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なんと、北朝鮮が「一帯一路」サミットに ?!――文在寅効果か?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国「一帯一路」の国際会議開催へ(写真:ロイター/アフロ)

あれだけ暴れまわった独裁国家・北朝鮮が、なんと、中国が5月14日から主宰する「一帯一路」サミットに政府側代表を送ることが判明した。招聘状を受け取っていない韓国も参加を表明。文在寅効果がこんなところに…?

◆韓国と北朝鮮が手を挙げた

中国では5月14日と15日に「一帯一路」(陸と海の新シルクロード)国際サミットが北京で開催される。「一帯一路」は習近平政権になってから中国が提唱したもので、中国では今年最大の行事として、今年秋に開催される第19回党大会とともに重要視している。このサミットは初めて開催されることもあるが、何よりも「アメリカが抜けたことによるグローバル経済の覇者」としての中国の役割が決定的になるからだ。

初期のころ、習近平国家主席は、韓国のパク・クネ前大統領を取りこんで、一帯一路とAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加させるべく、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長とは首脳会談もしていないのに、わざわざ自らソウルに行ってパク・クネさんとの親密ぶりをアピールしたことがあった。

ところが2015年末の日韓合意やTHAAD配備にパク・クネ政権が賛同したことなどから、「地上で最も嫌いな国は韓国」とばかりに、中国は韓国に対する経済的締め付けを強めてきた。

だからこのたびの国際サミットに関しても韓国に招待状さえ送っていなかったのである。

だというのに、文在寅(ムン・ジェイン)氏が大統領に当選することが見込まれた5月8日、韓国が積極的に手を挙げて、参加を表明。中国は大歓迎をした。

すると、その翌日の5月9日、今度はなんと、あの北朝鮮が「政府代表を送り込んで、サミットに参加したい」と意思表明をしたのだ。

文在寅氏は大統領に当選する前から北朝鮮との融和政策を唱えており、開城(ケソン)工業団地の再開を約束している。

米中蜜月で包囲網を張られた北朝鮮は、さすがにこれ以上核ミサイル威嚇外交で周辺を脅すことは賢明ではないと思ったのだろうか。中国政府系のウェブサイトによれば、中国外交部は5月3日辺りから「参加しないか?」と誘っていたようだ。

中国が望んでいるのは北朝鮮の非核化であり、戦争ではなく対話による解決だ。

これはきれいごとではなく、中国の利益に叶うか叶わないかの問題である。

北朝鮮が核実験をすると中国が放射能汚染を受けることになり、核やミサイルによる軍事強国が隣に出来あがるのは、中国にとってありがたくない。かといって緩衝地帯を失いたくもない。もちろん北朝鮮が核を持てば、韓国も日本も持つようになることが絶対に嫌だからなのだ。

◆武器より「銭」を!

中国が望んでいたのは北朝鮮が改革開放することである。

だからこそ、5月1日付のコラム「中国は北にどこまで経済制裁をするか?」でも書いたように、地方人民政府が許認可権を持つ辺境貿易を許してきた。

「金持ちになった方が、武器を持つより強くなれるよ」!

「お金って、いいものだよ!」

「リッチだと、国力も上がるよ!」

それを北朝鮮に教えて、改革開放を促してきたわけだ。

金正恩の父親の金正日(キム・ジョンイル)は、改革開放に気持ちを傾けた時期があった。しかし、その意図で訪中してから間もなく他界してしまった。

息子の金正恩は、権力基盤を固めるためか、強硬な姿勢に走り、片意地を張って周辺国に危機感ばかり植え付けてきたが、あんな人物にも、「北風よりも太陽」の方がいいのだろうか。

核・ミサイル開発をやめてくれるのなら、戦争よりは対話路線の方が関係国にもいいに決まっている。

一方的な、脅迫的経済支援を相手に求めるのでなく、もし本気でグローバル経済の中に入ってくるのなら、関係国は歓迎だろう。

習近平国家主席は本日、韓国の文在寅大統領と電話会談をして、そこでも「一帯一路」への協力を呼び掛けている。もちろん、朝鮮半島の平和を具体的な行動で推進するように望むことを前提としての話だった。具体的な行動とは、言うまでもなく、THAADを配備しても、稼働させないということだ。アメリカにトランプ大統領が要求してきたTHAAD配備代金を支払わないことも、きっと含まれているだろう。

◆中国の野心

中国の中央テレビ局は、連日連夜「一帯一路」国際サミットで燃え上がっている。

本日(5月11日)に中国外交部の李保東副部長(外務次官)で「一帯一路」国際サミット準備委員会の秘書長が発表したところによれば、「29カ国の首脳と、130ヵ国の国家代表、および70ほどの国際組織が参加する」とのこと。

また、「一帯一路はメンバー制ではなく、いつ誰が手を挙げても受け入れる」と、中国政府通信社のウェブサイト「新華網」は説明している。

ただ、私たちは今世界がどこに向かおうとしているかに静かに目を向けなければならない。

トランプ大統領のTPP徹底から始まって、世界のグローバル経済の中心は中国に集中しつつある。1月17日のダボス会議における習近平国家主席の基調演説は、まるで「これからのグローバル経済の旗手は中国である!」と宣言しているようだった。

EUも存続が危ぶまれている。

そんな中、中国から西側の国家すべてを結びつける中国の「一帯一路」構想は、まさにシルクロード時代からの「中華民族の偉大なる復興」「中国の夢」を実現させるための国策で、ヨーロッパ諸国も熱い目を中国に注いでいる。

北朝鮮の横暴さと比べると、まるで中国が独裁国家ではないような錯覚を覚えている人もいるのかもしれないが、中国がどのような「野心」をその下に隠しているか、そして中華人民共和国という国が、どんなに「嘘で塗りかためられた中国共産党」によって建国された国であるかを見落とさないでほしい。

平和は望むところだが、言論の自由を許さない国家が覇権を手にした後の世界も考えながら、静かに考察していきたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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