2年生で『飛び級昇格』をした宇佐美もまた17歳14日でのプロデビュー戦となった09年5月20日のAFCチャンピオンズリーグ・FCソウル戦でプロ初ゴールを刻み、試合後には「緊張しました」と話していた。その時の正確な言葉を思い出そうと、過去の取材メモを引っ張り出してみる。ちょうどFCソウル戦の2日後にインタビューした際の宇佐美の言葉が残っていた。
「試合はもちろん、前泊のホテルでも半端なく緊張しました。スタジアムに到着したくらいから少しマシになったけど、それでも緊張はしていました。ただ、ミチくん(安田理大/ジェフ千葉)がすごい僕に声をかけてくれて優しく接してくれて、それで和んだところもありました。また試合中もサポーターの皆さんが罵声とか一切なく、ずっと応援してくれたし、僕がミスをしても周りの選手がみんなして『OK! OK! 次、やろうぜ!』みたいに言ってくれて…特にポジション的に僕の後ろにいて縦のラインで絡むことの多かったミチくんは試合中もずっと『ボールを持ってもパスなんか考えなくていいぞ!』とか、僕がリラックスするような声を掛けてくれていました。プロデビュー戦は…これまで経験してきた公式戦とは比べ物にならないくらいめっちゃ楽しかったです(宇佐美)」
さらに、取材メモを読み進めていくと、FCソウル戦後、安田理大が宇佐美に対して『あいつは、もっているわ』と話していたことについても言及していた。
「デビュー戦でゴールを決められたこと自体は『もってる』部分もあるかもしれないです(笑)。でも、僕は天才じゃないので、努力しないとすぐダメになると思っているし、プロになってからは特に普段からサッカーのことばっかり考えて、ドリブルとか仕掛けのイメージをずっと描いて過ごしています。そうやって積み重ねていることがゴールに繋がったんだと思います(宇佐美)」
当時の宇佐美を懐かしく思い返しながら取材メモに一通り目を通したあと、今度は冒頭に書いた、湘南戦後の唐山の言葉に目を向ける。彼もまたデビュー戦での2ゴールについて「もっているなと思いました」と話していたが、同時に、そのゴールが決められた理由も冷静に分析していた。特に流れの中から奪った2点目について、だ。
「2点目のゴールは自分の中ですごく気に入っていて…大輔くん(高木)からきたボールを相手選手が少し触って、ほんのちょっとだけバウンドが変わった中でもしっかりボールに足を当てられた。自分の中では結構難しいシュートだったと思っているし、そこは練習の賜物かなと思います(唐山)」
「もっている」ことには、理由がある。
宇佐美の言葉を思い返す中で感じていたことが、唐山のゴールシーンの説明に重なり合う。森下仁志U-23監督も後日、その『理由』について話していた。
「試合後に翔自(唐山)が『もっている』とコメントしていましたが、まず自分でそう思えるのはすごく大事なことですが、それだけじゃないというか。去年からU-23での彼を見てきましたが、翔自はうちのグループでも一番、サッカーに全てを捧げて、打ち込んでやっている。その中では思うようにいかないこともたくさんあって、でも、涙を流しながらも踏ん張って練習して向き合ってきた、と。つまり、何もしなくてああいう状況が生まれたわけではなく、そういう日常があるから彼のところにボールがくるし、『もっている』人間にもなれる。今のまま続けていけば、さらに『もっている男』になっていくんじゃないかと思っています(森下監督)」
もがき、苦しんで、それでも「今日より明日、いいプレーができるように」と自分に向き合う。唐山のゴールも、その継続によって生まれたものだということだろう。
そんな唐山について、宇佐美もまた「翔自には感じるものがあった」と話す。思えば今年の2月に唐山について尋ねた時にも「翔自は練習でも紅白戦でも、とにかくよくゴールを決める。それってめっちゃ大事なことやと思う」と話していた宇佐美。湘南戦で挙げた唐山のゴールについて尋ねると、開口一番「いや、もう素晴らしかった!」と返ってきた。
「翔自(唐山)のいいところは、練習でも高校生やから…的な遠慮がなく、『自分が結果を出してやる』『自分がやるんや』という意識があることと、17歳ですでに『このままじゃアカン』って危機感が伝わってくること。先日、たまたま彼と同じ年齢のユースチームの選手がトップの練習に参加していたけど、彼らを見て『そうか、翔自はこの子たちと同じ歳やったな』って驚きましたから。つまり、そのくらい翔自はすでに心身ともに『プロ』になっているってことだと思います。振り返れば僕もプロ2年目、高校3年生の時にはそういうマインドを持てていたけど、1年目は正直、周りに気を遣って遠慮してばかりしていて…デビュー戦で初ゴールを決めたあと全く活躍できずにそのシーズンが終わったのも、そこに原因があったと思う。その経験からも、またいろんな選手を見てきた中でも、若い選手っていかに早く『遠慮と縁を切れるか』が一番大事というか。ピッチに立った時に、先輩とか経験の多い、少ないに関係なく、遠慮せず、物怖じせずに『俺がやってやる』と本気で思えた選手から結果を出せたり、いいプレーをし始めたりする。今の翔自にはそれをすごい感じるし、だからこその結果やったと思う(宇佐美)」
「もっている」から決められたのではなく、「もっている自分」を作り出す過程を過ごしてきたからこそ決めることができた、2ゴール。もっともこれも、唐山翔自がプロとして紡いでいく物語の始まりに過ぎないことは本人も自覚しているのだろう。湘南戦の3日後、16日に行われたJ3リーグ・Y.S.C.C.横浜戦で、唐山は再びゴールネットを揺らした。公式戦3試合連続となるゴールだった。