誰が7連敗の責任を取るのか? ジョセフに松島を批判する資格はない!
サンウルブズの観客動員がまた前週を下回り、さらに最低を記録した。
今節は9千562人だ。
これで、2試合続けて秩父宮ラグビー場におけるスーパーラグビーの史上最低観客数記録を更新したことになる。
サンウルブズのホーム戦チケットをすべて購入し、毎週外苑前まで通う友人は、ブルーズ戦の前日にこんなメールをよこした。
「だんだん秩父宮に行くのが苦行になってきました」
熱心なトップリーグのファンにさえ馴染みのない選手たちを並べ、「スーパーラグビーでトップ5を目指す」と言いながら一向に結果を出せず、7連敗を喫したチームにサポーターたちが愛想を尽かしているのだ。
それなのに、この期に及んでもジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)の解任論議は表に出てこない。日本ラグビー協会を中心とするラグビー関係者は、いったい何を考えているのだろうか。
15日の朝日新聞はジョセフHCについてこう書いた。
『これだけ負けが込むと、指揮を兼務する日本代表にも悪影響が出かねない状況だが、「選手はトップレベルの経験を積んでいる。苦戦はしているが、(代表強化という点では)本来の意図通りだ」と主張した』(朝刊12版14面)
よくもまあ、こんな主張ができたものだ。
強化の責任者である薫田真広強化委員長は、16年にこう言っていた。
「17年までは可能性ある選手をセレクトして、18年からはメンバーを絞り込んで(19年W杯に向けて)強化をする」
そんな、そもそもの前提をいつまで経ってもクリアできず、セレクションは一向に定まらず、メンバーの絞り込みをダラダラと引き延ばしてチームを固められなかったHCが、いくら選手たちが「トップレベルの経験を積んでいる」から強化は「意図通りだ」と主張しても、まったく説得力がない。
逆に、日本代表の強化はどうなっているのかと、ファンの不安は募るばかりだ。
そもそもジョセフHCは15年W杯で勝った「トップレベルの経験を積ん」だチームを母体に、強化をスタートさせたはずだった。
それなのに日本ラグビーは混迷に陥った。
だから、こう書かずにはいられない。
「ジェイミー・ジョセフは15年W杯で結果を出した選手たちを評価していないのではないか?」
そして、こう付け加えたい。
「どうすれば勝てるか自信がなくて、メンバーを決められないのではないか」と。
前任者ハメットにあった「リスペクト」が現HCにはない!
15年W杯で日本を“世界で戦えるチーム”に導いたエディー・ジョーンズが、日本ラグビー協会や選手との軋轢で職を辞した後、スーパーラグビーのハイランダーズとの契約を解約できず、ニュージーランドにいたジョセフに替わって、16年春シーズンにサンウルブズと日本代表の指揮を執ったマーク・ハメットは、非常に冷静だった。
立川理道、堀江翔太といった15年W杯主力メンバーの意見に耳を傾けながらチームを作り、スーパーラグビー最下位に終わりながらも、日本のファンが「このチームなら応援しよう!」と思える雰囲気を作り出した。
その白眉が、16年6月のスコットランド来日試合だった。
第2テストマッチで、天覧試合に臨みながらノートライのスコットランドに16―21と敗れたあとで、ハメットはこう言った。
「レフェリーは日本のラグビーをリスペクトしていない(disrespect)」
スコットランドに同行していた記者が、「disrespectは、かなりキツい言葉だが……?」と問い直したほど、ハメットは怒っていた。それもこれも、彼が日本人プレーヤーの献身的な“勝つための努力”を高く評価していたからだった(日本代表ヘッドコーチ代行の発言に「侠気」を見た!参照)。
私は当然、こうした日本人プレーヤーに対する評価が、後任であるジョセフに引き継がれたと思っていた。
だから、16年9月、ジョセフのHC就任記者会見直後の囲みでこう聞いたのだ。
「ハメットからどういうことを引き継ぎましたか?」
けれども、明確な答えは返ってこなかった。
そのときは、引き継ぎの詳細が強化の核心に触れるので、公にはコメントできないのだろうと思っていた。
でも今、確信を持って思う。
なにも引き継ぐつもりがなかったのだと。
責められるべきは誰なのか?
