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甲殻類を「オシリカジリムシ」と命名することに商標権上の問題はあるか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:商標登録5134997号公報

「”オシリカジリムシ”と命名 新種の甲殻類 鹿児島の干潟で発見」というニュースがありました。

鹿児島大学は、鹿児島県出水市の干潟で採集したハゼの仲間の尻びれに、体長1ミリ余りの新種の甲殻類が付着しているのを発見し、おしりにかじりつくような様子から「NHKみんなのうた」の人気キャラクターにちなんで、和名を「オシリカジリムシ」と命名しました。

ということだそうです。NHKはキャラクターの商標関係はがっちり抑えている印象があるので、調べてみると、やはり、2008年に、株式会社NHKエンタープライズを権利者として、14類(宝飾品関連)、25類(被服関連)、30類(菓子関連)、16類(文具類)、18類(かばん関連)、21類(食器関連)、24類(織物関連)、28類(おもちゃ類)、9類(電気通信器具関連)で幅広く登録されており、更新も行われています(なぜか1区分ごとに登録(出願)されていますが、ライセンス続きをやりやすくするためでしょうか?)。

キャラクターの名前(造語)であったもの(の類似商標)が、後になって突然普通名称になったというケースなわけですが、商標権上の問題は発生し得るでしょうか?まず、甲殻類は生きていれば31類、死んでいれば29類に分類されるので、NHKの商標登録に抵触することはありません(そもそも、この新種の希少な甲殻類が商品として流通することは想定し難いです)。

NHKエンタープライズの既存商標登録への影響もありません。上記の通り、指定商品が異なりますし、そもそも、商標が登録査定後に普通名称になったことを理由として商標権を無効にすることはできません。今回のような特殊なケースでなくても、商標等が登録後に一般化し過ぎてしまって普通名称化することはあります。たとえば、「デジカメ」は三洋電機の登録商標として1989年に登録され、2019年まで権利存続していました。どう考えても長きにわたり普通名称化していますが、誰も無効にはできないため権利が残っていたものです。

一般に、商標が登録後に普通名称化すると(権利としては残りますが)権利行使ができなくなります。今回のケースで言えば(ちょっと考えにくいですが)、観光目的でオシリカジリムシの形状の「オシリカジリムシ饅頭」を売り出したとすると、それに対して、NHKエンタープライズは30類(お菓子類)の商標登録をもってしても権利行使できない可能性が高いです。なお、不正競争防止法は別論なので、たとえば、NHKの「おしりかじり虫」と何らかの関係があるかのような形態で販売すると権利行使される可能性はあります。

ちょっと想定し難い例を挙げてしまいましたが、制度の説明のためということでご容赦ください。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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