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〝肝心なところ〟が抜け落ちている、文科省の不登校対策

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 文科省は不登校対策を発表し、永岡桂子文科相は「不登校により、学びにつながることができない子どもたちをゼロにすることを目指していきたい」と胸を張った。しかし文科省の不登校対策には、肝心なところが抜け落ちてしまっている。

|オンラインでは解決しない

 不登校の児童生徒は小学校と中学校で約24万5000人、高校をふくめると約30万人と、過去最高となったことが、2021年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に対する調査」で明らかになっている。そのうち約4万6000人は、学校内外の専門機関等で相談も指導も受けていないこともわかった。この事態に文科省は、今年3月31日付で「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」(以下、「プラン」)を発表した。

「プラン」では、不登校の児童生徒が自宅などで1人1台端末等を用いて配信された教室の授業を受講することで「学習の遅れを取り戻すことが期待される」としている。そして、オンラインで授業を受ければ、指導要録上の出席扱いにし、学習評価も行い、成績評価に反映させる方針も示されている。

 不登校でも学びは続けられる、というわけだ。しかし、「不登校の子はオンライン授業に簡単に参加できません」と疑問を呈するのは北海道教育大学講師の池田考司さんだ。

 池田さんは北海道大学名誉教授の間宮正幸さんと共同で、今年2月から3月にかけて札幌市内の中学校における不登校と別室登校の実態について調査している。別室登校とは、登校はしてくるものの自分が籍を置く教室にははいれず、学校が用意した特別な教室で過ごすという、不登校のひとつのかたちである。池田さんが続ける。

「私たちの調査では、『学習についていけないため』とか『学習(受験)圧力の負担』が不登校・別室登校の多くの理由になっていました。つまり授業についていけないから不登校・別室登校になっているわけで、そういう子たちが、オンライン授業になったからといって授業についていけるわけがありません」

 1人1台端末で授業にでられるようになったとしても、不登校の原因が解決されるわけではない。授業についていけないにもかかわらず評価されるとなれば、「オンライン授業も拒否」という新たな不登校の事態を招くのは明らかだ。不登校の解決どころか、ますます問題を深刻化させかねない。

 オンラインで不登校を解決できるという考えは、学習についていけないから不登校・別室登校になっているという肝心なところを見落としているからの発想でしかない。文科省が掲げる「誰一人取り残されない学びの保障」にはならない。不登校対策に有効とはおもえない。

|変わらない「丸投げ」の体質

 さらに、「予算づけのないプランでは不十分」と池田さんは指摘する。「プラン」では不登校対策として、現在21の設置に留まっている不登校特例校を全国で300校に増やし、別室登校のための「校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム等)」の設置促進も謳っている。

 当然、それには予算が肝心となってくる。施設をつくるにも、それを運用する人を確保するためにも予算が必要不可欠だからだ。しかし、そのための予算確保について「プラン」では何も示されていない。その部分は、自治体に「丸投げ」でしかない。

「札幌市は独自に全中学校で別室登校のための部屋は確保していますが、質・量的に、まだ、じゅうぶんな指導員が確保できているわけではありません。文科省が求める別室登校のかたちを実現するには、さらなる予算が必要です。それは、札幌市でも難しい問題です。札幌市よりも財政が苦しいところでは、別室登校の制度をつくることさえ困難だとおもいます」と、池田さん。

 予算という肝心なところが「プラン」では抜け落ちているために、不登校特例校の増設も別室登校のための施設づくりにしても、文科省が言うほど簡単には実現できそうもないのだ。肝心なところが抜け落ちているために、文科省の「プラン」は「現実味に欠ける」といわざるをえない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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