Yahoo!ニュース

<ガンバ大阪・定期便121>シーズンを通して示した存在感。中谷進之介が初の『ベストイレブン』に。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
プロ11年目にして『ベストイレブン』は初受賞となった。写真提供/ガンバ大阪

■DF部門で最多得票数を集めて、自身初の『ベストイレブン』に選出。高校1年生の時に抱いた憧れは現実に。

 12月10日に行われた『2024Jリーグアウォーズ』において、中谷進之介は自身3度目の優秀選手賞と『ベストイレブン』に輝いた。今シーズンのベストイレブンは監督及び選手投票結果をもとに得票数上位よりDF1名、MF1名、FW1名、左右サイド各1名が選出。GKを含む残りの6名は選考委員によって決定されたが、中谷はそのDF部門で最多得票数を集め、初の『ベストイレブン』選出となった。

「一緒に戦ってくれたチームメイト、スタッフに感謝します。チームとしては天皇杯も決勝で敗れて獲れなかったし、J1リーグも4位に終わってしまったので。来年はみんなでタイトルを獲得するためにも、僕自身も今年以上にいいパフォーマンスをしなければいけないと思っています」

 セレモニー中はやや緊張した面持ちも見せていたが、舞台を降りるといつもの中谷らしく、感情のままに真っ直ぐな言葉を口にした。

「キャプテン(宇佐美貴史)は絶対に獲ると信じていたんですけど、僕自身はそこに入り込めるかはわからなかったので、名前を呼ばれた時は、テンションが上がりました! 自分で言うのもなんですが、プロになって今年ほどいい感覚でプレーできたシーズンはなかったし、どの試合も自信を持ってピッチに立てていた。シーズンが始まった時からダニ(ポヤトス監督)にはリーダーシップを求められてきたけど、その責任も自分に勢いをつけてくれた気もします。貴史くんというキャプテンの凄さを間近で見て、自分がそこに続かなければいけないという思いもありました。特に夏を過ぎたあたりから、自分のパフォーマンス次第でこのチームをどうにかできるという手応えを感じられていただけに、それを責任感に変えてプレーしようと思っていました。それを評価していただいてベストイレブンになれたのは素直に嬉しい。今年のパフォーマンスが今後の自分にとっては最低限の基準になると思っています。ガンバに来たことで自分が変われるチャンス、成長するチャンスをもらったと考えても、ガンバに感謝しています」

 中谷が初めて『ベストイレブン』の存在を知ったのは、柏レイソルがJ1リーグ初優勝を実現した2011年だ。同ユースチームに所属する高校1年生だった彼は、トップチームから4人の選手がベストイレブンに選出される姿を羨望の眼差しで見ていたという。

「高校1年生の僕にしてみたらもう、めちゃめちゃ輝いて見えて。こういうところに選ばれる選手になりたいって憧れました」

 その後、14年にプロキャリアをスタートし、自身も16年には初めて優秀選手賞に名を連ねたが、当時は槙野智章(浦和レッズ)や森重真人(FC東京)ら錚々たるセンターバック陣が存在感を示していたこともあって「箸にも棒にもかからないと思っていた」と中谷。それは名古屋グランパスに移籍した20年も同じで、前年度に続き2年連続フル出場を実現したことに充実感を覚えながらも、16年と同じ感情は拭えなかった。

「川崎フロンターレが圧倒的な強さを示していたシーズンで、ジェジエウ、谷口彰悟くんもいいパフォーマンスをしていましたからね。僕も、試合にはたくさん出してもらったけど自分の経験値とかパフォーマンスをいかにチームの結果につなげられるのかって部分ではまだまだだと思っていました。しかもチームメイトの藤井陽也(KVコルトレイク)の近くでプレーしてみて正直『やっぱ、すげえな』『今の自分ではこいつに敵わないな』って感覚もありましたしね。彼に負けないように頑張ろうとか、自分を成長させることに必死でした。そういう意味では、今シーズンが一番、優秀選手賞に選んでいただいたことに手応えがあるというか。自分のパフォーマンスにも集中しながら、でもそれだけじゃなくてチームを引っ張る意識をしっかり持って戦えたことへの充実感は一番感じられた1年でした」

