<ガンバ大阪・定期便47>山見大登が流した涙の意味。声が轟くパナスタで感じた幸せを力に来シーズンへ。
■J1リーグ最終戦。サポーターを前に溢れた感情。
あのとき、山見大登は泣いていた。
J1リーグ最終節・鹿島アントラーズ戦。試合が終わり、他会場の結果を待ってJ1残留が確定したあとのことだ。山見自身は約2ヶ月強ぶりに控えメンバーに名を連ねながら、ピッチには立てずに試合を終えていたが、歓喜に沸くサポーターを前に感情が溢れた。
「自分が試合に出ていた時にはなかなかチームの結果が伴わなくて、自分が出なくなってからJ1残留を引き寄せられたことへの悔しさもあったし、サポーターの皆さんの応援を聞きながらプレーできるチャンスがやっと巡ってきたのに、ピッチに立てずに試合を終えた悔しさもありました。子供の頃からあの応援のもとでプレーすることを夢見てきたからこそ、しっかりピッチに立って、声を感じながらプレーをして、いろんな悔しい思いをしてきたシーズンを締めくくりたかった。しかも、あの時は、ゴール裏のサポーターの目の前で他会場の試合結果を待っていましたから。直に(サポーターの)顔が見える距離にいた中で、マスクをしながらでもずっと声を出して、応援し続けてくれている姿を見て…改めてその声に応えるためにゴールを決めたい、それを達成できる自分になりたいって思ったら、泣いてました(笑)」
山見にとってのプロ1年目は、前後半で大きく明暗が分かれるシーズンになった。
事実、前半戦はJ1リーグ開幕戦からメンバー入りを果たしたのを皮切りに17試合中16試合に絡んだのに対し、後半戦はメンバー入りすらできない時間が続く。特に松田浩監督が就任してからは、27節・名古屋グランパス戦にこそ途中出場でピッチに立ったものの、以降は先に書いた最終節まで一度もメンバー入りを果たすことはできなかった。
「去年、特別指定選手としてプレーした時間で結果を出せた流れで今年の前半戦は試合に起用してもらえていたんだと思いますけど、監督が変わった時に自力のなさが出てしまったというか。試合に出してもらっていた時に2点しか獲れず、チームも勝てなかったと考えれば当然ですけど、チームが難しい状況に置かれた時に単純に監督が、信用して使いたい、試合を託したいと思える選手ではなかったということ。そこが起用され続けた選手との差だったと受け止めています」
とはいえ、公式戦から遠ざかる中でも「信頼を取り戻すのはピッチでしかない」とプレーに集中した。夏の移籍ウインドウで鈴木武蔵、ファン・アラーノ、食野亮太郎ら、ポジションが被る選手を補強された悔しさは当然あったが、それも自身の力のなさが招いたことだと受け止めた。
「前半戦で自分が結果を残せていたら、クラブが補強を考えることはなかったはずですけど、それができなかったので。結果が全ての世界で、試合に出ているときに結果を残せなかった、チームも勝てなかった事実を真摯に受け止めようと思っていました」
心掛けたのは、いつ試合に起用されてもいいように、日々のトレーニングを全力でやり切ることと、コンディションを落とさないこと。並行して、苦手を克服するためのトレーニングにも向き合った。
「試合に出ている時は、僕のところでボールを失う率も高かったし、トラップミスも多かった。それを受けて悠樹くん(山本)や亘くん(柳澤)と足元でパスを受ける練習は続けていたし、あとは自分のストロングポイントであるドリブルをより効果的に発揮するにはどうすればいいのかをいつも考えながらプレーしていました。思えば、去年は試合に出てすぐに結果を出せたけど、それがうまくいき過ぎていただけというか。もちろん、順風満帆に進むに越したことはないけど、プロの世界で1年目からそこまでガンガンいい結果を出せている選手が何人いるかと考えても、そんな簡単ではない。そういう意味では、今年の前後半で全く違う状況に置かれた経験は、ここからサッカー人生を積み上げていく上でのプラスだと捉えたい。それに、試合に出られなくなった時期も腐らずにやり続けたから最終節、メンバー入りができるところまでギリギリ取り戻せたと思うので。そのことを自信にラスト1試合、フランクフルト戦でしっかり自分のプレーを見せ、来シーズンにつながる締めくくりにしたい。そこで何かを残せたら気分良くシーズンを終えられるはずですしね。夏のパリ・サン=ジェルマン戦もそうでしたけど、僕はなぜか注目されるカードで点を取れることが多いので、フランクフルト戦もしっかり狙いたいと思います」
■「めちゃめちゃ緊張した」からこそ、迷わず振り抜いた。