こうした疑念をさらに裏打ちしたのがブルーズ戦直後の、ジョセフの松島幸太朗に対する批判だった。
ブルーズ戦の前半28分、後半10分と、それぞれトライを許した際、最後にタックルに入った松島は確かにトライを防ぐことができなかった。しかし、どちらの場面もよく見れば、前半28分に失ったトライは直前に田村優がタックルを外されているし、後半10分の場面は、セミシ・マシレワがディフェンスの約束を守らずに勝手に前に飛び出てアッサリ抜かれ、いきなり危機的な状況に立たされている。
ラグビー経験者なら、いや、なんらかのスポーツを部活で多少かじった経験者なら、誰もがわかるだろう。
組織防御は相手のアタックをどこで止めるか決まっているから「組織」防御なのであって、その前提が崩れたら組織防御たり得ない。
だから、通常は「え、オレがタックルに行くの?」という状況で防御に入った人間を責めることはない。それなのに、ジョセフは「タックルできない選手は替えざるを得ない」と、松島を下げたのだ。
スポーツニッポンは、15日付紙面で『サンウルブズ空中分解寸前 ジョセフHCが松島を名指し批判』と、この試合を報じた。
松島の働きがどれほどチームにプラスをもたらしているか、日本のラグビーファンはみな知っている。
もっと言えば、マシレワのような一か八かのディフェンスしかしない選手を起用したジョセフと、その尻ぬぐいをさせられた松島のどちらを信用するかと問われれば、おそらくほとんどのファンが「松島!」と答えるだろう。
そうした空気を踏まえての報道だった。
ジョセフ流のラグビーでW杯を戦うジャパンを誰が見たいのか?
サンウルブズがブルーズに敗れた直後にニュージーランドで行なわれたジャパンA対ハイランダーズA戦で、ジャパンAは13―12と際どく勝利をものにした。
この試合で11番に起用された福岡堅樹は、小柄ながらマシレワとは対照的に献身的なディフェンスで勝利に貢献している。
チームとしてラグビースタイルを“ジェイミー流”にしているために、ボールを保持すべき場面でキックを蹴ったり、いくつかアラも見えたが、とにかく結果を出した。
もちろん、相手のレベルが違うので単純に比較はできない。
しかし、ジョセフがサンウルブズから外してジャパンAに追いやったメンバーたちは、当のHCが連敗を重ねるなかで不格好ながらも結果を出したのだ。
日本人プレーヤーのポテンシャルは、ジョセフが考えているほど低くはない。
けれどもジョセフは、ブルーズ戦の後半19分、10―19と9点差を追う展開に追い込まれて、その前に下げていた松島だけではなく、司令塔の田村も下げて、10番以降のバックスを全員自分が評価する“強い”選手――全員がカタカナ表記の名前――に替えた。
しかし、HCが強いと信じる選手たちは、自らの能力を証明するのに懸命で、周りのプレーヤーを活用することができず、チャンスのほとんどを強引なプレーで途切れさせた。
こんな日本代表なんか、絶対に見たくない! というのが、来年のW杯観客動員の支え手となるラグビーファンの偽らざる気持ちなのである。
日本人の能力がグローバルスタンダードのなかで低く、彼らだけではW杯で勝てない可能性があることは誰もが承知している。
しかし、一方で、エディー・ジョーンズが日本人選手たちのポテンシャルを最大限に引き出し、そこに本物の力を持つ外国人選手を絡ませてW杯で結果を出したのは、たった4年前のことだ。
口でいくら日本通であることを主張しようが、ジョセフの頭のなかには、日本人独特のラグビーに対するリスペクトも選手に対するリスペクトも、まったくない。
秩父宮に観客を呼び戻そうとするならば、日本のラグビー界がまず手を着けるのはジェイミー・ジョセフHCの解任だ。
連敗を重ねて観客動員数を大幅に低下させた責任は、プロフェッショナルであるHCその人にあるのだから。そうなって初めて、しばらくラグビーにそっぽを向いていたファンがスタジアムに戻ってくる。
日本のラグビーは、それほど深く私たちのアイデンティティに根ざしたスポーツだ。半可通の“元オールブラックス”が振りかざす経験論で強化できるほど、低いレベルではないのである。