裁判所は銀座の敵を京で討つような捜索令状を許して良いのか
昨日、警視庁(警視庁というのは国の組織ではなく、県警の東京都バージョンですよ)が、京都大学の熊野寮に家宅捜索に入った、という話がニュースになっています。
筆者は「警視庁!?京都府警じゃないのか」という点でびっくりし、名神高速を警察の青いバスが列を作って上洛してくる様を想像したら「えらい遠いところからお越しになられましたな~」などと思い、滑稽さに笑いすらこみ上げてくるわけですが、傍目に見ても、この事態はちょっと尋常じゃないですよね。
捜索・差押えには要件がある
そもそも、警察は好き勝手に他人の家に上がり込めるわけではありません。日本国憲法では以下のように定め、住居の不可侵は国民の基本的人権です。若干解説するとここでいう「第三十三条の場合」とは現行犯逮捕の場合で、令状を発する「司法官憲」は裁判所のことを言います。要するに家宅捜索という重大な人権侵害をするためには、裁判所が正当に発する令状が必要なのです。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
○2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
これを受けた刑事訴訟法でも捜索・差押えに関するルール(刑訴法218条、219条、刑事訴訟規則155条以下)が定められていますが、この点について筆者が司法試験時代に読んだ刑事訴訟法の教科書には以下のような記載が見られます。
裁判所はこんな令状発付をしていていいのか
11月2日に東京で行われたデモにおいて、京大の学生らが警視庁の機動隊員に体当たりしたり、殴ったりの公務執行妨害をしたのか、それは筆者の知るところではありません。しかし、仮にそのような事実があったとして、東京・銀座で行われたデモの現場で現行犯逮捕された公務執行妨害罪の証拠が10日以上経ってから京都で発見される可能性というのは、いろんな意味でなさそうな話です。そもそも対象物をどうやって特定するのでしょうか。殴られた警察官とその同僚が証言できるので、(本当にそのような暴行行為があったのなら)公判維持のための証拠が不足しているとも思えない。「組織性の有無を捜査するため」というもっともらしい理由が聞こえてきそうですが、そんな分かりやすい証拠をわざわざ京都の“アジト”に残すんですかね。こんな案件のためにエッチラオッチラ東京からやってくるのは、この間の一連の動き(京都府警の警察官が京大構内で“逮捕”されたりしていますね)に対する報復・見せしめとしての要素を感じざるを得ません。
熊野寮の学生たちの肩を持つつもりはありませんが、裁判所が捜査機関のチェック機能を果たさず、ザルになっている状況にはもっと目を向けるべきだし、日本の司法が中世レベルだと揶揄される原因を裁判所が作り出していることを、裁判所はもっと自覚すべきだと思います。