試合の2日前にそう話していた通り、フランクフルト戦の後半からピッチに立った山見は81分。福田湧矢のスルーパスに合わせてペナルティエリア内に抜け出すと、飛び出した相手GKに倒されPKのチャンスを得る。1点のビハインドを追いかける状況、ホームサポーターの目の前、しかも、彼にとっては初めての声出し応援の中でキッカーを任され、緊張は高まったが、迷わず右足を振り抜いた。
「後半は武蔵くん(鈴木)が交代になり、高さ、強さのあるタイプのFWがいなくなったので。かといって、僕が同じように前線で体を張ってボールをキープするのは絶対に無理だからこそ、いかに相手DFに捕まらないようにプレーするかを意識していました。足元で受けるにしても簡単に剥がすとか、もう一回動き直してもらうとか、そういうすばしっこさを活かしたプレーは効果的に出せたかなと思います。PKをもらったシーンは、あそこで仮に相手GKが出てこなくても、DFが僕の方についてきたら湧矢(福田)のシュートコースがあくだろうなと思ったし、GKが飛び出してきたら自分にチャンスが生まれそうな予感もあったので、2つのパターンを想定して抜け出しました。キッカーに立った時は正直、目の前にたくさんのサポーターがいて、声援も聞こえて…嬉しかったんですけど、その分、めちゃめちゃ緊張したので、蹴るまではずっと下を見て視界に入れないようにしていました(笑)。迷ったら外す気がしたので、高校時代から得意にしてきたコースに蹴ろうと最初から決めていました。同点ゴールだったからそこまで喜べなかったけど、ホームで、サポーターの皆さんの歓声を聞けたのはめちゃ嬉しかったです。ただ、今年は結局、ホームでのゴールはパリとフランクフルト戦でしか決められなかったし、今日も久しぶりに45分戦って最後の方は正直、キツかったので。コンディションをもっと上げなければいけないとか、簡単なミスもいくつか出てしまったからプレー精度をもっと高めないといけないとか、そういう課題を再確認して試合を終えられたのは良かったです。何より、悠樹くんの素晴らしいゴールも決まって、勝って終われたのが嬉しい。今年、自分が点を決めて勝てた試合は初めてだし、ましてやホームで、サポーターの声をピッチで聞けて、もっとこれを味わえるように頑張らないといけないって思いました」
そんなふうに、改めて胸に誓ったのは、試合後、今シーズンでチームを離れることが決まった小野瀬康介、加藤大智との『別れ』に触れたからでもある。
「1年間一緒にプレーしてきた選手と来年は一緒に戦えない寂しさと、プロの世界の厳しさを改めて感じました。この先も自分が、ガンバでサポーターの声援を受けながらプレーするためには、チームを勝たせられる選手になっていかなければいけない。プロの世界では1年目だから、2年目だからという年数は言い訳にならないからこそ、後半戦で試合に出られなかった事実を単に悔しかった、で終わらせず、ちゃんと来年の変化に繋げなければいけないと改めて感じました」
だからこそ、その目は早くも来シーズンに向けられていた。
「今シーズンの始動前は、食中毒にかかってしまって体重をめちゃめちゃ落としたところからのスタートになってしまったので、今回のオフはまず、食生活をしっかり意識して過ごして体重管理を徹底することと、今シーズンの最後の方は少し腰を痛めたので、1年を通して戦い抜ける体づくりを意識して過ごそうと思っています。といっても、コンディションを上げ過ぎて、それが疲労やケガに繋がったら意味がないので。自分の体と相談しながら、来シーズンのスタートにいい状態にもっていけるように整えたいです。今年の途中から悠樹くんと低酸素環境で走るトレーニングを続けてきて…残念ながら僕は後半、ほぼ試合に出られなかったので、試合での効果はあまり感じられなかったけど、悠樹くんは効果を口にしていたし、僕はもともとそこまで走れるタイプじゃないからこそ、もう少し続けてみようかなと。あとは体の硬さを克服するために取り組んでいるピラティスも継続したい。しなやかな身のこなしができるようになればケガのリスクを減らすことにもつながるはずですしね。そんなふうにこの1年、プロの世界に身を置いて感じられたことを、来シーズンの確実な変化に繋げられたらいいなと思っています」
プロサッカー選手として戦う幸せ。ピッチに立てない悔しさ。結果への責任と勝利の重み。継続することの難しさーー。プロ1年目で味わった様々な感情を余すことなく力に変えて。山見大登は2023シーズンに向かう。