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観阿弥・世阿弥の子孫 能楽師・観世三郎太が能とVRで革命的始動!賛否両論を巻き起こす!?

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
過去と未来を能とVRでつなぐ観世三郎太さん(撮影:すべて島田薫)

 世界最古の舞台・芸術・演劇である能は、表情で演技をすることはありません。多くは面(おもて)をつけて舞台に立ち、無駄を削ぎ落とした、抽象的な演技で観客に想像してもらう世界。見どころや楽しみ方は数々あるにもかかわらず、多くを発信してこなかった背景には理由がありました。今回、新たな舞台『VR能 攻殻機動隊(こうかくきどうたい)』に挑戦することになった観世三郎太さんが、能とVRの融合、舞台で注目を浴びる仕事でありながら、余白の美を求める能楽師の生き方などを明かしてくれました。

―能は表情で演技をしてはいけないのですね。

 悲しい場面で悲しい顔はせず、謡(うたい)や型、所作で表します。先生(師匠)より、顔で演技をしてはいけないとまず教えられます。表情を見せてしまうと、それ以上でもそれ以下でもない、すべての思いがその人の表情に限られてしまう。悲しみや喜びはどれくらいか、受け取る側によって違います。表情を見せないのは、そういうことが表現によって限られることをなくすためです。

―受け手もレベルを必要とされそうです。

 逆に、レベルを必要としないのではないでしょうか。通常役者がこう演じていたら、こう感じ取らないといけないという感覚が少なからずあると思いますが、自由に想像してもらっていいのです。もちろん知識があればより深い想像ができますが、知らない方でも自由に想像できるものでもあります。

―能の楽しみどころは。

 ひとつ言えるのは、あらすじを知らないとなかなかストーリーに入り込むことが難しいと思うので、電車に乗っているちょっとした時間でもいいので、軽くあらすじを見ておいてほしいということ。そうすれば、大体話がお分かりになられるかと思いますし、謡や舞(まい)を理解しないといけないという固い考えではなく、この人カッコイイ、聴いていて気持ちがいい、着ているお装束が綺麗…など、自分の楽しみ方を見つけてくれればいいと思います。

 具体的にはやはり、謡や舞を見てほしいし、お囃子方の音色も聴いてほしいですが、実は装束や面は江戸時代などの古いものを身に着けていたりするんです。ただ、私たちは「こういうものを着けていますよ」ということは言いません。言わないけど実は身に着けているので、そういうのを楽しみに来てくださるお客様もいらっしゃいます。

―見どころがあるのに、あまり教えてくれないのはなぜですか。

 教えないわけではないですが、身に着けているものも毎回それなりのものなので、あえて言うことでもないというのもあります。幕が揚がり登上した時に“今日はこの装束、この面”というのも楽しみのひとつなので、前もってあまり公言しない風習ですね。

―今回の作品、『VR能 攻殻機動隊』は随分型破りですね。

 能だと思わない方がいいです(笑)。はっきり言って賛否両論だと思います。能を知っている方なら能の要素があると思ってくれるだろうし、能ではないとおっしゃる方もいると思います。でも、これを観て「能楽」とはこんな感じかなと受け取ってくれるといいかなと思っています。

―具体的に通常とは何が違うのでしょうか。

 普段の能では、もちろんVRは使わないですし、能面も全く違います。基本となる音楽は、通常の能の謡とお囃子ですが、今作ではそこに電子音が入って異質なものにはなります。

 今作はVRゴーグルなしでご覧いただけますが、見えているものは本当にそこに存在するのか?そこにいる人は本当にその人なのか?というところが見どころでしょうか。

 実際に見てもらわないと言葉で伝えるのが大変難しい。同じ人が演じているように見えても、実像は入れ替わっていたりするので、全部が同じ人だとは思わないでほしい。私たちもまだ納得できてない部分もありますが、人が消えたり出てきたり、映像の世界ではよく見るかもしれないことを、生の舞台でやっています。

 言葉も現代語のようになっています。能に限りなく近い、能の手法を用いている演劇と言えると思います。

―『攻殻機動隊』を上演するきっかけは。

 演出を担当される奥秀太郎さんが以前『3D能』を演出されて、『攻殻機動隊』を能にしようと思われたのが始まりです。

 能好きな方からはご批判もあるかもしれませんが、多くの人に能のことを知ってもらいたい一心で取り組んでいます。原作漫画『攻殻機動隊』の複雑で考えさせられる話を、ギュッとファジーな感じにしたものなので、観る人には大いに想像してもらいたい。

 主役の草薙素子(演:坂口貴信)が作品を象徴する存在なので、彼女にVR技術を駆使します。真剣に見れば見るほど本物か仮想かが分からなくなり、観劇後に「どこにいるのか分からなかった」と感じてくれたら、私たちが見せたいものが伝わったという意味で正解です(笑)。未来のことを過去の手法を使ってやる。一種の手品だと思ってください。私は「人形使い」の役です。

―普段と比べて難しさは?

