Yahoo!ニュース

国民年金での未納問題、「事故らなければどうということはない」はシャア少佐だけの特権

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 映画「マトリックス」の名シーンのようにさらりと危険を避けられる訳では無い

年金未納は将来の年金受取だけでなく障害・遺族年金も捨てることになる

先日某所において、世間一般には権威があるように思われる役職の経歴を持つ人が、堂々と「(国民)年金保険料を支払わなければいい、積み立てをするな」と公的な場で主張をしているのを目に留めた。現行の年金制度への不満があるのは理解できる。そして状況の改善のために意見具申をするのは大いに結構である。しかし現行法制に抵触する形で「積み立てをするな」と公言するのはいかがなものだろうか。気に食わないから違法行為をしようと他者に向けて煽動をするのは、単なるアナーキズムでしかなく、規範意識に欠けていると評されても仕方がない。また、同様の役職を有する人に泥を塗ることにもなる。

以前当方も精査をしたが、「20-30代は満足派1割のみ...年金制度への不満感、若年層ほど大きい傾向」にもある通り、年金問題に関して特に若年層に強い不満があるのは、その仕組みを考えれば当然の話。

↑ 現在の年金制度に満足しているか(日本生協連調査、2013年11月発表資料より)
↑ 現在の年金制度に満足しているか(日本生協連調査、2013年11月発表資料より)

一方で公的年金制度には、世間一般に良く知られている、そしてその額面・総受取額の世代による違いにより問題視されている「高齢になると受け取れるもの」(老齢年金)だけでなく、「重度の障害を負ったとき」(障害年金)や、「一家の稼ぎ頭が亡くなったとき」(遺族年金)にも所定の給付を受けることが出来る、生命保険、一部には医療保険の役割もある。

先の「年金を未納しよう」という煽動的な発言は、障害年金や遺族年金の事も承知した上での発言なのだろうかと考えてしまう。未納などで条件を満たしておらず、この部分の年金受給がなされずに、万一の際の事象が起きても金銭面でリカバリーが出来ず、泣きを見る。そのような事例は少なから存在する。

「事故らなければどうということはない」。でも事故ったら?

保険で病気や怪我が無かったことになるわけでは無いし、発症・事故リスクが減るわけでもない。しかし経済面はもちろんのこと、心理面でもかなりの支えになるのは事実。もっともこの心境は、保険を適用するような事案の経験(事故や重い病症)が無いと、心底理解するのは難しいのかもしれない。

そして保険の類は、得てして「当たらなければ……」もとい「事故らなければどうということはない」で考えがちではある。病気や事故など他人事、確率論的には少数派で、どのみち後で「保険料(今件ならば年金保険料)の払い損をしたなあ」と後悔するに決まっている、と思い込みがち。しかしその「当たった」もとい「事故った」、あるいは「病気になった」時に、一撃でクリティカルな状況になりうることがあるのもまた事実。

公的年金制度における「障害年金」や「遺族年金」のような保険機能については、声高に年金問題を語る人のほとんどが口にしない。不思議な話ではある。また、年金保険料は全額社会保険料控除の対象になることもあわせ(民間の保険の場合、生命保険料控除制度に基づいて控除がなされる。大体半額ぐらい)、年金に関する言及ををする際には、触れるべきではないだろうか。年金制度はかつて任意だったものが、今では義務化された(1986年に基礎年金制度が導入され、国民年金に強制加入へと移行)こともあり、色々と問題があるのは事実ではあるのだが。

ちなみに国民年金で未納をしていると、「納付督励」「特別催告状」「最終催告状」「督促状」「差し押さえ能力精査」「差し押さえ予告」「差し押さえ」とのプロセスを経て、差し押さえが行われるようになる。「平成24年度における国民年金保険料の納付状況と今後の取組等について(平成24年度の取組実績)(PDFファイル)」にある通り、平成24年度の差し押さえ件数は6208件。未納件数と比べればごく少数ではあるが、実行されていることに違いは無い。

酒の上での冗談話ならともかく、権威ある役職を有していたとの経歴を売りにしている人が、声高らかに年金未納という法を破る行為を煽動してよいものでは無い。犯罪教唆と示唆されても仕方がない。その役職で現在働く人たち、年金問題を真剣に考えている人たち、そしてその煽動に煽られて従い、大きなリスクを背負い、さらにはそのリスクを実体化するような状況になってしまう人たちに対し、大変失礼な話ではある。

■関連記事:

社会保障維持拡充のための財源、「法人税」が8割でトップ、「消費税」は6割強

年金や保険の「払い損」的な不公平感、世代間で大きな格差

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事