 だからこそ、今年はその充実感が初の『ベストイレブン』につながったことが素直に嬉しかった。

■リーグ2位の失点数を支えた守備力。「チームと一緒に自分も上昇していくような感覚を持ちなが進んでくることができた」

「去年のガンバは明らかに失点が多かったことからも、僕が入ることで、失点を減らしたいし、それが自分の価値を上げることになると思っています」

 シーズン当初に語った決意通り、最初から最後まで『圧巻』というべき存在感を示した1年だった。リーグ戦へのフルタイム出場はチームはおろかリーグ全体を見渡してもフィールド選手で唯一の偉業だ。中でも、昨年61を数えた失点数が今年はリーグ2位の35と大幅に減少した事実も、中谷の存在抜きには語れない変化だった。

「移籍1年目で正直、チームがどういう方向に進んでいくのかはわからない状況で、なおかつ自分自身も移籍という新たなチャレンジを決断した中で、自分のことにも集中しなくちゃいけない、でも副キャプテンを任された以上はチームのことも考えなければいけないという中でのスタートだったので。正直、開幕前は『俺、大丈夫かな?』と思う自分もいたんです。でも、そんなふうに不安を覚える時は大概、いいプレーができてきたという過去の経験も思い出し、力にしながら戦ってきた自分もいました。その中でチームと一緒に自分も上昇していくような感覚を持ちながら進んでくることもできました。そういう意味では、名古屋時代のリーグ戦でフル出場を実現した19、20年とはぜんぜん種類の違うプレッシャーを感じながら、それを乗り越えられたという手応えもあります。もちろん、これは僕だけじゃなくて、チーム全体の意識が変わったことや守備意識の高まりがあってこそ。その一員として戦い抜けて自信になった」

 事実、読みの鋭さをもとに展開される守備力をはじめ、危険なシーンで決まって体を張り、ボールを掻き出す粘り強さや『無失点』への執着。局面での強さなど、気迫を漲らせたそれらのプレーの数々は、チームの守備意識を促し『戦える集団』に変貌させた。

「ガンバに来るまでは正直、そこまでシュートブロックが強みだって感覚はなかったんです。でも、シーズンを戦っていくにつれて足を止めない守備を心掛けることで、際のところで粘れるようになったし、それがチームに伝染していっていることに自分も勇気をもらってプレーできたところもあった。実際、チームとしての守備意識もすごく上がったし、各々が他人任せにプレーしなくなりましたしね。例えば、背後にボールが走った時に追いつかなくても一生懸命戻るとか、って意識は実は守備ではすごく大事で…そういうことを疎かにしない姿勢がチームに与える勇気や、それによるいい連動も増えたのかなと。ただ、そこはまだまだ突き詰められるところだと思っています。実際、例えば、37節・アルビレックス新潟戦にしても、シーズン序盤、ホーム開幕戦(第2節)で戦った新潟戦の映像を見返すと、もっともっとラインを高く敷いて、コンパクトな守備ができていたし、もっとこまめにスライドしていたので。そこは夏場、暑さや疲れが出はじめた頃から、少しなーなーになってしまったというか、個人で守れることに胡座をかいてしまっていた自分たちがいたのも事実なのでまだまだ改善していけると思っています」

■キャリアハイの6ゴールに込めた熱量。自身にとって「一生忘れない」ベストゴール。

 また忘れてはならないのは、キャリアハイを記録した得点力だろう。記憶に新しいJ1リーグ最終節・サンフレッチェ広島戦を含め、ここぞという場面で際立った彼の得点や勝ち点への執着がゴールに繋がる試合も多く、プロ11年目で決めた6ゴールは(リーグ4得点、カップ戦2得点)いずれも観ている者の心を鷲掴みにするような熱量で表現された。