 素子役は、VR技術の要とあって大変です。正しい位置に行かないとVR技術を正確に見せられない。とはいえ、能面をつけていると真っ暗で全く見えないので、舞台上に凹凸をたくさん作って、摺り足でそれを目印にしつつ動いています。

 能はお客様に想像してもらう舞台、『攻殻機動隊』は考えないと進まない話、共通点は「抽象的」です。

―三郎太さんは、観阿弥・世阿弥の子孫。約700年続いている能の家に生まれたことを意識したのはいつ頃ですか。

 意識したことはないです。物心つく前から能の稽古をしているので、歯磨きやご飯と同じレベルで当たり前だと思って生きています。2歳くらいから稽古を始めて、5歳で初舞台でした。

―反抗期はありましたか。

 反抗期があったとしても、父(二十六世観世宗家 観世清和)と仕事場が同じなので、仕事場で上司に対して「反抗期です」はないですよね。家庭内で反抗しても、稽古場に降りたら反抗期が終わるという(笑)。

 能の世界だと、15歳くらいで子方(子役)を卒業し、初面(はつおもて)を迎えます。昔の元服のようなもので、面をつけることで大人の世界に足を踏み入れる感じです。本当の大人になるために、そこから死ぬまで修行の人生が始まります。

 能楽師として目指すべきところは、一生たどり着かないものです。一般的には定年を迎えても70歳を超えても、毎日稽古は欠かしません。一生修行の人生ですが、私が追い求める理想は父親です。少し近づけたと思っても、先生(父)も修行して上に行くわけで、ずっと背中を追いかけていくのだと思います。

―三郎太さんは、山で言うと今何合目ですか。

 何合目とかどれくらいかとか判断はできないです。勉強すればするほど父や皆さんのすごさが分かるので、道のりは遠いです。まだ修行中ですし、能楽師は一生修行ですので、頂上などはない世界です。

―日々していることはありますか。

 1日最低3時間は睡眠を取るようにしています。ショートスリーパーなのでこれくらいは寝て、あとは誰よりもお稽古したいと思っています。本番とお稽古以外に時間が取れれば、演劇や歌舞伎を観に行きます。

―座右の銘はありますか。

 我が家には(先祖である世阿弥が著した能の理論書)『風姿花伝』がありますから、言葉はたくさんあります。

 その中でも、世阿弥の言葉で「離見の見(りけんのけん)」という言葉を大事にしています。第三者が見ているように、自らを俯瞰することを意味します。自分が役に没頭して気持ちよくやるだけでは駄目で、お客様がどう思っているかを感じることが大事です。自己満足で終わってはいけない。

 同じく『風姿花伝』には、「秘すれば花なり 秘せずは花なるべからず」という言葉もあり、秘めるからこそ花になる、秘めねば花の価値は失せてしまうという意味です。

 能楽師がバラエティー番組に出ない理由はそこです。そういう場に出ると「この人はこういう風に笑う人なんだ。こういう性格の人なんだ」というのが分かってしまう。そうすると、舞台を観る時に「この人はこういう性格の人だ」とお客様の想像に対して先入観を持たせてしまうかもしれないので、普段はなるべく自分の名前も出さないようにしています。日常を出さないことが美学だと考えています。

 昨今のSNSを見ていると、私たちは世の中と全く真逆の感覚です。舞台関連でよくある、舞台の裏側を見せるような投稿は絶対にしません。と言いながらも、今の時代では難しいことも理解していますし、この先どう生きていくのが良いのか、時代の転換期を迎えていると感じています。

【編集後記】

普段、私たちが能楽師の方を目にする機会が少ない理由が、今回よく分かりました。「秘すれば花~」だったのです。情報があふれるこの時代に、あえて真逆のことをしていたとは驚きです。貴重な機会となった今回の記事が、少しでも多くの方の目に触れてくれることを願うばかりです。

■観世三郎太(かんぜ・さぶろうた)

平成11年(1999年)5月16日生まれ、東京都出身。二十六世観世宗家 観世清和の嫡男。父に師事。「鞍馬天狗」花見にて初舞台、「翁」「道成寺」「乱」など数々の大曲を勤め、次世代を担う能楽師として活躍している。令和5年5月20日G7広島サミット 内閣総理大臣夫妻主催社交夕食会にて、我が国の伝統芸能を代表し「石橋」を演ずる。(一社)観世会副理事長、(一財)観世文庫評議員。『VR能 攻殻機動隊』は東京建物Brillia HALLにて10/13~15、上演予定。

https://ghostintheshellvrnoh.com/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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