「ゴールはオマケ! まじ、オマケです! 特にリーグ戦はたまたま体に当たったとか、貴史くんのFKが髪の毛に触れて入ったとか、奇跡的なゴールも多かったですしね。印象に残るような展開も多かったからインパクトがあったのかもしれないけど、セットプレーでの得点は…うちはいいキッカーが揃っていることからもまだまだ決められたと思う。唯一、天皇杯準決勝・横浜F・マリノス戦の同点ゴールだけは胸を張れるというか。自分のキャリアにおけるベストゴールだと思っているし、一生忘れない気がします。特に得点に至るまでの背景も…その前に自分のところでミスが出て失点して『これ、やっちゃったな』って思ったんです。ショックとはまた違うんだけど、言葉にし難い苦い気持ちでした。でも、これは本当に後付けでもなんでもなく、まだ時間があったせいか、なんか取れる気がしてたんです。徳真(鈴木)がボールをセットした瞬間に、『俺に来るな』と思っていました。きっとその予感は、パナソニックスタジアム吹田の雰囲気に背中を押されたところもあったと思います。後半、ホームゴール裏を視界にとらえながらプレーしていましたけど、彼らの熱量もものすごかったから!」

ファンの間でも語り継がれるであろう、天皇杯・準決勝での魂の同点ゴールは、4年ぶりの決勝進出を後押しした。写真提供/ガンバ大阪
ファンの間でも語り継がれるであろう、天皇杯・準決勝での魂の同点ゴールは、4年ぶりの決勝進出を後押しした。写真提供/ガンバ大阪

 もっともここまでの彼の言葉にもあるように、攻守両面でまだまだ改善できるところ、変化させることはたくさんある。それは『タイトル』に届かなかった事実を踏まえても、だ。マリノス戦での失点を受けて「翌週のトレーニングではクロスボールに対するスピードの調節を含めて自分の入り方を見直した」と話していた中谷だが、そんなふうに常に起きた事実と真摯に向き合い、改善、成長を求め続ける先にしか、チームとしての変化も、進歩もない。

「今年、ガンバという新しい環境に来てトライすることはできたし、ダニのサッカーへの順応もシーズン前に想像していた以上にうまくいったのかなとは思います。正直、スタートする時は、ここまで勝ち点を積み上げられるとは思ってもみなかった。それは自信を持ってもいいところだけど、ただ、さっきも話した『コンパクトさ』を含め、長いシーズン、次から次へと試合を戦っていると、結果にばかり目がいって忘れがちになることもたくさんあるので。そこはお互いが声を掛け合いながら、もっと求め合っていきたいし、自分が先頭に立ってその姿を示すことでチームとしての守備も良くなったよね、っていう循環が生まれるようにしていきたい。もともと僕は、自分へのタスクが大きい方が成長できるタイプだけに、現状に甘んじずもっともっとと自分に求め続けたいと思います。あと、タイトルを目指すのであれば、チームとして、今年の夏場のような失速は絶対にあってはならないこと。ああいうところでもう一踏ん張りできるチームになることも来年に持ち越した課題だと思ってます。ただ、今シーズン、タイトルは獲れなかったけど新しいガンバが始まる予感というか、そのための種蒔きはできたと思うので。来年はしっかり花を咲かせられるように、みんなでまた同じ方向を向いてやっていきたいと思います」

 

 そして、そのチャレンジを続ける限り、自身もまだまだ成長できると信じている。

「今年のJリーグアウォーズで一緒に壇上に上がらせてもらった選手の顔ぶれを見ても、貴史くんをはじめ、大迫勇也さん(ヴィッセル神戸)、武藤嘉紀さん(神戸)、佐々木翔さん(広島)ら30歳超えの選手もたくさんいましたから。彼らの姿を間近で見て、すごく励みになったし、自分もまだまだここから成長できると思わせてもらった。また来年の自分に楽しみを抱けるアウォーズにもなりました」

 中谷進之介という熱に触れ、その闘う姿に何度も気持ちを揺さぶられた今シーズン。それがあくまで『序章』に過ぎないことが、来シーズンに向かう上での最大の楽しみでもある。

ほと走る熱量は今シーズン、何度もパナソニックスタジアム吹田を熱狂させた。写真提供/ガンバ大阪
ほと走る熱量は今シーズン、何度もパナソニックスタジアム吹田を熱狂させた。写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事